44. 慰霊の日②
すべての遺族の方とのお話を終え、私は用意されていた席についた。
領主一家の席にいたのはおじい様だけだった。
旦那様は式典の流れを確認するため、席を立っているようだ。
メイサが淹れてくれた温かいお茶を飲み、ほっと息を吐く。
「なかなか、辛い役目じゃろう」
隣の席のおじい様に声をかけられた。
おじい様は、旦那さまのお母様が亡くなられてから私が嫁ぐまで、この役目を務められていた。
「……はい。遺された方の心に寄り添う言葉をかけるのは難しくて……戦死された方のご家族へは、特に……」
本当にあの言葉でよかったのだろうか?
後になってだんだんと不安になってくる。
「そうじゃのう。何年やっても慣れんものだ」
おじい様はそう言って私を見ると、穏やかに目を細めた。
「だがのう。遺族の悲しみや苦しみを思い、どう言葉をかけようか悩んでいるお前さんは、間違いなく遺族に寄り添っていると、わしは思うぞ」
おじい様の優しい言葉に私は心が温かくなった。
しばらくして、式典の確認を終えた旦那様が席へ戻ってきた。
「おかえりなさいませ」
そう声をかけると、旦那様はふっと目元を緩められた。
「ああ。君も、遺族への挨拶は終わったようだな。慣れない役目に疲れてはいないか?」
「いいえ」
「それは良かった。もうじき式典が始まる」
「はい」
旦那様の言葉に、私は改めて顔を引き締めた。
*
やがて、慰霊の式典が始まった。
まず、旦那様が壇上へと上がり、集まった領民を前に亡くなった方々への哀悼の意を述べられる。
「今日、この場において、我々は、この一年間に亡くなられた方々を悼み、その魂が安らかに眠ることを祈る」
旦那様の落ち着いた声が、静まり返った広場に響く。
領民達も、旦那様の言葉にじっと耳を傾けている。
「そして、戦いで命を落とした者たちにも深く哀悼の意を捧げる。彼らがこの領地を守り、懸命に戦ったことを、我々は決して忘れない」
旦那様はここで言葉を切ると、領民達を見回された。
「……最近、隣国の砲声が以前より増えていることに、不安を感じる者もいるだろう」
その言葉に広場がざわめく。
しかし、旦那様がゆっくりと見渡されると、静寂が戻っていく。
旦那様が言葉を続けられる。
「もし、懸念するような事態になったとしても、我々はこの領地を守り抜く。ここで暮らす者たちのために、戦うことを誓おう。だから、心配はしないでくれ」
旦那様がそう言うと、はじめは誰かが小さく手を打った。
それを合図に、次第に拍手の数が増えていく。
やがて、広場全体に大きな拍手の音が鳴り響いた。
拍手は、旦那様が壇上を下りた後もしばらく続いていた。
ようやく拍手が止むと、司祭様が壇上に上られた。
「これより、亡くなられた方々へ安寧の祈りを捧げます」
そうおっしゃって、厳かに祈りの言葉を紡がれる。
私たちも、領民たちも静かに頭を下げて、亡くなった方の冥福を祈った。
*
式典が終わると、私たちは辺境伯家のお墓へ向かった。
私はこちらを訪れるのは初めてだった。
「ここが、俺の両親の墓だ」
隣り合った、まだ新しさの残る二つのお墓。
墓石にはそれぞれ『ナタン・ブラッドレイ』と『ハンナ・ブラッドレイ』の名が刻まれていた。
「お二人とも、二十年前に亡くなられたのですね」
私がそう言うと、旦那様は静かに頷かれた。
「ああ。父は戦争で亡くなった。母は、父を亡くしたことで弱っていって、そのまま……」
「まあ……」
私は言葉を失った。
幼い時にご両親を相次いで亡くされたなんて。
「父は、領地のことを大切に思っていた。母も領民を愛していて……自慢の両親だった」
旦那様の誇らしげな口調から、ご両親のことを尊敬していらっしゃったのが伝わってきた。
「父は領主となる前に亡くなってしまったが……俺は、父の分もこの領地を良いものにしていこうと思っている」
そう話した旦那様は、私の方を向いて微笑まれた。
「君が来てから、領地は少しずつ良い方向へ変わってきた。これからも、よろしく頼む」
旦那様の言葉に、私は目を丸くした。
――そんなふうに思っていただいていたなんて。
「……はい。お力になれるよう、精一杯努めさせていただきます」
そう言って私は、旦那様が差し出された手を取ったのだった。
次回更新は
10月9日(金)20時です。




