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襲えば?(藍視点)

翔太が押し倒してきた。

翔太ってこんなに力、強かったっけ?

翔太だから余計に抗えなくなる。


「襲えば?」


は?自分何言ってんだ?

それに、心臓がバクバク言ってる。


不正動脈か?病院に行かねば。

そんなことを考えているうちに、翔太はどこかへ行ってしまった。


何故か、頬がマグマ級に熱い。

熱出したんだな。そうに違いない。


やはり、なんか翔太が頭から離れない。

翔太、この前の泣いてた俺のこと、気にしてたな。


俺、普通にできてたかな。


「帰んぞ」

「おう」


気まずい。も〜のすごく。


「祭りあるってよ」


翔太がスマホを触りながら言う


「マジ?いこ?」

「オケ」


そんな短い会話を交わして、俺たちは気まずさを誤魔化すように、いつもより少し早い足取りで校門を出た。


俺の頬は、さっきから夕焼けのせいだけとは思えないくらい赤い。

「熱が出た」とか「不整脈だ」とか脳内で言ってるけど結局はトンチンカンな言い訳だって分かってる。 


お互い、完全に意識しまくって無言。


アスファルトを叩く足音だけがやけに大きく響く。


その時だった。


「――あれ? 翔太に、藍じゃん。何そのお通夜みたいな空気。もしかして、またケンカでもした?」


後ろから、気の抜けた、でも聞き覚えのある声が降ってきた。

ママチャリのブレーキをキィッと鳴らしながら、俺たちの横に並んできた男。

同じクラスの、自称・情報通の佐々木だった。


俺はハッとしたように顔を上げる。


「げっ、佐々木……。べ、別にケンカなんかしてねーよ! 普通だし!」

「いやいや藍、顔マグマみたいに真っ赤じゃん。あ、分かった! 今日の体育のバスケで、翔太にガチホールドされたの、まだ引きずってんだろ〜?」


佐々木がニヤニヤしながら、通りすがりざまに爆弾を投下してくる。


「っ......! だ、誰が引きずるかよ! あれはただの接触プレイだろ!!」


俺はムキになってどなる。いつも通り強気な態度。

……だけど、泳いでる目が、一瞬だけ翔太の視線とぶつかって、お互いにビクッと体が跳ねた。


佐々木はチャリのペダルをゆっくり漕ぎながら、さらにニヤニヤを深めた。


「へえ〜? ま、お前らが普通ならいいんだけどさ。あ、そうそう。お前ら、今週末の『浅間大社の夏祭り』行くの?」


「「……っ!!」」


俺たちの心臓が、同時に跳ねた。

さっき約束した、まさにその祭りだ。


「俺、他校の女子と行くんだよね〜。もし現地で見かけたら、邪魔すんなよ? じゃ、お先!」


佐々木はそれだけ言うと、「ヒューッ!」と口笛を吹きながら、夕焼けの坂道をママチャリで颯爽と下っていった。


あいつは何も知らない。俺たちが昨日の放課後に校舎裏で抱き合ったことも、さっき保健室のベッドで押し倒されて「襲えば?」なんて会話を交わしたことも。


だけど、あいつが通りすがりに残していった『祭り』という言葉が、俺たちの間の気まずい空気を、一気に別種の熱い緊張感へと塗り替えていく。


「……行くか、祭り」


翔太がポツリと言うもんで俺はツンとそっぽを向いた。


「……おう。メロンパン奢ってもらったし、お化け屋敷くらいは付き合ってやるよ」


そう言って歩き出す俺の耳が、真っ赤に染まっているのを、翔太は見逃さなかった。


昨日のことをなかったことにするには、もう遅い。


そして、明日からの日常を普通に過ごすなんて――俺たちには、もう絶対に不可能だった。


第一章終了です

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