13.カフェテラスにて
「……ということがあったのよ」
お昼時の学園内カフェテラス。
わたしとレオ様は向かい合って座り、ランチを楽しんでいた。
パラソルのおかげで日差しが眩しいこともなく、近くの木に止まった鳥が葉擦れの音に合わせて歌っているのが聞こえてくる。
周囲の席とは充分な間隔が空けられていて、テラスは満席だというのにも関わらず騒がしくは感じなかった。
わたしはランチメニューのグリルチキンを切り分けながら、実践授業であったことをレオ様に話していた。
話している間、レオ様は口を挟まずに相槌だけを打ってくれる。真剣に話を聞いてくれるから、事細かに全部話してしまった。
「まず……実践授業がうまくいってよかったね。俺も同じクラスだったら、近くで見ていられたのにな」
「練習で何度も見ていたじゃない。それに……同じクラスだったら、もっと面倒なことになっていた予感がするわ」
レオ様の魔法構築はとても美しいから、きっとティアナ様の目に留まっていた。
それが面倒なことに繋がりそうだと、わたしが懸念してしまうのは仕方がないことだと思う。
「面倒だって構わないけど。でもリアがそんな絡まれた方をしたのを間近で見ていたら、正気でいられなかったかもしれないな」
「かもじゃなくて、確定でしょ」
切り分けたチキンにバジルソースを添えて口に運ぶ。
ソースに工夫がされているのか、お肉の脂が甘く感じる。食べやすくて美味しい。
レオ様はわたしがするよりも大きくお肉を切り分けている。一口も大きいのに上品さは損なわれていない。美味しいものを食べたら、その眦が少し下がる。
それを見るのが好きだ。レオ様と一緒だと、なんでももっと美味しく感じてしまう。
「でもまぁ、リアが気にすることじゃないよ。ただ悔しかったんでしょ」
「そうかしら。派手だったのは彼女の方なのに。華やかでとても美しかったわ」
「華やかさがあっても、彼女にない“何か”があったから絡みたくなるほど悔しかったんだよ。それだけリアの魔法構築がすごかったってこと。頑張ったね」
レオ様に褒められて、ついにやけそうになってしまう。
いけない。ここは学園で人目があるのだから、淑女の仮面をかぶらなければ。
「ありがとう。クラスも違うし、もう絡むこともないでしょう」
そう言いながら、わたしは夏野菜のマリネを食べた。
酸味が強い。だけどお肉を食べたあとの口がさっぱりする。これも美味しい。
「レオ様は何か変わったことはあった?」
「俺の方は何も。いつも通りの授業だったよ。……あ、午後からの授業予定が変わって魔道具の解体修理になった」
「好きな授業ね」
「うん。午後からは領地経営科に行こうと思ってたけど、このまま魔法学科にいるつもり」
公爵家の後継であるレオ様は、魔法学科だけでなく領地経営科の授業も受けている。
どちらにも属することは学園のルール上は問題ないけれど、どちらでも優秀な成績をとることが求められる。
レオ様は軽々とそれをこなしてしまうのだから、やっぱり凄い。そんなレオ様を支えられるように、わたしも励まなければと思う毎日だ。
「では授業が終わるのも同じ頃ね。放課後の予定がなければ、街でお茶をしていかない? グレースに素敵なカフェを教えてもらったの」
「いいね、そうしよう。授業が終わったらクラスに迎えに行くよ」
「ありがとう」
週末もうちでお茶会を開いて、二人でのんびりする予定だけど。それはそれ。
時間が合うならいつだって一緒に居たいのだ。
「リアが頑張ったご褒美に、大きなケーキを注文する?」
「あら、わたしはいつだって頑張っているわ」
「それは知ってる。でも今日は特に頑張ったでしょ」
わたしの軽口にレオ様が楽しそうに笑う。
そんな彼にいつもわたしは甘えている。
「ティアナ、だめよ」
穏やかな雰囲気を壊したのは、焦りを帯びたエレオノーレ様の声だった。
テラス席に響くほどの声を、彼女が出すのは珍しい。
何かあったのかと振り返ると、周囲の席の生徒達も同じようにテラスドアの辺りを見ていた。
ティアナ様は物珍しそうにテラス席を見回しながら歩いている。
エレオノーレ様は彼女の腕を引いて、何とか引き留めようとしているようだ。
これ以上見ているのも失礼だろう。そう思って、わたしは食事を再開した。
「……エレオノーレ様も苦労されているね」
「大変そうだって、そう聞くことが多いわね」
苦笑しながらレオ様が呟くから、それにわたしも同意する。
色んなところから、エレオノーレ様の苦労なさっている様子は聞こえてくるのだもの。実際、今日の実践授業でも大変そうだったから。
「エレオノーレ様達は、個室で昼食をとっているはずよね」
「うん、安全面を考慮してね。そこを抜けてきたんだろうけど」
クロワッサンを手でちぎりつつ、そんなことをひっそりと話していたら、ティアナ様がわたし達のテーブル横で立ち止まった。
レオ様の溜息が聞こえる。わたしも、同じ気持ちだった。
「エミリア様はここで食事をしていたのね」
「エミリア様、座ったままで構わないわ。食事に集中して頂戴」
ティアナ様の声にかぶせるように、エレオノーレ様が言葉を紡ぐ。
わたしは顔を上げ、二人に会釈をした。
「ごきげんよう、エレオノーレ様、ティアナ様。お二人はもうお食事は済まれたのですか?」
「ええ。カフェがどんなものか気になって、エレオノーレに連れてきてもらったの」
連れてきてもらったというか、ティアナ様が引っ張ってきたように見えるけれど。
それについては触れないことにして、そうですかとただ頷いた。
「お食事中に失礼したわね。ティアナ、もういいでしょう」
「待って。ねぇ……そこのあなた、お顔を上げて」
ああ、見つかってしまった。
ティアナ様の視線は、食事をしているレオ様に向けられている。
同じクラスだったら面倒なことになっていたと思ったけれど、こうして結局面倒なことになってしまうなんて。
内心で天を仰いでいると、レオ様が溜息をついてからゆっくりと顔を上げた。
「いまは婚約者と食事中なので、二人きりにしてもらえますか」
冷ややかな声にエレオノーレ様が肩を跳ねさせた。
そのお顔にはいつものように微笑が浮かんでいるけれど、怒っているというのは充分すぎるほどに伝わってくる。
「あなた……綺麗な顔をしているのね。お名前は?」
レオ様の怒りも気にせずに、ティアナ様がそんな事を口にするものだから、わたしは驚きに目を瞬いた。
「エレオノーレ様に聞いてください」
ティアナ様を見る事もなく、そう告げたレオ様は何も気にした様子なく食事を進めている。
「リア、俺のデザートもあげる」
「え? でもレオ様だって好きでしょう」
「可愛いリアにあげたいんだよね」
ティアナ様たちが横に立っているにも関わらず、レオ様はいつも通りだ。
「ふぅん……エミリア様の婚約者。ふふ、覚えておくわね」
「もういいでしょう。行くわよ、ティアナ。お邪魔したわね。このお詫びは後でさせてもらうわ」
疲れたようなエレオノーレ様に、わたしはまた会釈をする。
エレオノーレ様からお詫びという言葉が出たのは二回目だ。
わたしは気にしていないと、後で伝えておかなければ。
二人がこの場を去って、どこかほっとした雰囲気がテラス席に広がった。
「ねぇレオ様、やっぱり面倒なことになったわ」
「そうだね。でもこれは……俺っていうより、リアにかな」
「どういうこと?」
肩を竦めたレオ様は、この場ではこれ以上何も言うつもりはないようだった。
わたしは諦めて、ちぎって手にしたままだったクロワッサンを口に運ぶしかなかった。
昨日は更新できず申し訳ありません。
本日よりまた毎日更新できるよう頑張りますので、お付き合いください。




