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37. 実家からの遣い①

 お父様に返事を送った一週間後。


 私は旦那様の執務室で、一緒にお茶を飲んでお話をしていた。

 そこへ、珍しく侍女長のヘレナが部屋を訪ねてきた。


 「申し訳ございません。奥様に、ご実家から遣いの方が訪ねていらっしゃいました」


 「実家から?用件は何ですか?」

 

 「それが……用件をお聞きしても、『お嬢様に直接申し上げます』としかおっしゃらないのです」


 ヘレナによると、訪ねてきたのは二十代前半の若い青年だという。

 おそらく、一番若い執事の青年だろう。

 用件も、だいたい予想はつく。


 「そう。彼は今どちらに?」


 「応接室にお通ししています」


 「わかったわ。私が対応します」


 私はそう言って立ち上がり、旦那様を見た。


 「旦那様。申し訳ありませんが、私はこれで失礼いたします」


 すると、旦那様も立ち上がった。


 「俺も行こう」


 「えっ!?」


 私は思わず声をあげた。


 「あの、私の実家のことなので、私が……」


 旦那様を巻き込むわけにはいかない。

 私はそう思ったのだけれど、


 「先日の手紙のこともある。俺も辺境伯家当主として、話を聞こう。サイモン、お前も同席しろ」


 「はい。承知いたしました」


 旦那様は手早く上着を羽織ると、サイモンにも声をかけ、私より先に部屋を出て行ってしまった。


 「……奥様とのお時間に水をさされたのがお嫌だったんでしょうね」


 ヘレナが苦笑を浮かべてそう言った。

 そ、そうなのかしら。

 戸惑いながら、私も旦那様の後を追った。



*


 応接室の前では、旦那様とサイモンが待っていた。

 サイモンがノックをすると、内側からメイサが扉を開けてくれた。


 私は、サイモンに続いて部屋に入る。

 ソファに座っていた見覚えのある青年と目が合った。


 「お嬢様!」


 青年執事は、ほっとしたような表情を浮かべて立ち上がった。

 けれど、私に続いて入ってきた旦那様を見るなり、その表情が固くなった。


 「あの、そちらの方は……?」


 「……ブラッドレイ辺境伯家当主、イーサン・ブラッドレイだ」


 「辺境伯閣下!?」


 旦那様が静かに名乗ると、執事は大きな声をあげた。

 しかし、サイモンの咳払いで我に返り、気まずそうに頭を下げる。


 「し、失礼いたしました」


 「構わない。当主として、俺も同席させてもらう」


 旦那様がそうおっしゃり、私に向かって着席するよう促す。

 旦那様と私がソファに座ると、執事も遠慮がちに腰を下ろした。



 「——早速だけれど、用件を聞いていいかしら」


 「はい。あの、我が領の慰霊の日の準備について、お嬢様にお力添えいただきたく……」


 やはり、用件は慰霊の日の事だった。

 私からの返事は二日ほどで届いているはずだ。それを読んだ上で遣いを送って来たのかしら。


 「先日お返事いたしましたが、慰霊の日の準備についてはそちらの家令が詳しいです。家令にお聞きになればよろしいかと」


 そう答えると、執事は一瞬視線をさまよわせた後、言いづらそうに小さな声で言った。


 「……家令殿は、辞めてしまわれました」


 「え?」

 


次回更新は

9月15日(火)20時です


 

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