二十六日目 ピール秘薬
第三者side
「レイ。今日もよろしく」
「うん。それはいいけど、一ついいミリア?」
今までなんとなく気になっていたことを聞くレイ。
「何?」
「ミリア、口調変わった?最初のおとなしい感じの話し方はどこに行ったの?」
そう。最初のミリアは凄くおとなしい口調だったのに、今は普通に喋っている。
「え?……あ」
今気づいたというような反応のミリア。
「……まさか、演技だったの?」
「ううん。違う。ただ、ちょっと人見知りしたりして……」
実際、ミリアは人見知りをするタイプで、初対面の人と話すのは苦手である。
「そう。……そろそろ始まるね」
「うん、今日はどんな薬が出るのかな?」
「さあ……そろそろ安全な薬が出てほしいけど……」
「そういえば、あの後薬を飲んだの?」
この前の薬を飲んだのか聞いてきたミリア。
「……飲んだよ。ヨハン霊薬なんて二度とこりごり」
悪夢の薬の名前に、表情が曇るレイ。
「くだらないって言ってなかった?」
「くだらないどころか、最悪の薬だよ。目の前の異性に一目惚れさせて、最悪結婚させるなんて……」
レイにもその恐ろしさは身に染みていた。リオと互いに好きでも無いのに愛し合う恋人のような事をしかけたのだ。あの霊薬はまさにトラウマ級の物だ。
「ええ!?そんなに危険なの!?……あの時飲まなくてよかった……」
もし最初の段階で飲んでいた場合、ミリアとレイはどうなっていたのか想像もできない。
「全くだよ。どうなっていたのか分からないもん」
「それで、セフィナ先生はどうなったのかな?」
「メリシア先生に怒ってもらったし、多分セフィナ先生もヨハン霊薬を持ちだすことは無いよ」
ヨハン霊薬の素材は全て没収されたので、セフィナがヨハン霊薬を作ることは出来ないだろう。
「そっか、なら安心だね。……そろそろ始まるね」
そして、レイとミリアは薬学の授業に耳を傾けた‥‥。
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「今日も居るのか……」
「おい、あいつらまだいるぞ」
「いい加減に出ていかないのかな」
光学科の薬学の授業が始まる前、教室ではこんな会話が行われていた。その会話の対象である「あいつら」とは、言うまでも無く落ちこぼれ学科である。6人一組で常に行動する彼らは、この光学科の生存競争に勝ち残るために自分たちだけで頑張り始めたのだ。
「はあ、忌々しい」
「光の令嬢と従者にまた掃除してもらおうか」
「誰かアレを潰せる面白い人居ないのかな……」
周りの目は当然冷たい。何故なら、彼ら6人は落ちこぼれ学科。自分たち光学科には要らない存在である。自分達は選び抜かれた存在。彼ら落ちこぼれとは格が違う。そういう意識を持っていた。
「ふう……レイにでも会いに行きましょうか。長期的に発動する術式を作るのは一人じゃ難しいですしね。彼と一緒にやることにしましょう」
リオはどちらにも無関心なまま、自分の予定を考えていた。その時、メリシアが入ってきた。
「……まだ諦めていないんですね……まあいいです。では、授業を始める事にしましょう」
メリシアは落ちこぼれなど気にも留めず、授業を始めた。
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「ふーん……まだ居るんだ」
「居る?何が?」
「落ちこぼれ学科の生徒。まだ光学科に居るんだって」
レイにとってはまさに因縁の相手。叩き潰したからもうレイには関係ないのだが。
「ある意味すごいね。確か、上がってきても光学科の模擬戦闘大会で叩き潰されてすぐにやめるって聞いたけど……」
「しぶといんだよね。何故か」
そう。何故か光学科に残っている。明らかに不自然だが、彼らは残り続けている。
「でも、おとなしいならいいと思うけど……」
「まあ、向こうにしてみればそういうわけにはいかないんだよ……」
自分たちの中に群れなければ何もできない者が混ざっている。これは納得いかないようである。
「……そうなんだ」
「そろそろ説明が始まる。聞こう」
二人はメリシアの言葉に耳を傾けた‥‥。
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「さて、それでは、教科書30ページを開いてください。ピール秘薬です。ピール博士が作りました。これは、その根源たる物質であるピール物質A、ピール物質Bから成り立つピール物質Cと、生成の異なる根源物質であるピール物質D、ピール物質Eより成り立つピール物質Fから生成される秘薬です。この秘薬の効果は、その特殊たる力で体内の異常な状態を改善します。さあ、まずはこれを覚えなさい」
久しぶりにメリシア説法を聞いたので、纏めるレイ。
公式
C+F=X
A+B=C
D+E=F
X=ピール秘薬 別名 異常回復薬
A=炭素
B=水の魔力
C=リカバー草
D=炭素
E=風の魔力
F=キュアハーブ
相変わらず短い内容を無駄に長くするメリシアだが、今回は何故か短かった。まあ、その理由はもう一つが異常に長いせいなのだが‥‥。まさに嵐の前のなんとやらである。
「纏めましたね。ではこれからが本番です。ピール霊薬です。これは、新暦129年3月29日13時38分28秒47にその作成法がピールによって纏められ、世界に発表された物です。これは、根源たるピール物質が8つ存在し、まずはそれから説明していきましょう。根源たるピール物質1はその根源を炭素と水の魔力より構成しています。続いて、ピール物質2ですが、これはその根源を炭素と風の魔力より構成しています。そして、ピール物質3です。これは、その根源を水と炭素と闇の魔力より構成しております。続いて、ピール物質4です。これは、ほとんど炭素のみで構成された珍しい物質です。たしか、木を使って作りました。続いて、ピール物質5です。これは、その根源たる物質を光の魔力と炭素で構成しています。そして、ピール物質6です。これの根源物質は、同じく光の魔力と炭素でできており、日の光を欲します。そして、ピール物質7です。これは、雷の魔力と水と炭素からできています。最後に、ピール物質8です。これは、氷の魔力と水で出来た不思議な物質です。さあ、これを覚えてもらいます。制限時間は20分です」
ピール物質1=リカバー草
ピール物質2=キュアハーブ
ピール物質3=魔力ダケ
ピール物質4=木炭
ピール物質5=ルナハーブ
ピール物質6=サンハーブ
ピール物質7=雷草 (いかずちそう)
ピール物質8=氷
ピール霊薬‥‥身体の状態を回復させる霊薬の1つで、回復の霊薬の上位種にあたる。これを使うと、一気に体力が回復するほか、魔力や身体の障害もたちまち回復するという。
最初の物が短くて油断した所に強烈な一撃を受けた光学科の学生の大半は思考停止してしまった。それほどにこの丸暗記は難しく、無常なのである。少しでも油断すれば一文字間違えて大幅に減点されてしまうのだ。しかも、これを毎日(光魔法と薬学両方でやっているため)させられている。これだと否応なくストレスもたまるだろう。
「うわあ……初級魔法をガードして油断した所に上級魔法を叩き込まれたような感覚だ……」
「せめて、順番が逆なら……」
このメリシアの教え方によってまた光学科に阿鼻驚嘆の叫びが響き渡ることになってしまう。
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「いや~、これはまた酷いね……順番逆にしようよメリシア……」
「先生。さすがに二つとも作る時間は……」
ミリアには他にも予定があるため、二つ作る暇は無かった。
「まあ、大丈夫だよ。こっちも、二つ目の薬、ピール霊薬の素材は無いから。1つしかしないと思って持ってきてなかった」
そう、メリシアは二つも進めたが、これはセフィナには想定外であった。そのため、ピール秘薬の素材しか持ってきていない。つまり、リカバー草とキュアハーブしか無いのだ。
「じゃあ、今日はリカバー草とキュアハーブを使って、ピール秘薬を作ってもらいます。この二つの草をすりつぶした物に湯をかけ、成分だけをろ過して作ります」
そう言ってセフィナは、黄緑色のハーブと青緑の草をレイとミリアに手渡した。それらをあらかじめ用意されていた入れ物に入れる二人。
「じゃあ、この二つの草をすりつぶしてください」
そう言ってセフィナが渡してきたのは細い角材のような四角い棒。それで入れ物の中のハーブと草を潰すのだ。早速取り掛かるレイとミリア。ハーブと草がすりつぶされ、徐々に不思議な香りが漂う。嗅いでいると疲れが癒されるような感覚がしてくる。
「どう?キュアハーブの香り、なかなかでしょ?キュアハーブは煎じて飲めば風邪薬にもなるんだよ?」
セフィナがその香りの原因であるキュアハーブの効果を説明する。キュアハーブは風の魔力を含むため、香りが強い。そして風が大半の時間吹く場所に群生する特性を持つ。風の魔法で一日中風を起こせばどこにでも根付いて増える特性で栽培も非常に簡単である。
「そうなんですか?」
レイが尋ねる。風邪薬にもなるハーブ。そのイメージがはっきりしなかったのだ。
「ん。よし、二人ともそれで止めて。今から、これでろ過してみて」
セフィナが二人の前に置いたのは、上にレイやミリアの作った草をすりつぶした物を置き、下にある入れ物にろ過した湯を注ぐ魔法機械であった。上の部分は底の部分に穴をあけてひっくり返した、いわば逆ピラミッドのような形をしており、そこに草や素材を入れてから湯を入れると、下に置いた入れ物に湯が入ってろ過できる‥‥そういう仕掛けになっている。魔法機械の特性上、余計な物は一切通さない。いわば、超強力なフィルターであった。ちなみに、下の部分は入れ物を置く場所になっており、安全のために一時的な保存タンクも付いている。保存タンクと入れ物を置く場所、上部の逆ピラミッドを囲むように覆いがついて囲っているため、青色の四角い箱にも見える。
「これは?」
思わずミリアが尋ねる。初めて見る物体に興味津々である。
「魔法機械の一種、フィルタ。主に、薬草やハーブの成分の抽出に使われるろ過装置ね。これを動かすのに必要な雷魔力は1よ」
魔法機械「フィルタ」…ろ過装置が無いため薬草の成分抽出に困ったピールが友人の技師に頼んで作らせたのが始まりとも言われている。当時は入れ物に入れた薬草やすりつぶした粉をろ過する際、入れ物に紙と一緒に入れて直接湯を入れる方法を取っていた。これではうっかり紙が破れたり湯をこぼした時に大変なため、作らせたとも言われている。
「じゃあ、これを入れればいいんですか?」
レイが指さしたのは赤い入れ物に入った湯気を立ち上らせている湯であった。
「そうだよ。熱いから気を付けてね」
「はい」
レイはその赤い入れ物を持つと、あらかじめ上部に入れた緑の粉末目がけ、一気に流し込んだ。緑色の粉末から色が無くなり、あらかじめセットされていた機械の下の入れ物に流れ込んだ。その入れ物の中の液体は、澄んだ緑色をしている。これがピール秘薬であった。
レイが上下にセットされた入れ物をどけるとミリアが別の入れ物をセットし、レイと同じように湯を粉末に流し込んだ。こちらも、無事にピール秘薬を作ることができたようである。
「はい。これで実験は終了。そのピール秘薬も適正な量にして渡すからね。それと、前々回の回復の霊薬を渡すね」
小分けにされた回復の霊薬を二人が受け取り、実験は終了した。




