二十一日目 模擬戦闘大会
第三者side
レイは昨日のリオとの約束通り、朝食を食べたらすぐに光学科の方に向かっていた。魔力の色は白に変え、結界で弾かれないようにしておいた。そして、何の問題も無く白の塔へと突入する。中では、とりあえずリオと行動することにしていた。
「レイ、おはようございます」
「リオ、調子はどう?」
「ふふ。問題ないですよ。やっと湧いてきた者を掃除できるんです。調子が良くないわけがありません」
「そうだよね。僕も、あの後完成させたサンダーボルトをあいつの顔に叩き込みたくてうずうずしてるんだ」
「ふふ。いくらでも撃たせてあげます」
物騒な会話をしながら、二人は試合の会場に移動していった。
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「おい!初戦の相手はたったの二人かよ!」
「楽勝よね!負けるはずがないわ!」
「たった二人とか、レイに誰かがついたようなもんだな!」
「ああ、あんな勉強馬鹿には友達なんて要らないしな!」
「絶対に勝つわ!楽勝よ!」
「当たり前だな!」
対戦相手の落ちこぼれ学科は油断していた。たった二人とはいえ、その二人はいずれも恐ろしく強い相手だったのだが‥‥。
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「さあ、栄光ある光学科模擬戦闘大会!最初の戦闘は、たった二人で六人に挑む凄まじい戦闘だ!」
その司会の叫びに、観客同然の光学科の生徒は様々な反応を示した。あるものは二人で挑むなど馬鹿だと鼻で笑い、あるものは数に負けずに無双すると予想し、またあるものは落ちこぼれの惨敗を願っていた。
「さあ、まずは今回初挑戦にして落ちこぼれ脱却を狙ったダークホース!その名は、イビル・アルティメットダーク・スーパーヒーローズだ!」
無駄に長いチーム名をつけた落ちこぼれ学科もとい、イビルチームが登場した。イビル、グラス、ダース、ジョー、メイ、ヒルダの6人組の登場である。
「そして、こちらは、なんとたった二人での参戦だ!その実力は未知数!光の令嬢リオに連れられてきたのは、一体誰なんでしょうか!」
リオに腕を引かれて一人の男の子が現れた。光学科にリオの友達など居たのかと皆が疑問に思ったが、リオは平然とその子と話しているため、誰も気にはしなかった。
「ふふ。いよいよですね」
「ねえ。光の令嬢って……」
「ああ、この銀髪と光魔法の腕前から勝手につけられたあだ名です」
「しかし、まあ。相手はあんな恥ずかしい名前をよくつけられること……」
「まあ、痛い子なんですよ、きっと」
「時間が終わるまで、ボコボコにしてもいいよね?」
「もちろんです」
リオとレイのチームがイビル達の前に立つ。圧倒的な戦力差があるのだが、誰も気づかなかった。
「さあ、準備は良いか!?始まったら、時間が終わるまでギブアップしても逃げる事は出来ないぞ!制限時間は5分だ!」
「ああ!さっさと戦わせろ!」
「ええ。早く戦わせてください」
両者が承諾したので戦闘が始まる。そして、模擬戦と言う名の公開処刑の火蓋が切って落とされた‥‥。
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「じゃあ、行くよ!まずはこれをお見舞いだ!セイントサンダーボルト!」
開幕いきなりレイの魔法が発動する。雷魔法サンダーボルト。標的の頭上から強烈な稲妻を落とすことで攻撃する魔法‥‥とされているが、レイの改造術式では効果が違っている。レイ自身の手から正面に拡散する電撃を放つ魔法になっており、その射程は異常に広い。そのため、訓練室のような平坦な場所では無類の強さを発揮する恐るべき魔法になっていた。ちなみに、セイントと入れているのは雷魔法を光魔法の一種だと思わせるリオの作戦である。
放射状に広がった雷が瞬く間に6人を貫く。無防備にも長い詠唱をしていたため、直撃を受けた形になった。
「ぐああああ!」
「きゃああああ!?」
「ぎゃあああああ!」
「うああああ!」
「がああっ!」
「ぎええええ!?」
直撃を受けた6人は倒れる、が、そこからがこの試合の本当の始まりであった‥‥。非殺傷結界で死なないため、オーバーキルすら許されているのだ。つまり、彼らはこの瞬間にサンドバッグになってしまった。
「さて、一人ずつこのセイントサイクロンで薙ぎ払っていこうか」
「いえ、せっかくなので、時間が終わるまでたっぷり攻撃しましょう」
「そうだね。じゃあ、こっちでいいか。セイントウィンドボム」
ドオン!
「ぎゃああああああああ!?」
風の爆弾の直撃を受け、爆風で吹き飛んだイビルが苦悶の叫びをあげる。だが、それはまだ序曲に過ぎなかった。
「おっと、オーバーキルだ!さあ、これから時間が来るまで、一方的に攻撃されてしまうぞ!この大会最初の試合で、早くもお楽しみタイムの登場だ!戦闘終了と判断されて勝者の魔力は無限に回復する!さあ、栄光ある勝者よ、敗者を徹底的に叩き潰してくれ!」
その瞬間、沸き立つ光学科の観客。何故なら、この模擬戦闘大会において最も人気が高いのがこのオーバーキル時間、通称サンドバッグタイムである。
「何だと!動けない側を殴るってのか!」
「当たり前じゃん。そのためにわざわざここまでしたんだよ?」
「落ちこぼれには用はありません。見苦しいので、これに懲りたらさっさと出て行ってくださいね」
「な、止めろ!ま「セイントサンダーボルト!」のおおおおおおおお!!」
レイの右手から電撃が放たれ、イビルを包み込んだ。直接電撃を流されたイビルの身体はビクビク痙攣しているが、誰も助けない、助ける必要が無いのだ。そう、光学科では、この模擬戦闘大会には暗黙のルールが存在する。それは、時間が終わるまで観客は誰も手出しはしないというルールであった。
「が!ああ、た、助け「セイントウィンドボム!」ぐおおおおお!!」
イビルはレイにこれまでの恨みとばかりに徹底的に魔法で狙われていた。顔を狙って緑の爆弾を叩き込まれ、吹き飛んだ先でまた電撃を流される。これをひたすら繰り返されていた。
「な、なんなんだよお前!俺に何か恨みでもあるのか!?」
イビルが叫ぶ。本当はイビルへの恨みは腐るほどにあるが、今のレイはリオの仲間としてふるまっているため、そのことは言わない。
「恨み?何それ?今日はたまたまあの子がゴミを掃除するっていうから手伝ってあげるの。優しいでしょ?」
リオの手伝いとして参加しただけである。そのことを強調するレイ。
「な、ふざけんな!誰がゴ「セイントウィンドボム!」ぎゃあああああ!」
また転がっていくイビル。身体は非殺傷結界で守られて無傷でも一方的にやられてプライドはズタズタである。そんなイビルを光学科の生徒は笑いながら見ていた。
「ああ、そんなところに逃げたら……」
レイがイビルの移動した先を見ると、ジョーがイビルにぶつかられて怯えていた。まだ彼らは電撃のダメージから回復していないのだ。
「さーて、ゴミ掃除だね!セイントボルケーノ!」
その瞬間、イビルとジョーは突如噴き上げた真っ赤な溶岩に飲まれた。所詮魔法で作ったために温度は低いが、それでも灼熱のマグマは非常に強力であった。この模擬戦では死なないためにより質が悪かった。
「「ぎゃああああああああ!!」」
二人の絶叫を聞いても動じず「もっとやれ!」「痛めつけろ!」「その調子だ!」とレイの攻撃を支持する光学科の生徒たち。そう、この模擬戦では負けたものは時間が来るまで非殺傷結界の効果で回復し続ける勝者に一方的にいたぶられる運命にあったのだ。そこに優しさなどという物は存在しない。ただ、気に入らない奴を強者が叩き潰すための場所。それが、この模擬戦闘大会なのであった。ちなみにこの模擬戦、メリシアもたまに見に来ているが、絶対に止めない。何故なら、メリシア自身が外れを引き抜いても勝手に生徒の方で掃除してくれるのだから。今日のように。
授業にも交友関係にも楽しみなどまず無い光学科の生徒が先日の非殺傷結界の設置を受けて考案したそれは、光学科では非常に人気であった。何せ唯一の娯楽だからである。弱者を追い落とす体質の光学科には非常に人気が高く、これの見物の時は普段ずっと対立している者達でも仲良くなるほどである。
そして、落ちこぼれ学科の者たちはその「弱者」であった。一方的な暴力に抵抗も出来ずにされるがままになっている彼らの姿は、まさに光学科の生徒の笑いの種であった。彼らは、自分の方が強いと実感することを何よりも好むために、この戦闘の際に出てくる「弱者」はまさに的であった。
「おっと、このサンドバッグタイムは後1分だ!さあ、フィニッシュを見せてくれ!」
ちなみに、レイが一方的にイビルを攻撃している間、リオは他のメンバーを魔法で狙い撃ちにして遊んでいた。
「あと一分?そう、じゃあ、とっておき、見せてあげる!」
レイが詠唱を始めた。レイはサイクロンを更に強化したもので止めを刺すつもりだ。
「魔力、力となりて宿れ!マジックブースト!」
リオの魔法がレイを包んだ。マジックブーストはかけた直後だけ魔法の威力を上げる魔法である。もちろん、これには非殺傷特性をつけたので、事故は起きない。
「セイントトルネード!」
レイが放ったのは魔力コストを4に上げたトルネードである。これはサイクロンの特徴に加え、魔力コスト1個分を威力に特化してみたもので、アルの魔法のアイデアを基に昨日作ったものである。それが、リオのマジックブーストの効果で更に威力を上げられ、破壊の権化と化して6人を襲った。トルネードと同じ大きさながら高速で移動する白い竜巻は瞬く間に6人の落ちこぼれを飲み込み、その中で切り刻んでいく。6人の絶叫が響き渡る中、レイとリオは時間が来るまでその様を眺めていた。
「これは凄い!確実にフィニッシュだ!この竜巻が終わった後、二人の勝利が決定する!」
その瞬間、観客の歓声が上がった。先日上がってきた落ちこぼれ学科をこんなに早く叩き潰したのだから。もう彼らにはここで学ぼうなどと思わないくらいのダメージを与えたのではないか?そういう思いを持った者達の大歓声が上がる中、白い竜巻はその役目を終え、落ちこぼれを解放してそのまま地に落とす。六人は非殺傷結界のおかげで体にはダメージは無いが、心の方はボロボロになっていた。なにせ、一方的にやられ続けたのだから。
「勝者、光の令嬢と従者!」
その声と共に、割れんばかりの拍手と歓声が上がった。リオとレイは足早にその場を離れ、光学科の塔に戻った。だが、これからが落ちこぼれ学科の真の地獄の始まりだった。ストレスが溜まっていて弱者をいたぶる光学科の生徒は多い。そんな彼らにとって、動けない彼らはどう映るのか‥‥。
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「ふふ。やりましたね」
落ちこぼれ学科を叩き潰した二人は、他の試合を辞退して塔の方に戻ってきた。生徒は皆模擬戦の方に行っているので彼ら以外には誰も居ない。
「ああ、本当にすっきりした!6年分、きっちり返してやったよ!」
「光学科も、悪いところではないでしょう?」
「そうだね。これは良い物だと認めても良いかも」
「我々は合法的に気に入らない者を叩き潰せ、彼らはそれを見て楽しむ。これが、光学科の模擬戦闘大会です」
「実に光学科らしいというか、なんというか……」
「さて、これで最初の契約は終了ですね」
リオは落ちこぼれ学科を叩き潰すことで勉強意欲や自信を徹底的に潰すことに成功し、レイはイビル達に仕返しを果たした。二人とも目的は果たしたのだ。
「まあ、これからまた契約しても良いけどね」
「闇学科の人よりも信用できますか?」
「うん。どっちなのかはっきりしてるしね。それに、クライズは信用できない、あいつらも」
「じゃあ、雷学科にでも行ってみますか?サンダーボルトを完成させたなら、もう魔法機械を動かすことくらいは出来るのでは?」
「闇学科と時間割が被ってるんだよね……」
「ああ……クライズに縛られているせいで行けないんですか」
「まあ、リオの言うとおりになるだろうし、そうなったら正式に雷学科の方に行く事にするよ」
「……契約、もう一度しませんか?」
「ん?何かあったっけ?」
「えっと、私は、あなたに防御魔法の基礎を教えるので、あなたには、攻撃魔法の基礎を教えてほしいんです」
リオが提示したのは双方に利益のある契約。自分のようなタイプが動くにはそれだけの対価を払う必要がある。そう考えて、リオはこの内容を提示した。
「ふふ。やっぱり君みたいな考えが出来ないと、まともに信じてあげられないよ。だって、クライズの生徒二人は何もくれないし。術式の生徒もクライズも、もう用無しだからね。貰った教科書の対価はちゃんと払うけど、それだけ。終わったら、僕もあいつらなんかあっさり捨てるよ。要らないって言われた時が縁の切れ目」
レイもリオ同様、対価が無いと協力したがらないタイプである。元々人間不信になっていたようなレイを好意的な方向に動かすには、レイが喜ぶような物をこちらも出さないといけなかったのだ。当然リオも、無償の協力は嫌いである。光学科のような競争のある場所では、自分の特権を失うのは非常に不味いのだ。当然何かの対価があればいいのだが、そんなものはメリシアの提案には全く無い。こちらが一方的に損をすることなど、リオは絶対に行わないのだ。
「この契約、乗ってくれますか?」
これなら好意的に教えてくれる。そうわかっていても、確認はする。
「約束が果たされればね」
当然、自分に有益な対価があるのにその申し出を拒むレイではない。あっさりと承諾した。
「契約成立ですね。またよろしくお願いします」
「じゃあ、いつ行おうか?」
「そうですね、術式の授業の終わった後にでも」
「分かった。じゃあ、またよろしくね」
「はい。こちらこそ」
こんなことが週に一度あるのが光学科。
こうでもしないと蓄積した生徒のストレスを逃がせません。
だって、丸暗記学習に加え、周りは全て敵ですし。




