二十五日目 職員会議
第三者side
生徒たちが授業を終えてくつろいでいる時に教師たちは集められていた。職員会議があるので集められたのだ。会議を提案したのはメリシアである。
「では、本日の職員会議を行いたいと思います」
メリシアが会議の始まりを告げる。
「今回は、2つの提案をしたいと思って、皆さんに集まっていただきました。まずは、生徒に強力な魔法を作らせないことです」
「これについてはわしから言わせてもらおう。メリシアに提案したのはわしだからな」
ドグラがメリシアの言葉を引き継ぐように話し出す。
「まず、わしがこのような提案をしたのには理由があるのでそちらから話させてもらおう。……これを提案したのは、生徒が強力な魔法を覚えることによる問題点があるからだ。例えば、今日の風学科の生徒のように、クイックを覚えたとしよう。今回はたまたま2秒を1秒にしたといった感じであったために大した事は起きずに終わったが、もしこれを1000秒、10000秒単位にされていたらどうなるか、想像できるか?今は2秒でも、未来にどのような恐ろしいことが起きるか、想像できんぞ?」
ドグラはレイの覚えたクイックを引き合いに出してきた。
「まあ、言いたい事はよく分かるよ。仮にレイがそういう性格で、かつ身体が成長していたらクイックでどんな恐ろしいことをするのかは容易に想像がつくしね。しかも止められない」
ドグラの言わんとすることは理解出来たセフィナ。実際、レイの性格が異常だった場合、クイックをどんな恐ろしいことに使うのかは想像もできない。レイがそういう事に興味がなかったり、クイックを2秒にしていたのはある意味救いだった。
「セフィナ。さすがに、今回は擁護もできん。トルネードやサンダーボルトで済めばいいが、クイックだけはさすがに不味い。あれは、使い方次第でどんな恐ろしいことにも使えてしまう」
セフィナとよく似た考えのクライズも、さすがにクイックは認められない。それだけ恐ろしい魔法なのだ。
「だよね。……さすがに、あれは不味いか……」
クライズまで反対してくるため、さすがのセフィナも不味いと考える。
「セフィナさん、あれをそのまま放置した場合、数年後にどんな恐ろしいことになるのか想像できませんよ?」
メリシアの言うとおり、レイがこのまま成長したらどんなことを始めるか想像もできない。秘匿技術として戦闘での切り札に使っているだけならまだしも、これを犯罪に使われたら恐ろしいことになってしまう。
「うん……さすがに、魔力がまだないから大丈夫とか言うのは無理だよね……。そんなの、成長したらどうなるか分からないし……」
「いや、でもさ、実際の魔力が足りない状態ならば問題なくね?いくら強くても使えなければ意味が無いんだ」
フレイの言う通りでもある。いくら強力でも使えなければ意味は無い。だが、実際にクイックを使ってしまったのだ。10000秒単位は当然無理だが、現状でもレイが頑張れば20秒程度までなら出来そうである。ただ、そこまですると当然魔力切れを起こすだろう。
「フレイの言うとおりだけど、それは今だけの話だよ?今はレイも魔力が少ないからクイックを使える回数や秒数は少ないけど、これは数年後のレイの状態も考えてるんだよ?6年後、レイの魔力がどうなってるのかが分からないけど、仮に600を超えると不味いよ。600全部つぎ込んだらクイックで1000秒を周りの1秒に出来るから」
そう。これは今のレイの話ではない。今のレイなど、せいぜい数秒単位でしか作れないだろう。なので、今はセフィナがクイックを使ってレイを追いかければいい。だが、卒業したらどうなる?魔力がもっと上がるとどうなる?そういう未来の話をしているのだ。
「私としては、やはり本人に危険な魔法だと言う事を説明するべきです。その上で、封印するなり……」
メリシアはレイに説明し、その上で封印するべきだと主張した。
「わしとしては、封印したうえで忘却させるべきだ」
ドグラは、クイックを封印したうえで、クイックの存在を忘却させるべきだと言った。
「おいおい!封印だけならまだしも忘れさせるって……」
「……まあ、二人の言いたいことも分かるよ。私だって、そんなクイックを作り出されたら追いかけるのも一苦労だしね。でも、封印や忘却はやりすぎじゃない?改良をさせないように話して、2秒や3秒、長くても5秒の物で止めさせるべきだと思う」
セフィナ自身もクイックの恐ろしさは分かっている。だからこそ、無闇な改良をさせないようにするべきだと主張した。
「だが、どうするのだ?それで聞いてくれない場合、どうする?」
「そうですよ。それに、秘匿にしているのでしょう?だったら、勝手に改良するかもしれません」
二人の反応はまあ当然である。レイが言う事を聞かない場合、どうするのか。それは何よりも重要な問題である。
「……その時は、私がレイのクイックを封印する。そして、二度とクイックの事を思い出させないようにする」
「良いのか?そんな無茶をする気か?」
セフィナ自らレイに封印をかけると言い出したことを心配するクライズ。
「うん。こういう時に責任を取るのも放任主義だからね。ドグラ、メリシア。これで良い?」
セフィナは自らレイを説得し、最悪な場合は封印することを示した。
「……なら、私には意義はありません」
「おまえが見逃していた場合、わしが直接封印する。忘れるな」
「なら、私がやるわ。……クイックの話はこれで良いよね?本題に戻さない?」
いつの間にかレイのクイックの話になっているため、脱線を戻すセフィナ。
「む、そういえばそうだな。それで、強力な魔法を作らせないという話だが……生徒間の格差が開かないようにとも考えているのだ。いくつかの学科の何人かの生徒が術式を学んでいるようだが、その生徒と他の生徒の格差が広がってしまっている」
ドグラの言うとおり、炎学科や水学科、雷学科、氷学科では生徒の格差が広がり始めていた。そもそも勝手なことを禁止した土学科、元々一人しかいない風学科、参加者一人だけの光学科、そもそもそういう体質の闇学科以外の4つの学科は、じわじわと格差が広がっていたのだ。
「その件はさすがに私にはどうしようもないよ?それをどうにかするのはフレイやウォルトの方だよ」
セフィナにはこの件は関係ない。セフィナの風学科は元々レイしかいないのだ。
「俺か?俺は別にそれでもいいけどな……」
フレイは別にそのことを気にしてはいない。そもそも炎学科自体がそういう事を気にしない学科だからだろうか、問題も全く起きないのだ。
「僕の雷学科も、そもそも魔法機械の扱いがメインだし、別に問題ないよ」
ウォルトも、フレイと同様の意見だ。実際、雷学科には深刻な問題は全く無い。
「私の学科も、そのことで何かしらの問題が起きていると言う事は無いわ」
リリスの氷学科も、同様である。フレイ、リリスの学科は元々クラスの結束も強いためにそのような問題が起きず、ウォルトの雷学科も魔法機械を使う事と術式の格差が結びつかないため、気にはなっていなかった。
「アリエス?そっちは大丈夫なの?」
セフィナが問いかける。水学科の教師アリエスは、ただ無言でうなずいた。
「……問題が無いならそれでもかまわん。だが、生徒の格差の拡大によってトラブルが起きないように、見張っていてもらおうと言いたかったのだ」
ドグラはそれだけ言うと、座って黙ってしまった。彼の土学科は誰一人外には出ていない。そのため格差を減らすということは彼の学科を有利にすることでもあったが、それは上手くいかなかった。だが、トラブルが無い以上強制はできない。
「それで、他にもあるんだよね?それって何?メリシア?」
セフィナがメリシアに最初の話は終わったので次の話を聞かせろと暗に催促した。
「ええ。そっちは、あなた個人の問題です。セフィナさん、生徒にヨハン霊薬を飲ませましたね?その事です」
「げ!?もう終わったじゃん!」
セフィナがこの前レイとリオに飲ませた薬の件である。
「終わっていません。もしヨハン霊薬の後遺症であの二人がおかしくなったらどうするつもりだったんですか?」
「おいおい……。さすがにそれはお前が悪いぞ」
ヨハン霊薬の危険性を知っていて「面白いし、生徒の生恋愛を見たい」なんて理由で飲ませたのである。クイックと違い、これはもう擁護すらできない。どう見てもセフィナが悪い。
「セフィナ先生の元からヨハン霊薬の素材を取り上げることと、二度と買わせないこと、これが二つ目の議題です」
「ええ~!」
「この件に異議がある場合、セフィナ先生以外なら聞きましょう」
「ちょっと!どうしてそうなるのよ!」
「……あなたは、生徒を玩具にでもするつもりですか?もし最初の段階で飲ませていた場合、あなたは自分の生徒と関係を持つことになっていたんですよ?」
「……げ!そういえば、そうなる可能性もあったんだ……」
そう。最初の段階でレイが飲んだ場合、ミリアとセフィナのどちらに恋をする効果が出るかは分からなかったのだ。そのため、最悪10歳の生徒とセフィナがそういう関係になることもありえたのだ。
「では、セフィナ先生からヨハン霊薬の素材を取り上げることについて、異議のある方はお立ちください。セフィナ先生以外でですが」
当然、誰一人として立たない。‥‥この件は、セフィナの自業自得である。
「満場一致で、あなたの元からヨハン霊薬の素材を没収することと今後の購入禁止を決定しました」
そして、セフィナの持っていたヨハン霊薬の素材は全て押収されてしまった。しかも、今後購入することは一切出来ないというおまけつきである。
「ああもう!どうしてそうなるのよー!」
霊薬を取り上げられたセフィナの叫びだけが響いていた‥‥。
ーーーー
その日の夕食後、突然セフィナに教室に呼び出されたレイ。
「……セフィナ先生?」
「レイ。クイックの事で話があるの」
「クイックですか?」
「そうよ。……クイックを使っても良いけど、秒数を改良したら駄目」
「……どうしてですか?」
「レイ。たとえば、10000秒を周囲の1秒にした場合、何が出来ると思う?」
「え?……えっと……」
レイも考えるが、多すぎて答えは出ない。否、出せない。あまりにも多すぎる。
「とにかく多いでしょ?それは、人間がやっていいものじゃない。レイがそれを改良することは絶対に許されないの」
いくらレイが努力や術式の改造が好きでも、これをやってはいけない。そのことはセフィナもしっかり説明する。
「は、はい……確かに、これを強力にするのは不味いですよね。今でこんな状態なのに、それをもっと強くしてしまったら……」
先ほど考えた「出来る事」全てを出来るようになるのは凄い。だが、それはやってはいけないのだ。
「でしょ?それを自分が持っていることがどういう事か分かる?レイ」
それを考えたレイの顔がみるみる青ざめる。クイックは本当に恐ろしい魔法なのだ。
「……不味いですよね」
「うん。でも、改良しなければまだ大丈夫。そして、使っていいのは戦闘だけ。こうすれば、大丈夫だから」
セフィナが言ったのはこれ以上の改良の禁止と戦闘以外での使用禁止。こうすれば、レイも日常でこれを使う事は無いだろう。戦闘での使用を止めなかったのは、セフィナなりの優しさだろうか。
「はい……分かりました……秒数はもういじらないようにします。4秒までできますが、これ以上クイックを改良しません。それに、戦闘以外では絶対に使いません」
レイはあれからクイックを作り直して、解除機能のほかに秒数も変えたのだ。まだ最大4秒だったとはいえ、これをもっと伸ばされるわけにはいかないのだ。
「うん。……もう、いじっちゃ駄目だよ?」
レイに約束させるセフィナ。口調は優しいが、有無を言わせないことはセフィナの目が物語っている。
「……はい」
「よし、じゃあ、それだけだから。お休み」
「はい。失礼します」
話が終わったので出て行くレイ。
「ふう。メリシア、これならいいでしょ?」
セフィナが言うと、メリシアが教室の外の廊下の陰から出てきた。ずっと見ていたのだ。
「……まあ、あなたが言った通りに守ってくれるならば、私は何も言いません……ドグラにも伝えましょう……」
「ただ封印するのもいいかもしれない。けど、その力の事をちゃんと理解させたうえで考えさせるのも大事だと思う。それが私の考えだから」
「……そうですか。では、私はこれで……」
メリシアも戻っていき、また廊下と教室に静寂が戻ってきた‥‥。




