↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしには自信がありますので  作者: 花散ここ
4.自信を手に入れた日
PR
40/41

40.これでお別れ

「どうして、レオシス様が……」

「お従兄(にい)様……? 外出していたはずじゃ……」


 顔色の悪い二人は、震えた声を漏らす。

 見られたくない姿だったのだろう。二人の様子に、わたしまで息が詰まった。


 隣にやってきたレオシス様が、わたしの肩を抱いてくれる。

 その温もりにほっとしてしまって、泣きたくなってしまったのは隠せているだろうか。震える吐息をそっと逃し、ぐっと握った拳を逆の手の平で覆い隠した。


 両親もわたしの隣にやってきて、その後についてきていた侯爵家の衛兵達が扉の前を陣取っている。

 ラナとペルーシュ夫人が、もうどこにも行けないように。


「メリア……いや、ペルーシュ夫人。今までもこうやって、私の娘を虐げていたのか」


 お父様の声は静かだけれど、抑えきれない怒りが感じられる。

 それを真正面から向けられたペルーシュ夫人が、小さな悲鳴をあげて肩を跳ねさせた。


「私とペルーシュ夫人の間に、結婚の話があがったことはない。私が君のことをそういう目でみたこともない。妄言も甚だしいな」

「そんな……! お従兄様、あんなに良くしてくれたのに!」

「従妹としてな。君以外の親戚にも同じ対応をしているが、勘違いをしているのはペルーシュ夫人だけだ。今となっては後悔しかないがな」


 お父様の冷たい言葉に、ペルーシュ夫人がその場に崩れた。

 蹲って悲痛な嗚咽を漏らしているけれど、その身に寄り添う人はいない。


 ラナは青白い顔をして、わたしを見ている。

 縋るようなその視線に、応えることは出来なかった。


「ラナさん、あなたが私の娘にしてきた事を、私は一生許さない」


 お母様の言葉に、ラナの瞳から涙が溢れる。

 いやいやと、子どもがするように首を横に振る様子は、いつもよりも幼く見えた。


「エ、エミリア……私達、お友達よね? フューラー夫人が怒るような、そんな事してないわよね?」

「これでもまだエミリアに縋ろうとしているのか」


 呆れたようなレオシス様の声に、ラナが顔を上げた。ふらふらとレオシス様に手を伸ばしている。


「レオシス様……私、あなたをお慕いしているんです。その気持ちは本当なんです。エミリアが羨ましかったのは、あなたと婚約が出来たからで……どうしても、レオシス様との婚約を譲ってもらいたかったんです。それも全部、あなたの事が好きだからで……」


 緑の瞳から涙を流しながら、ラナは自分の想いを告げた。


 隣に立つレオシス様を見上げると、見た事もないような苦々しい顔でラナを睨んでいた。


「この状況で、よくそんな事を口に出来たものだな。先に言っておくが、俺はエミリアだけを愛していて、お前の事はどうでもいい。むしろエミリアを傷つけていたお前の事が憎くて仕方がないんだ」


 地を這うような声に、背筋が震えた。

 わたしに向けられたものではないって分かっているのに、何だか落ち着かない。

 そんなわたしの様子に気付いたのか、肩を抱く腕に力がこもった。その温もりに、安心する。


「エミリアが妬ましくて、羨ましかったんだろう。エミリアを傷つけることで自尊心は満たされたのか? それでも結局、お前は何も手に入れることは出来なかったけどな。お前がどれだけエミリアを傷つけようと、エミリアの価値が落ちることはないんだ」

「なん、で……どうして、エミリアばっかり……!」

「エミリアはお前のように人を陥れようとしないんだよ。自分を高めるために努力を重ねられる人だから、元から格が違うんだ」


 レオシス様の言葉に、ラナはその場に座り込んでしまった。

 蹲って泣いているペルーシュ夫人と、顔を両手で覆い隠して泣いているラナ。

 二人は、どこまでもそっくりだと思ってしまった。


 きっと彼女達に、誰の言葉も届いていないのだろう。

 どこまでも被害者だという意識があるのだ。だって二人は、わたしに謝罪をしていない。

 そんな二人を許すことはわたしには出来ない。だからもう、二人を救う術はない。

 自分で省みて、これからを歩いていくしかないのだけど……二人にそれが出来るのか、分からなかった。


「フューラー侯爵家はペルーシュ子爵家との縁を切る。もう二度と我々に近付くことのないように」

「ローヴァイン公爵家も同様に。話しかけただけで処罰対象とするから、身を弁えるように」


 お父様とレオシス様からの処分に、二人は揃って顔を上げた。


「い、いやよ! お従兄様! 私を捨てないで!」

「エミリア! 助けて!」


 二人の言葉に、隣に立つレオシス様の怒りが膨れ上がるのが分かった。

 わたしは彼の背に片手を回し、宥めるようにそっと撫でた。こちらを見たレオシス様の瞳が揺れているのが分かる。


 わたしは首を横に振ってから、一歩前に踏み出した。


「ラナ、もうお別れよ。わたしは自分を傷つける人を側に置きたくない」

「私、そんなつもりじゃ……!」

「あなたがどんなつもりだったとしても、わたしが傷ついた事に変わりはないの。あなたの言葉が嘘偽りだったって、今なら分かるけれど……でも、本当に悲しかった。皆に疎まれているって、皆がわたしを嫌いだって。落ちこぼれと言われるより、それが一番辛かったの」

「エミリア……」

「もう名前も呼ばないで。二度と会うことはないでしょう」


 わたしの言葉を合図とするように、衛兵達が前に出る。

 蹲って動かない二人を引き立てて、応接室から連れ去っていった。


 呆然としている二人は、抵抗することもなく、いなくなっていった。


 ***


 それからしばらくした後の、グレーテとのお茶会でのこと。

 グレーテがわたしに教えてくれたことがある。


「ペルーシュ子爵夫人と令嬢は、領地に戻ったそうよ」


 あれ以来、ペルーシュ子爵家の話はうちで禁句となっている。

 だからグレーテから聞いた話に目を瞬いた。


「子爵は離縁したかったみたいだけど、それが許されなかったんですって。夫人と令嬢の暴挙を把握していなかった子爵の罪ということね」


 わたしは紅茶のカップにお砂糖を落とし、スプーンでゆっくりかきまぜた。

 スプーンには羽を休める蝶が飾られている。羽に埋められた青の色ガラスが光を浴びて輝いている。


「フューラー侯爵家とローヴァイン公爵家に睨まれて、もう社交界に戻ってくることは出来ないでしょうね。無理矢理出席したお茶会では、悪評が流れていて白い目で見られたそうだもの」

「もう今回の話が知られているの? ……ねぇ、あなた何かした?」


 わたしの問いに、グレーテは何も答えずに笑っているだけだった。

 でもペルーシュ夫人とラナの悪評を流したのは、グレーテだろう。


「ありがとう、グレーテ」

「ふふ、どういたしまして」


 わたしの為にしてくれたことだ。

 礼を告げるとグレーテは悪戯っぽく笑った。黒い髪が揺れるのが、綺麗だと思った。


 ラナとペルーシュ夫人に言われてきた事は、まだ私の心に残っている。

 蔑まれたのも何もかも、忘れる事はないだろう。


 でも、もうそれに囚われない。

 わたしには……わたしを認めて、わたしを大切にしてくれる人が沢山いるって気付けたから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
Thank you.
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。