二十七日目(3) リオの事情
リオside
全く、むかつきます。メリシアの馬鹿、私に決闘を挑んできた相手がどんな屑なのか知っているんですか?あんな屑やゴミと仲良くするなど、時間と知恵の損失です。それに、取引相手ならレイが居ます。レイさえ居れば、術式の開発も何の問題も無く進められます。落ちこぼれや屑と関わってあげても、何一つ良いことは無いんですよ。
「全く、いつものことながらむかつきます……」
「リオ、大丈夫?」
レイが心配してくれています。はあ、この子以外に私の知り合いに使える人は居ませんね‥‥。
「ええ。大丈夫です。少しむかついていますが……」
「まあ、リオの気持ちも一部なら分かるかな……だって、メリシア先生はリオに喧嘩を売ってきた屑と仲良くするように働きかけようとしてたもんね……」
ええ。本当に迷惑です。‥‥レイだけです。私の事を分かってくれるのは。あんなゴミと仲良くするように言われたんですよ?メリシア本当にふざけないでください。
「それで、リオ。こんなことになったのって一度や二度じゃないんだよね?」
「ええ。これで5回目です……」
本当に‥‥ゴミと仲良くすることを推奨するなど頭が腐っていますね、メリシアは。私の事を落とすための策にしか見えません。
「他の決闘はどんな状態だったの?学科とか、相手とか……」
「水学科3回、炎学科1回、雷学科1回です。水学科は今日の決闘で3回目です」
はあ‥‥鬱陶しいですよ。本当に。
「何故か水学科が多いね……どうしてなのかな?」
「炎学科と雷学科は力試しうんぬんと言っていた気がしますし、まだ良いです。でも、水学科の生徒は屑ばかりですよ。わざとぶつかって来て因縁をつけて決闘、今日のようにしつこく屑が絡んできて二回決闘……ああ、イライラします」
ああもう、最低です。あんな屑学科と仲良くなんて吐き気がします。
「……大丈夫だよ、きっと。叩き潰せばその内居なくなるし、メリシアだって来れない時くらいあるよ、きっと」
‥‥励ましてくれてるんですね。ありがとうございます。
「そうですね。メリシアさえ来なければしつこい屑の掃除を出来るんですが……」
「今日のアレは酷いね。いくら事情を知らないって言っても、屑とリオを仲良くさせようとするなんて……」
全くです。どうして私があんなゴミと仲良くしてあげなければいけないんですか‥‥。大体向こうが悪いんですよ?対価も出さずに人の知恵を借りようとする根性、腐った思考、物言い。‥‥一回死んでください。
「あはは……あれは向こうが悪いよ。確実に。リオは悪くないからね……」
当然です。当たり前じゃないですか‥‥。
「はあ……分かってくれるのはレイだけですよ……」
「……まあ、そこまで気にしない方が良いと思うよ?だって、メリシア先生はリオの事情を知らないんだろうし、一度はっきり言ってみたらいいんじゃない?」
そうですね。一度私に絡んできた相手の素性でも教えてやりましょう。
「レイの言うとおりに一度してみましょうか。メリシアは私の話など聞いてくれませんが、話さないよりはましでしょうしね」
「一度言ってみて。それで駄目ならまた僕に相談してみて」
「はい。そうしてみます」
「うん。……ところで、術式はどうする?」
‥‥あ、しまった。‥‥レイと一緒に術式作成をするはずだったのに‥‥。私たちが居るのは食堂ですし、この後は授業があるので行けません‥‥。
「……ごめんなさい。今日はもう無理です。それに、明日も都合が……」
「ああ……そう言えば光学科は模擬戦闘大会があるっけ」
「そうです。だから……」
「……明日は無理か。仕方ないかな」
ええ。仕方ないんです。
「なので、明後日にお願いしても良いでしょうか?」
「そうだね。じゃあ、明後日に会おう」
「ありがとうございます」
まあ、術式の共同開発は明後日にすればいいですしね。
「そういえばさ、リオ」
……?
「何ですか?」
「光学科でのリオの生活ってどんな感じなの?」
「そうですね……授業を受けることと一人で訓練すること、食事をとることの繰り返しですね。だって、光学科には楽しめるような物はありません。遊べるものなど一つも無く、ただ勉強し続けるだけです。それに、周りと関わることもありません。周りとは互いに蹴落とす関係なので、信頼や友情と言ったくだらない物は一切ありません」
「……楽しめるのって訓練くらい?」
「はい、だって、私たちが集まって遊ぶことは無いですし、勉強をしなければ周りに負けて落とされてしまいます。訓練だけが自分の思った通りのことができるんですよ。模擬戦闘大会と言う例外を除けば」
「……またものすごくつまらない生活をしているよね……」
「ええ。これほどつまらない学科は他にはないでしょう。もし戦闘が弱ければ模擬戦闘大会で全員に狙われてしまいます。そこに先ほど言った勉強のシステムと蹴落とす制度もあります。仲間など作ることは出来ないですし、作ろうとも思いません。更に、そんな相手に技術をただで教えたらどうなるのか、容易に想像がつきます」
「まさに、使い捨てと一方的な損失だね……」
「ええ。まさにその通りです。彼らも私も、一方的な技術提供などは出来ません。それに、勉強を教えるなどの行為も不必要です。やらなかったら、理解できないのなら、それは自分が全て悪いんですから。そこに餌を与えてしまうと、友達を免罪符に食い物にされて捨てられることしか待っていません」
「……嫌なところだね」
「そうかもしれないですね。だって、協力や友情とは無縁の世界ですからね」
数少ないお人よしが他人に技術を食い尽くされて捨てられた光景も見ましたし。使い捨てにされた人はそのまま模擬戦闘大会で潰されて落ちこぼれ学科に編入されるでしょうね。だって、自分の時間を他人にあげたうえ、技術まで差し出したんですから。出来る子は食いつぶされる可能性を常に警戒しなければならない。それが、光学科の暗黙のルールです。
「それじゃ頼まれても教えようとも思わないか」
「ええ。当たり前です。対価も無いのに勉強や術式の技術を教えるなど、馬鹿馬鹿しいですし、損害しか生まないのでやりません」
「そこに入っていたら、ますます人間不信になっていたかも……」
「ふふ、使い捨てにされないように気を付けてくださいね」
「そうする……」
「……そろそろ、行かないといけませんね。レイ、明後日に会いましょう」
「うん。じゃあ、明後日に風学科の訓練室に来て」
「はい。それでは」
‥‥レイと話すのは楽しいですが、私は光学科です。完全に信じてあげることは出来ないでしょうね。レイがどう思っていようと、それを無条件で受け入れるには対価が欲しくなってしまいます。
「ふう。……どうしようもないでしょうね。こればかりは」
考えても仕方ありません。とりあえず授業に出て、メリシアに話をしなければ‥‥。どうせ私の話など聞かないうえにふざけた理論と権力で黙らせるのでしょうが、私に絡んでいるのが全て屑だと気付いていないかもしれないですしね。私に絡んでいるのが屑だと知ったら考え方を変えてくれるかもしれません。屑嫌いのメリシアなら、特例でも出してくれるかもしれません。屑を叩き潰すことを認めていただければ、模擬戦闘大会で使えるサンドバッグが手に入るんです。話してみましょう。
ーーーー
「メリシア先生、少しよろしいですか?」
まあ、無駄だと思います。でも、話してみます。
「リオ!?あなた、どうするつもりなの!」
「何がですか?」
「決闘の対価を一方的な絶縁にして叩きつけたのは良いです。ですが、それでは」
「メリシア先生。一度私の話を最後まで聞いてくれませんか?その上で、考えてください」
「……?……分かりました。話してみなさい」
「まず、私に喧嘩を売ってきた水学科の生徒は、屑……ここで言う落ちこぼれにあたる者です。それに、彼らは自分たちよりも弱い者を力で従えるだけの存在です。こんな人たちだと分かってもなお、メリシア先生は私に彼らと仲良くしろと言いますか?」
「何ですって……それは事実なんですか?」
「はい。水学科の生徒二人は自分たちがいじめに使っている別の生徒を最初に私に差し向け、それが断られると自ら出向いて私を食い物にしようとしたんです」
「何てこと……それが事実ならば、私はとんでもないことをさせようとしていたんですね……ですが、他の学科と問題を起こすわけには……」
これは意外だ。でも、やっぱり他の学科と問題を起こしたくはないみたいですね‥‥。
「……事情は分かりました。そんな相手とあなたが組むことを私も良しとはしません。ですが、それでも、他の学科との争いは教師として止めなければならないのです」
はあ‥‥。やはり駄目か。そう思っていました。次の言葉を聞くまでは。
「ですが、そういう者を粛清する事でメリットもありますね。……少し時間を下さい。模擬戦闘大会に引っ張り出してみることを検討してみます」
「本当ですか!?」
ああ、それが本当に叶えば私がわざわざ光学科の生徒を叩き潰す必要も無い。むかついた相手を適当に放り込んで粛清できるのならば、これ以上の事は無いです。
「ええ。光学科の生徒に伝えてください。もしかしたら、他の学科の不良生徒を模擬戦闘大会で叩き潰せるかもしれませんと」
「分かりました!」
ああ、すごく嬉しい。まだ実現すると決まっているわけではないけど、これが実現したら気に入らない奴を全て叩き潰せるんだ。サンドバッグを沢山貰えるかもしれないなんて、夢のようです。
「なるほど。通りで皆嫌がったわけですね……私が余計な事をしていたとは。これからは相手の素性を調べてから生徒に言わなければいけませんね……」




