花火見ようぜ(翔太視点)
「お、おい藍! 引っ張るなって、危ねぇから!」
人混みの中、俺の腕を掴んでガシガシ進んでいく藍の後ろ姿を見つめながら、俺の心臓はさっきからお祭り会場の太鼓の音よりうるさく鳴り響いていた。
だって、こいつ、浴衣着てんだぞ……!?
いつもは泥だらけでサッカーしたり、バイクの油にまみれてるような奴が、紺色の大人っぽい浴衣を着て、
髪をアップにしてうなじなんか見せてるんだ。
ロータリーで姿を見た瞬間、マジで頭が真っ白になって、心臓が口から飛び出すかと思った。
「変かよ」なんてムキになってたけど、変なわけねぇだろ。
可愛すぎるって言うと壊れそうだから、口が裂けても言えねぇけど。
「うわ、唐揚げの屋台めちゃくちゃ並んでんじゃん! 翔太、あっちのイカ焼き先にするか!」
藍が振り返ってニカッと笑う。
その瞬間、すれ違った見知らぬ男たちの視線が、藍の浴衣姿に一斉に集まったのが見えた。
――チッ、ふざけんな。見るな。
胸の奥で、ドス黒い独占欲がカッと燃え上がる。
こいつは自覚してない。自分がどれだけ男の目を引いているかも、さっきから俺の腕をギュッと掴んでいるその手のせいで、俺の理性がどれだけ崖っぷちまで追い詰められているかも。
『男は狼なんだ』
保健室で言い放ったあのセリフが、自分の脳内でブーメランみたいに突き刺さる。
普通でいようとした。いつも通りの幼馴染でいようとした。でも、浴衣姿の藍を前にして、もう限界だった。
「おっと、すまねぇ」
向こうから歩いてきたガラの悪そうな男の集団が、藍の肩にぶつかりそうになる。
「――っ、藍!」
反射的に、俺は藍の手首を掴んで、自分の胸元へと強く引き寄せた。
ドサッ、と人混みの真ん中で、藍の身体が俺の胸にすっぽりと収まる。
一昨日の放課後、校舎裏で抱き合いついた時と同じ、あのあたたかくて、ほんのり甘いシャンプーの匂い。
「っ……うお、びっくりした……。なんだよ翔太、急に引っ張るなよ」
俺の胸に顔を埋めたまま、藍がぶつぶつ文句を言う。
でも、その声が、いつもよりほんの少し震えている気がした。
「……人が多いから、はぐれんだろ」
俺は掴んだ藍の手を、そのまま下ろして、指を絡ませるようにしてギュッと握りしめた。
「え、あ、おい、翔太……? 手、繋ぐのか……?」
藍が完全にフリーズしたのが分かった。まっすぐ俺を見上げてくる目は、完全に泳いでいる。
「文句言うな。迷子になられたらめんどくせぇから。……行くぞ」
俺は赤くなっているであろう自分の顔を隠すように前を向き、藍の手を引いて歩き出した。
握り返してくる藍の手が、やけに熱くて、かすかに震えていた。
翔太、独占欲の塊みたいになってしまいましたwww




