43. 慰霊の日①
アルシェイン王国では、十の月の十五日を慰霊の日としている。
この国を建国するにあたり、戦で散っていった人々を弔う目的で制定された日だ。
今では、故人を弔う以外にも、先祖へ祈りを捧げて感謝をする行事になっている。
この日の国民は、まず、貴族は屋敷内の礼拝室で、平民は近所の教会で祈りを捧げる。
私も、旦那様たちと城塞内にある礼拝室で、司祭様の祈祷を聞きながら、亡くなった人々の冥福を祈った。
礼拝が終わった国民の中には、墓参りをして故人へ思いを馳せる者もいるし、一方ではいつも通りに過ごす者もいる。
王都や大きな街には市が出ていることが多く、とても賑わうらしい。
しかし、ブラッドレイ辺境伯領では戦が身近なため、慰霊の要素が強い。
王都ですら行われなくなった慰霊の式典を、ここでは今もなお続けている。
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礼拝後、私と旦那様は式典へ向かうための支度を整えた。
私は濃紺の詰め襟のドレスをまとい、同色のレースの手袋を着けた。赤い髪はお団子にまとめ、濃紺のつばのない小さな帽子を被り、そこから垂れるチュールを目元にかかるようにした。
旦那様は濃紺の式典用の立て襟の軍服をまとっていた。
袖口や襟元には銀糸で控えめな刺繍が施され、ボタンや肩章の装飾も銀で統一されている。
城下町の広場に設られた式典会場に着くと、式典に参加する領民たちが既に集まっていた。
皆、紺や灰色、濃茶や暗い紫といった控えめな色合いの服を着ている。
その中に黒の喪服をまとっている人々が見えた。
彼らが遺族の方々だろう。
「奥様」
「はい」
サイモンが私を彼らのいる方向へ導く。
私が遺族たちに近寄ると、一番前にいた老婦人が丁寧に頭を下げた。
胸には名札がつけられている。お悔やみの品を贈った時の資料をもとに作られたものだろう。
その方の名前の下に、亡くなったご主人の名が小さく書き添えられていた。
「このたびは、お悔やみ申し上げます。ご主人を亡くされて、さぞお辛いことでしょう」
そう声をかけると、老婦人は小さく頭を下げた。
「ありがとうございます……。主人は長く患っておりました」
「そうでしたか……。では、長い間お側で支えていらっしゃったのですね。それは、お寂しいことでしょう」
そう言うと老婦人は静かに頷いた。
「どうか、お気を落とさずにいらしてくださいね」
「ありがとうございます。奥様に優しいお言葉をかけていただいて、嬉しゅうございます」
老婦人は涙ぐんだ目で私を見上げ、もう一度頭を下げた。
その後も、紹介される遺族の方の名札を見ながら、私は精一杯の言葉をかけていく。
お母様を亡くされた方、ご子息を若くして亡くした方、長い人生を終えられたお父様を見送った方。
亡くなった原因も関係性も様々だった。
「奥様、こちらの方々は先だっての戦闘で亡くなられた方のご遺族たちです」
サイモンに紹介されたのは、二組の遺族。
一組は、お父様を亡くされた二十代くらいの若いご兄妹。
もう一組は、奥様と思われる女性が小さな子と赤ちゃんを連れていた。
名札を見ると、亡くなったのはまだ若いご主人だ。
——こんな小さな子を残して……さぞ無念だったでしょうね。
私は胸が締め付けられそうになった。
「ご家族が我が領地を守って下さったこと、私は忘れません。何か困ったことがあれば遠慮なく仰って下さい」
そう声をかけると、二組の遺族は静かに頭を下げた。
連れられている幼い子は、まだよくわかっていないのか、きょとんとしている。
——この子達には健やかに育ってほしい。
私はそう願わずにはいられなかった。
次回更新は
10月6日(火)20時です。




