↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしには自信がありますので  作者: 花散ここ
3.戻るという自信
PR
30/41

30.天才

「リアは離れていて」

「ええ、気をつけて」


 ゆっくりと繋いでいた手が解かれる。折角触れ合えたのに、離れるのが名残惜しいと思ってしまう。

 それほどに恋しかったのだ。ただ会えないだけじゃなかったから。


 わたしはレオ様達からそっと離れ、グレーテの隣へ向かった。

 彼女は安全そうな場所に居て、わたしが近付いたのを見計らって防御魔法を展開している。

 何か飛んできたとしても、守ってもらえるだろう。


「三人を前にして、随分余裕の表情だな」

「人数が多ければ優位というわけじゃない。君達のことは脅威に感じないな」


 微笑を浮かべているけれど、レオ様が怒っているというのは伝わってくる。

 言葉も別に煽っているわけではないのだろうけれど、ギルベルト様が眉間に皺を寄せたのが見えた。


「嬲り殺されても文句は言うなよ。……やれ!」


 ギルベルト様の号令に、パウラさんとスヴェン殿下が動き出す。

 パウラさんは黒蔦を伸ばしてレオ様を拘束しようとして、スヴェン殿下は巨大な氷の槍を展開している。


 そしてギルベルト様の足元には──大きな魔法陣が描かれていた。

 魔法陣から立ち上る、魔法言語。美しささえ感じるほどの魔法式に、ほうっと吐息が漏れた。


「ティアナ様の魔法式を思い出すわ。これだけ美しい魔法式を描けるなんて、ギルベルト様も魔法の才があるのね」

「でもあんなに大きな魔法だと、私達まで巻き込まれそう。ちゃんと調整してくれるのかしら」

「ふふ、レオ様がいるのだから心配ないわ」


 グレーテは胸元のブローチの場所を直している。

 彼女は心配そうな言葉を口にする割に、その声色にも表情にも焦りの色は見えない。


 わたしも同じ気持ちでいる。

 レオ様は、負けない。


 ギルベルト様の魔法が発動する。風魔法と火魔法を組み合わせた、大きな炎竜が生まれ出でる。白い炎から顕現した竜は、咆哮を響かせた。

 びりびりと空気が揺れる。魔力の余波に当てられて、わたし達はたたらを踏んだ。


「グレーテ、大丈夫?」

「ええ。……すごいわね、あの竜。でも少し焦っているんじゃない?」

「あれだけの魔法を使わなくちゃ、レオ様を倒せないと分かっているんだろうけれど……あんなに派手な魔法を使っていいのかしら」

「人が集まることを考えていないのか。全部殺せばいいと思っているのか」

「どちらにせよ……色々残念ね」


 わたしは開いた扇を口元に寄せ、溜息を隠した。

 数で押せば勝てると思っているところも、周りを気にしないところも。力任せに全てを解決しようとするなんて、何もかもがいただけない。


 もしギルベルト様がわたしを求めているのだとして、そんな人にわたしが靡くとでも思っているのかしら。それなら心外だ。

 わたしの意思を無くしてしまって侍らそうとしているのなら、腹立たしい。


 パウラさんの黒蔦がレオ様の両足と両腕に絡みつく。先程わたしに伸ばしていたのよりも太くて強そうな黒蔦だった。手応えを感じたのであろうパウラさんが、にやりと笑ったのが見えた。


 それを見計らったのか、スヴェン殿下が氷槍を放つ。

 更にギルベルト様の炎竜が激しい火炎を吐き出した。


 三人の魔法がレオ様を中心にぶつかり合う。

 激しい衝撃と立ち上る火柱が、グレーテの防御魔法を揺らしていく。

 炎と触れ合った氷槍から溢れた水蒸気が、霧となってその場を包み込んだ。


「くくっ、大口を叩いてこのザマだ。驕り昂る者が、最期に悔い改めるだけの時間があったかも怪しいな」


 ギルベルト様の高笑いに、つられるようにスヴェン殿下とパウラさんも笑っている。

 霧が濃くて三人の様子は見えないけれど……きっと、滑稽なお顔をしているのだろう。


「ギルベルト様、騒ぎになる前にエミリア様と一緒に居るあの女も……」

「そうだな。パウラ、君はエミリア嬢を捕まえろ。グレーテ嬢の始末はスヴェン殿下に任せる」


 パウラさんの進言にギルベルト様が応えている。

 それを耳にしたわたし達は顔を見合わせてしまった。


「グレーテ、大変。わたしは捕まってしまうんですって」

「私なんて殺されてしまうみたいだけど。それよりも、怯えていた方がいいかしら」


 一度言葉を切ったグレーテが、霧の発生地帯であるレオ様へと目を向けた。

 彼の姿は深い霧に包まれたままで見えない。


「あなたを捕まえるなんて発言を聞いて、あの男が大人しくしているわけがないもの。怯えるだけじゃ足りなさそう」


 その瞬間、強い風が巻き起こった。

 霧を全て飲み込む風は渦を巻き、竜巻となって空高くへと霧を吹き飛ばしていく。


 霧が晴れたその後に姿を現したのは、拘束もなく無傷でいるレオ様だった。


「なに……っ!?」


 ギルベルト様が驚愕の声をあげる。

 パウラさんとスヴェン殿下も愕然として、数歩後ずさった。


「リアを捕まえる? 戯言も程々にしないと……命を縮めるぞ」


 レオ様の琥珀の瞳が、色を濃くして輝きを増す。

 彼の周りが歪んで見えるのは、高濃度の魔力が溢れ出ているからだろう。


 レオ様の髪留めが壊れて、地に落ちた。自由になった長いピンク色の髪が魔力の風に遊ばれている。


「くそっ、もう一度だ!」


 ギルベルト様の声に応えて、パウラさんとスヴェン殿下がまた魔法を展開する。

 顔色は悪いけれど、今ここでやらないと自分たちが殺されると理解しているのだろう。


 ギルベルト様の足元にも、また大きな魔法陣が描かれる。


「同じものは食らわない」


 そう言ったレオ様が指をパチンと鳴らす。

 それだけだった。その動作だけで──三人が展開していた魔法は霧散する。


「は!?」

「なんで!!」

「俺の、魔法が……」


 三人とも驚いているけれど、わたしとグレーテからすれば当然のことだった。

 だって三人が相手にしているのは、レオシス・ローヴァイン。魔力操作の天才だもの。


「一度受ければ魔法構築が分かる。それを崩すのなんて簡単だろ」


 当然とばかりにレオ様が言うけれど、わたしとグレーテは苦笑いだ。


「一瞬で魔法構築を理解するのなんて、常人にはできないのだけど」

「それもだけど、理解するために魔法をくらって、無傷でいるのもおかしいのよ」


 理論は理解できる。

 でもわたし達には絶対に出来ない。

 だからギルベルト様達が呆然としているのも当然なのだ。


「さて、お返しだ」


 レオ様は涼しい顔で、踵を石畳に打ち付ける。

 魔法詠唱も何もない、ただそれだけで──彼の周りには魔法陣が三つ展開される。


 一つは、黒い蔦。

 もう一つは、氷の槍。

 そして最後の一つからは、炎竜が顕現した。


「……化け物か」


 ギルベルト様の声が震えている。

 それを耳にしたレオ様は低く笑った。


「リアに手を出したんだ。その身が滅びても文句は言えない。……悔い改めるだけの時間が、あるといいな?」


 翳りを帯びた笑みで魔法を放つレオ様の瞳だけが、ぎらぎらと光を放っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
Thank you.
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。