我慢できねぇ(翔太視点)
(――ヒュルルルル……ドォォォォォン!!!!!)
頭上で、今度は鮮やかな真紅の花火が弾けた。
その赤い光に照らされた藍の顔は、今まで見たどんな顔よりも赤くて、そして――どうしようもないくらい、綺麗だった。
「……っ、あ……」
藍の唇から、小さな吐息がこぼれる。
いつもは俺を小突いてくるあの強い手が、今は俺のシャツの胸元を、クシャッと弱々しく掴んでいる。その拳が、かすかに震えていた。
「我慢できねぇんだけど」
自分で言った言葉が、お祭り会場の喧騒を突き破って、自分自身の鼓動をさらに跳ね上げる。
もう幼馴染のフリなんてやってられるか。
クラスの奴らに「付き添い確定」とか「お幸せに」とか茶化されて、内心どれだけ嬉しかったか。
別クラスの男子に「告白しよっかな」って言われて、どれだけあいつの胸ぐらを掴みたくなったか。
全部、こいつが鈍感なせいで、俺ひとりが狂わされてるんだ。
「翔太……? お前、マジで、顔、近い……。熱、うつる……」
藍がまだそんな往生際の悪い言い訳を、蚊の鳴くような声で呟く。
「風邪じゃねぇよ。お前が熱いのは、俺のせいだろ」
俺は掴んでいた藍の手首を、そのままあいつの頭の横の神社の柱へと押し付けた。
いわゆる、『壁ドン』。
花火の光に浮かび上がる、藍の潤んだ瞳と、小さく開いた唇だけが、俺の世界のすべてだった。
「保健室で、俺ならいいって言ったよな」
「それ、は……」
「嘘じゃねぇよな。俺、本気にするからな」
俺はゆっくりと顔を近づけた。あいつの長いまつ毛が、小刻みに揺れるのが見える。
もう、止められない。
その時――
(ドォォォォォン!!!!!)
ひときわ大きな、夜空を昼間のように明るく照らす特大のしだれ柳の花火が、爆音とともに炸裂した。




