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45/52

45.王宮からの招待状

 慰霊の日から数日後。


 「奥様、王宮よりお手紙が届いております」


 「王宮から……ですか?」


 サイモンから受け取った封筒には、王家の印章で封がされており、差出人には国王陛下の御名が記されていた。


 封を開けると中には上質な紙でつくられた、招待状が入っていた。


 「ああ。王宮で開かれる夜会への招待状ですな」


 サイモンが言った。


 毎年十二の月に、王宮では貴族達を招いて夜会を開催する。

 これは、その招待状だという。


 招待状には、夜会の開催日時などの形式的な内容が整った文字で記されていた。


 一通り目を通した私は、招待状の隅に添えられた一文に気づく。

 それは、これまでとは明らかに違う筆跡で書かれていた。


 『王都の婦人の間で話題の甘味を味わえることを楽しみにしている』


 「これは……陛下がお書きになったの?」


 旦那様にも見ていただいた。


 「ああ。これは確かに陛下のご筆跡だ。わざわざ書き添えられたんだな」


 苦笑を浮かべた旦那様から招待状を受け取り、私はもう一度その一文を見た。

 

 陛下のお耳に届くほど、赤豆のペーストが話題になっているなんて。

 

 なんだか、思っていたよりも大きく広まっていたのね。

 私は驚くとともに気を引き締めた。



*



 招待状を受け取ってから二日後、今度は王都のマチルダ叔母様からお手紙が届いた。


 『夜会に出られるのでしょう?それならば、馴染みの仕立て屋を紹介するから少し早めに王都にいらっしゃい。今度は我が家にもご招待したいの』


 ——手紙にはそう書かれていた。


 叔母様の温かいお心遣いが嬉しかった。

 

 旦那様にもお見せすると、


 「叔母上は、君のことをよほど気に入っているんだな」


 と笑っていらっしゃった。


 旦那様と相談して、私たちは十の月の終わりに領地を出発することにした。


 


 「道中気をつけてな。土産話を楽しみにしておるぞ」


 出発当日、おじい様がニッと笑った。

 おじい様とサイモンは領地に残って留守を守ることになっている。

 王都へついてくるのは、メイサともう一人の侍女、そして護衛の騎士と兵士がそれぞれ数名ずつ付き従う。


 「おじい様は王都に行かれなくて本当によろしかったのですか?」

 

 王都にはおじい様のお知り合いもいるだろう。

 それに、一ヶ月以上もおじい様と会えないのは、私が寂しい。

 そう思って尋ねると、


 「この歳じゃから、昔からの知り合いはもう随分と少なくなってな。それに……」


 そう言って、おじい様は顔を顰めた。


 「わしが行ったら、王都の騎士たちに囲まれてしまう」


 「あ……」


 ……そう言えば、おじい様は戦争の時のご活躍で『北方の守護者』と称されたほどの武人だった。


 騎士たちの中にはおじい様に憧れている者も多いという。


 中でも、現在の近衛騎士団長は、お若い頃におじい様を慕って、一時期辺境伯軍に在籍したほど敬愛していらっしゃると、旦那様から以前聞いたことがある。


 「むさ苦しい男どもに囲まれるくらいなら、ここでゆっくり過ごしている方が良い」


 「まあ!ウフフ……」


 おじい様らしい理由に、私は思わず笑ってしまった。

 

 「旦那様、荷物の積み込みが完了しました!」


 同行する騎士の報告を受けて、旦那様が頷いた。


 「そうか。それでは、俺たちも馬車に乗ろう」


 旦那様に促されて、私たちも馬車に乗り込んだ。


 「じい様。俺たちがいない間、領地を頼む」


 「おお。任せておけ。お前たちも、夫婦水入らずで楽しんで来い」

 

 ニヤリと笑うおじい様の後ろで、サイモンがゆっくりと頭を下げる。

 それに続いて、他の使用人たちも一斉にお辞儀をした。


 馬車がゆっくりと動き始めた。


 「行って参ります!待っていてくださいね!」


 私は馬車の窓から顔を出して、皆が見えなくなるまで手を振り続けた。



 


次回更新は

10月13日(火)20時です。

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