本気かよ!?(藍視点)
甘くて甘くて糖分とりすぎで死にそうです………。
「――ッ!!!」
頭の上が、金色の光でいっぱいになる。
だけど、俺の目には、目の前にある翔太の顔しか映っていなかった。
壁に押し付けられた手首から、翔太のゴツゴツした指の感触が、ダイレクトに脳みそに伝わってくる。
逃げられない。っていうか、逃げたくない。
『俺のせいだろ』って言った翔太の声が、やけに低くて、強引で、男らしくて――。
あー、もう、降伏だ。全面降伏。
これは風邪じゃない。不整脈でもない。新型のウイルスでもない。
俺は、翔太のことが、好きなんだ。
その事実が、花火の光の中で、ストンと俺の胸の奥に落ちてきた。
体の中で転がっていた小さな石ころが、一瞬で熱いマグマに変わって、全身を駆け巡る。
「……う、そじゃ、ねぇよ……」
俺は、自分の口から出た声に驚いた。
いつもみたいに男勝りな、ぶっきらぼうな声が出ない。
喉の奥が震えて、まるで、翔太に宛てた、世界で一番甘い秘密の告白みたいな声になっていた。
「嘘じゃねぇから……だから……」
俺はギュッと目を閉じた。
心臓がうるさい。お祭りの太鼓よりも、花火の爆音よりも、翔太に押し付けられた胸の奥の音が、狂ったように鳴り響いている。
「……っ、藍、お前――」
翔太の息が、俺の頬に触れた。
あいつの体温が、すぐそこまで近づいてくる。
来る。何が来るのか分かってる。分かってるけど、目を開けられない。
(――ガラガラガラッ!!! ピーヒャララ〜〜〜♪)
「おいおいおい!!! 邪魔する気はなかったんだけどさァ!!! 特等席で何やってんのお前らァァァアアア!!!」
突如として、俺たちのすぐ横から、
和太鼓のバチを持った、クソ耳慣れた大声が、空気をぶち壊しに突っ込んできた。
薄目を開けると、そこには、祭りの青年団の法被を着て、
キツネのお面を頭に斜めに被った佐々木が、口をあんぐりと開けて突っ立っていた。
「さ、佐々木ィィィイイイイッッッ!?!?!?!?(大絶叫)」
「いや〜、他校の女子にフラれてさ! 傷心で太鼓叩きに行く途中で通りすがったら、まさかの少女漫画のクライマックス上映中じゃん!!! 翔太、お前マジで狼じゃんかよおおお!!!」
文字通り、またしても最悪のタイミングで現れた、ガチの『邪魔者』だった。
「佐々木ィィィ!!! てめぇマジでぶっ殺すッッッ!!!」
翔太が、佐々木を睨みつける。
「ヒィィィ!!! 狼がキレたァァァ!!! 藍、早くそいつにエサ(唐揚げ)与えて宥めてくれえええ!!! じゃあな!!!」
佐々木は一瞬で命の危機を察知したらしく、脱兎のごとく人混みの向こうへ爆走して消えていった。
「……あいつ、マジで次学校行ったら、屋上から吊るす……」
翔太が肩をハァハァと揺らしながら、悔しそうに前髪を乱暴にかきあげる。
俺はその様子を呆然と見つめながら、
押し付けられていた手首をそっと下ろし、自分の真っ赤になった顔を両手で覆った。
「……ふ、ふふっ……」
「……何笑ってんだよ、藍」
「いや……翔太がそんなに怒るの、珍しいなと思って……」
両手の隙間から翔太を見ると、翔太もバツが悪そうに、でもどこか愛おしそうに、フッと口元を緩めた。
「……誰のせいだと思ってんだよ。……ほら、行くぞ。唐揚げ奢ってやる」
翔太が再び、俺の手を、今度は優しく、でも離さないようにしっかりと握りしめる。
「......おう。今度は高いやつな」
佐々木の登場で、いつもの調子が少しだけ戻ってきた。
だけど、繋いだ手のひらの熱さは、さっきよりもずっと、ずっと熱くなっていた。
俺たちの『いつも通り』は、もう二度と戻らない。
だけど、それでいい。
いや、それがいい。
夜空には、まだ、鳴り止まない花火の音が、俺たちの新しい始まりを祝うように響き渡っていた。
本作、これにて完結となります!
短い間でしたが、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
良ければ評価していただけると嬉しいです!




