二十日目後半 レイとリオ
第三者side
「じゃあ、これを一回着てください」
「これって、光学科の制服?」
あの後、一度リオは光学科の塔に戻り、光学科の制服である白いローブを一着持ちだしてきた。レイにこれを着せ、光学科に偽装して明日の模擬戦に参加させてイビル以下6名の落ちこぼれとのグループ戦でレイを戦わせるつもりなのだ。これによって、レイはイビルにかつての仕打ちに対する仕返しができ、リオは自分にとって邪魔な落ちこぼれの自信や勉強意欲を徹底的に破壊できる、と互いにメリットしかないため、これを決行することにしたのだ。
「はい。サイズはどうですか?」
「うん。これなら大丈夫。……でも、本当に魔法を覚えなくてもいいの?」
「はい。魔力の色が白なら、気づかれないです」
そして、レイの懸念であった魔法の習得の必須性や魔力の色に関する問題は全て解決していた。リオが言い訳もしてくれるし、魔力の色によって侵入を阻む結界も、マジックペインター(ラルゴ霊薬)によって魔力の色を白にすると効果が無くなるのだ。‥‥準備は万端である。
「うん。まあ、これは明日着ればいいか。それで、今日はこの後どうすればいいかな?」
「そうですね……そろそろ、夕食の時間ですし、一緒にご飯を食べませんか?」
「ん~、そうだね。良いよ」
「じゃあ、行きましょうか」
二人は食堂に移動し、ご飯を食べることにしたのだった。
ーーーー
「席が随分遠いね」
「まあ、静かに話すならうってつけです」
「それもそうか。こんな所まで誰も来ないか」
二人が座っているのは、いつもレイが座っている場所では無く、そちらと反対側の席、それも、柱の陰で誰も来ないようなところであった。
「それにしても、周りと違って静かだね」
「はい。ここは誰も来ないので、随分居心地がいいんですよ」
「へえ。たまにこっちで食べようかな。毎日絡まれるとちょっとね……」
「闇学科ですか?」
「うん。たまにならいいけど、毎日毎日……」
「それは面倒ですね。毎日毎日話したくない相手と話すことを強制させられるとは……」
「しかも、先生はそれを無理やりさせるんだ。……本当に面倒だよ……」
レイの不満にしてあった心の蓋をリオが同調して取ってしまったため、ぶつぶつ愚痴りだすレイ。
「それは最低ですよ。いくらなんでも、生徒の交友関係まで干渉するとは……」
「本当だよ。僕が一人で居ても全然問題ないのに……」
「それを善意でしているつもりなんでしょう?……大変ですね」
「ああ、もう。分かってくれたのは君だけだよ……一人で過ごせる時間がどんどん減って……」
「大変ですね。……相談に乗りますよ?」
「うん。ありがとう。それで、リオも面倒なことになってたりするの?」
「私もメリシアに面倒なことを要求されているんですよ」
「そうなの?……どんなこと?」
リオも、また愚痴りだすことになる。
「メリシアの馬鹿、私が少し上級魔法や術式の作成が出来ると知るや否や、周りに教えろとか言い出したんです」
「最低だよそれ!自分では教えないくせに出来る子を見つけると生贄にするんだ!?」
「本当に屑です、あの女。魔法を勝手に覚えた私の評価を不当な物にしておいて、その上私の覚えたものを他の光学科の生徒に渡せと言っているんですよ。それで私が渡したら、間違いなく私はレイと同じ運命をたどりますよ」
「本当に駄目だよ。絶対に渡したら駄目だからね。価値が無くなったら、リオは最悪落ちこぼれ学科に落とされるかもしれないから」
「ええ。本当に気をつけなければ。もし取られたら、私の専売特許が全てあんなのに奪われるんです」
「もし、出来ることがあったら聞くよ」
「はい。その時はぜひ協力してください」
なんだかんだ言って意気投合している二人。互いに似たような思考をしていることや、似た立場であることによる共感のようなものがあるのだろう。
「でも、術式の授業は本当に最低だよ。クライズの馬鹿、人が出来ると分かると使い捨てにしようとするんだ。サイクロンやトルネードを作っただけで、その技術を狙われるんだよ、ふざけるなって言いたいよ」
「それで、クライズはあなたを使い捨てにしようとしているわけなんですね……。酷い話です。あなたに要求する奴らは、完全にイビルの同類ですね」
「本当に。しかも、あいつの教え子が来ちゃって……。そのせいで一人で居られる時間も減ったし、片方はただのオリジナル魔法で僕を殺せる威力の魔法を作り上げたし」
「恐ろしいですね。ただの弾丸を飛ばす魔法で非殺傷結界の制御を無視するとは……」
「あんなのを用意しておいて、僕には術式を教えろだよ!あのおっさん僕を殺す気なの!?」
「完全に食いつぶして捨てる気ですね……あなたの心配では無く、あなたが教える技術の心配をしているのではないでしょうか」
「本当に「ふざけるな!僕はあんたの道具じゃない!」って言いたいくらいだ。でも、あの価値を失うのは……」
「ああ、周りに必要とされることですか。……私に言わせてもらえば、あんなのに評価されてもどうでもいいですがね」
「そう?」
「ええ。……例え悪評が広まっても、ケチな奴だと言われても、その人の事を見て信じてくれる。それが本当の仲間でしょう?」
「リオ……」
「確かに、教えなかったらクライズや闇学科、周りの学科はあなたから離れるでしょうね。でも、それがどうしたんですか?そんな人間の評価が、あなたの人生に何かの影響を与えるんですか?……むしろ、そんな奴らからは離れるべきです。人を噂と偏見だけで見る者や、その人の才能に群がるハイエナは、離れた方が良い人種ですよ」
「そう、だよね……あの場所の居心地は良いけど、でも、それは甘えていいものじゃないんだね……」
「はい。彼らは、おそらく後数回の授業で勝手に満足して離れていくでしょう。でも、それが自然なんですよ。いくら口では良いことを言っても、所詮打算で動いていますから」
「そうか……。結局、また惨めな思いをするんだね……」
「しっかりしてください。別にあんな人たちのあなたへの評価がどうなっても良いじゃないですか。彼らがあなたの技術を盗んだところで、所詮オリジナルには勝てない劣化になるんです」
「劣化に?どうして?」
「あなたがしてきた努力は、魔力は、決してあなたを裏切らないですよ。術式の授業の時に来ているあなたを利用している人達は勝手にあなたを使い捨ててしまいますが、彼らに渡してしまった結果を生み出すための努力は、彼らには入らないんです。彼らは、それを使って満足しますが、あなたは違う。その上を目指すための努力を続けている。あなたの今の魔力は、いくつですか?」
「……えっと、27……」
「その魔力と、そのための努力は、彼らには手に入りません。どうせあなたにくっついたハイエナは「魔導書作り変えてもらったぜラッキー!」とか思っている者も居るでしょう。でも、そもそも魔力が無ければ、結局何もできませんよ。確かに多少戦えるかもしれないですが、結局魔力が切れてしまいます」
「そっか……。言われてみれば確かに……」
レイが添削している人たちの中には、術式のコストだけを落とすように要求する者も居るのだ。というか、それが大半を占めていた。
「自信を持ってください。あなたのやってきたことは裏切らない。これだけは確かです」
「僕が、やったことは、裏切らない……」
「周りが「もう君は要らない」って言った?ならば、その日のうちに模擬戦で全員叩き潰せば良いんです。そして「本当に要らないのは君たちだったね」とでも言えばすっきりしますよ」
「リオ……励ましてくれてる?」
「……余計でした?」
「もう、どうしてそうなるの。むしろ、感謝するよ。なんかすごく楽になったし」
「……良いんですよ。だって、人の努力を食い物にする輩は大嫌いですから」
「本当に、リオとは気が合うね」
「ふふ。どうしてでしょうね?」
「鏡、か。少し違うけど、似たような者だからかな?」
「努力は裏切らないです。そのことは、誰よりも知っています。あの日の結果も、変えられましたしね」
「あの日?」
「ほら、私たちが最初に戦った日です。刻まれることは避けてみました」
「ああ。確かに、切り刻まれて負けたわけじゃなく、魔力切れで負けたんだよね?」
「方向感覚も無茶苦茶でしたけど、無傷のままでしたよ」
「そういう努力もあるんだ」
「まあ、今は必死に努力する身ですが」
「あ、夕食が運ばれてきたね」
「堅苦しい話は終わりにして、食べましょうか」
「そうだね。いただきます」
「いただきます」
ーーーー
それから、夕食が終わってもまだ二人は話していた。
「じゃあ、リオは入学前から魔法を使えたんだ?」
「ええ。9歳の時にマジックペインターを飲んで魔法を使えるようになりました」
「マジックペインターか。昨日飲んだのが役に立つんだね」
「まさか、実験も出来るんですか?」
「うん。闇学科の人が一人来るけど、それだけ。盗み聞きしてまとめたものを作るんだ」
「なるほど。私が聞いたのは魔力回復薬に回復の霊薬、雷の霊薬にマジックペインターの4つですから、それを作った、もしくは見たって事ですか」
「そうだよ。雷の霊薬以外は作ったこともある」
「はあ……うらやましいです。メリシアは暗記させるだけですからね……」
「ねえ、光学科に拘る理由ってあるの?」
「単純に、エリートの椅子に座ることが良いとか思っているんですが、崩れてきています」
「……風学科でやらない?」
「そうですね……まだ無理です。闇学科の子の警戒心は無くなりますが、風学科にしないといけない理由も無いですからね。それに、馬鹿の行く末を見届けないとだめです」
「ああ、落ちこぼれ学科は絶対に叩き潰さないとね」
「ええ。一方的な攻撃によって痛めつけることは出来ますが、その後の経過を観察しないといけません」
「ねえ、そういえば突然抱き着いてきたわけだけど、あれには理由とかあるの?」
「へ?ああ、あれですか?……これがきっかけです」
リオが出した本は「ハグは世界を救う!」というタイトルの漫画であった。
「……なにこれ?」
「19歳のスタイルのいい美人のお姉さんがあらゆる凶悪犯を抱きしめておとなしくさせていくへんてこな話です。姉の読んでいた物です」
「……本当に、何で抱きついてきたの?」
「行動したときだけ、この本同様の事になるかと思いました……」
若干顔を赤くしたリオ。
「いくらなんでも、漫画通りの行動が成功するわけが……」
「……ですよね。私十分に馬鹿です」
「……きっと、将来その発想が役に立つから……」
もはやフォローしようにも、出来なかったレイであった。話題が脱線しているために、リオは話題を引き戻す。
「……それで、どうします?私としては、彼らだけ潰せばいいんですが……」
「そうだね。あいつらだけ潰して、棄権しても良いかも」
「ですね。それだけでいいでしょう」
「じゃあ、徹底的に潰すよ!」
完全にイビルへの復讐だけを考えているレイが、ついにイビルにその刃を向けた。
「はい。絶対に勝ちましょう。叩き潰して、二度と光学科で学ぼうと思わないようにしてください」
「了解。全力で叩き潰すからね!」
「その意気です。私も、全力でやらせていただきますね。頑張りましょう」
イビルと取り巻きは明日、6年分の報いを受けることになってしまったのだ‥‥。




