47. 甘味作りと夜会のドレス
翌日の午前中、私は厨房で赤豆のペースト作りを始めた。
手伝ってくれている料理長だけでなく、ステファンや別邸のメイド達も興味津々といった様子で私の作業を見守っていた。
「豆から甘味を作るなんて、奥様は斬新でいらっしゃいますね」
感心したようにステファンが呟く。
そう言えば、サイモンも似たようなことを言っていたわね。
二人の血のつながりを感じて私は思わず笑みを浮かべた。
出来上がったペーストを味見してもらうと、皆は初めて食べる味に一様に驚いた顔をしていた。
「あの豆からこのような美味しい甘味ができるとは!」
「いくらでも食べたいくらいですわ!」
手放しに褒めてくれるので、なんだかくすぐったい気持ちになった。
王宮への献上用と、叔母様にお贈りする分を壷に詰める。
それでも余ったので、おやつの時間に屋敷の皆で頂くことにした。
食堂に集まり、料理長が準備してくれたお菓子を皆で食べる。
旦那様と私が一緒に食べることに、使用人の皆は初めは遠慮したけれど、食べ始めるとすっかり寛いでお喋りに花を咲かせていた。
「この屋敷の者も、すっかり君の甘味に夢中だな」
楽しげに話す皆を見て旦那様が笑いながらおっしゃった。
「はい。国王陛下にもお気に召して頂けるでしょうか」
王宮へ献上する分は、旦那様が明日持っていってくださる予定だ。
「ああ。あの方は甘いものがお好きだからな。喜んでいただけるだろう」
旦那様の言葉に、私の不安は少しだけ和らいだ。
*
翌日、旦那様をお見送りした後、お客様を迎えるための準備を整えた。
今日は私のドレスの採寸の日だ。
お昼過ぎに、マチルダ叔母様が仕立て屋を連れていらっしゃった。
仕立て屋のご婦人は、私を見ると
「まあ、可愛らしい奥様ですこと」
と言って、優しげな目を細めた。
「最近は、若いご令嬢の間で淡い色のドレスが流行りですけれど……奥様はご結婚していらっしゃいますので、こちらのような青か、青みのある緑色のドレスがよいかと。赤い髪のお色が映えて、とてもお似合いになりますわ」
そう言いながら、布見本を見せて説明をしてくれた。
「青だと目立ちすぎてしまうのでは……」
私は不安になってそう尋ねた。
すると、マチルダ叔母様が笑いながらおっしゃった。
「まあまあ。辺境伯夫人として初めてお出になる夜会ですのよ。それに、あなたは例の甘味が評判になったことですでに注目されていますから」
それは、そうだけれど……。
私はもう一度、布見本に目を向けた。
青緑色は落ち着いた印象で、辺境伯夫人という立場にもふさわしいと思う。
一方、青は私の赤い髪を目立たせすぎてしまう気がするけれど、私の瞳と同じ色でもある。
ふと、旦那様が私の瞳の色に似ているからと、サファイアのネックレスを贈ってくださったことを思い出した。
「……こちらの、青にします」
私はそっと、青い布見本を指差した。
「かしこまりました。よくお似合いになると思いますよ」
仕立て屋のご婦人は、穏やかに頷いた。
「奥様、それでしたら、旦那様からいただいたネックレスを合わせてみてはいかがですか?」
メイサが声を弾ませて言った。
「まあ、そうですの?見せていただいても?」
ご婦人が興味を示したので、私はメイサにネックレスを取りに行ってもらった。
「これは、シンプルですが素敵ですね。では、ネックレスが映えるよう胸元の開いたデザインにして、レースをあしらって……」
ご婦人はネックレスを眺めながら紙にデザインを書き込んでいった。
流行や私の好みを取り入れながら、ドレスのデザインが決まった。
「素晴らしいドレスに仕上げてみせますわ」
仕立て屋のご婦人は頼もしげにそう告げると、慌ただしく屋敷を後にした。
「叔母様、今日はありがとうございました」
叔母様もお帰りになるとのことだったので、お礼を伝えると、叔母様は穏やかに微笑まれた。
「無事にドレスが決まってよかったわ。夜会までまだ日があるから、今度はうちのお茶会にいらっしゃい。私のお友達も何人かご紹介するわ」
「はい。ありがとうございます」
叔母様をお見送りする頃には、もう空は夕焼けに染まり始めていた。
旦那様が帰宅なさったので、夕食を一緒にとることにした。
旦那様は王宮へ行き国王陛下に謁見された後、近衛騎士団の方々に稽古をつけていらっしゃったそうだ。
「赤豆のペーストだが、陛下は大変喜んでいらっしゃった」
「まあ。それはよかったです」
「それで……」
旦那様が言いづらそうに言葉を詰まらせる。
「どうかなさいましたか?」
何か不備があったのだろうか。不安になって思わず声をかけた。
「赤豆のペーストを夜会に出したいから、作り方を教えて欲しい、と……」
思いがけない話に、私は目を丸くした。
次回更新は
10月20日(火)20時です。




