41. 五十五年越しの和解 (※アーロン視点)
馬車を降りたわしらを迎えたのは、異民族の村の村長——ロウ・プラドだった。
「出迎え感謝する。プラド村長」
「お久しぶりですな。アーロン様」
毎年、慰霊の日の式典で見かけてはいたが、こうして言葉を交わすのは、幼い頃のあの日以来だ。
お互い、固い表情のまま挨拶を交わす。
「では、参りましょう」
挨拶を終えると、ロウはすぐに背を向けて歩き出し、わしらはその後ろをついて行く。
背を丸めてゆっくりと歩く後ろ姿に、彼が生きてきた歳月の長さを感じる。……いや、それはわしも同じか。
本当に、随分長い年月が経ってしまった。
*
ロウに案内をしてもらったのは、村はずれにある墓地だった。
その奥に進むと、大人がようやく抱えられるくらいの大きな石が並べられた場所に辿り着く。
石には小さな木の札が掛けられていて、名前と思しき文字が記されていた。
『思しき』と言ったのは、文字が掠れて見えづらくなっていたからだ。朽ちてしまっている札も多く、ここにある墓が、古いものであることが窺えた。
「……こちらにあるのが、あの戦争で死んだ者たちの墓です」
背を向けたまま、ロウが言った。
わしはゆっくりとロウに歩み寄り、隣に立った。
「この墓は……お前さんの父君の墓か」
ロウの前にある墓を見る。
「はい」
ロウは小さく頷いた。
「そうか……」
わしはその場に片膝をつき、墓石を見つめた。
幼かったわしを迎えてくれたロウの父親の姿が、昨日のことのように脳裏に浮かぶ。
「優しい方だったのう。領主の息子に来られても面倒だろうに、困りながらも受け入れてくれた」
子供だったわしは、拒絶されないのをいいことに、随分と甘えてしまったが。
「……親父は、あんたが来るのを楽しみにしておった」
ロウがぽつりと言った。
驚いてロウを見上げると、やつもわしの隣で膝をついた。
「異民族である自分たちを、奇異の目で見ることなく慕ってくれるのが嬉しかったらしい。あんたのお父上にも感謝していた。行く当てなく流離う身だった自分たちを受け入れてくれたからな」
ロウの父親だけでなく、村の他の大人も同じ気持ちだったという。
わしは黙ってロウの話に聞き入った。
「……だから、あの戦争の時も、親父たちは嫌がることなく徴兵を受け入れた。『領主様に恩返しができる』、と」
そう言ってうつむいたロウが鼻を啜った。
泣くのを堪えているのか、微かに肩が震えている。
「親父には、『もし俺が死んでも、領主様たちを恨むな』と言われていた。だが……わしは……それを破ってしまった。親父たちを喪った悲しみとやるせなさから、あんたを拒絶してしまった」
ロウがうつむいたまま顔を覆った。指の間から堪えきれずに涙がこぼれる。ぽつりと落ちた涙が、乾いた土の色を変えていく。
わしはロウの肩に腕をまわした。固く目を閉じ、天を仰ぐ。
「……お前さんがわしにした事は間違っとらん。わしは、お前さんの父親たちを守れなかったんじゃからな」
領地への疑いを晴らすためという父の言葉に逆らえず、異民族の村人を見殺しにした。あんなに優しかった人々を。
「今までここへ来れんかったのは、自分への戒め……いや、後ろめたさからじゃ。亡くなった者たちも、わしらを恨んでいるじゃろうと思っていたからな」
わしを見つめながら話を聞いていたロウが、ゆっくりと首を振る。
「……親父たちは、あんた達を恨んどらんよ」
そう言うと、自分の父親の墓へ視線を向けた。
「恩返しができると喜んでいたからな。戦場へ向かう時も、どこか誇らしげな顔をしていた」
ロウの表情が緩んだ。
その横顔は、今までのわだかまりが解けたかのように穏やかだった。
「わしも、あんたの事は恨んでおらん」
そう言ってこちらを向いたロウの顔に、幼い頃の笑顔が重なる。
「そうか……そうか……」
堪えきれずに溢れた涙で視界が滲んだ。
今度はわしがうつむき、その背中をロウがいつまでも撫で続けていた。
次回更新は
9月29日(火)20時です。




