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34. 叔母上の願い   (※視点変更あり)

 叔母様が帰られる日。叔母様は旦那様とお二人で、旦那様のご両親のお墓参りへ向かわれた。


 お墓参りは故人の命日や、十の月に行われる『慰霊の日』前後に参るのが一般的だ。

 しかし、叔母様はご領地の『慰霊の日』があるため、こちらにいらっしゃる度にこうして参られているらしい。


 先に叔母様のお荷物を馬車に積み込んでいると、お二人が戻っていらした。

 

 「アンジェリーナ様、どうもありがとう。とても楽しかったわ」


 叔母様が私の手を取って微笑まれる。


 「こちらこそ、ありがとうございました。とても勉強になりましたわ」


 「お茶会のことは任せておいてね。あと——」


 叔母様がすっと目を細められた。


 「ダンスの練習は忘れずになさい。辺境伯夫人として夜会にお出になるのだから」


 「は、はい」


 有無を言わせぬ口調と眼差しに、私は思わず何度も頷いた。


 「イーサン殿もですよ」


 叔母様は旦那様にも忘れずに釘を刺した。


 「……はい」


 旦那様も叔母様には逆らえないらしい。

 それがおかしくて、私は小さく笑った。


 「ご連絡差し上げたら、赤豆のペーストを送ってくださいね。良い結果を報告できるよう頑張りますわ」


 叔母様はそう言って、アルティス侯爵領へお帰りになった。


 叔母様がいらっしゃった五日間は、とても濃いものだった。

 餡子について話して、商売のことも少し教わって……あと、礼儀作法やダンスも。


 「……とても、素敵な方でしたわ」


 馬車を見送りながら、私が呟くと、旦那様は穏やかに微笑んだ。


 「そうだろう?自慢の叔母だ」


 そう言いながら、旦那様もすっかり小さくなった馬車をじっと見つめている。


 ……お墓参りで叔母様と何か話されたのだろうか。

 気になったけれど、こうしてばかりはいられない。


 私にはこれからやることがたくさんある。

 赤豆のペーストの準備と、十の月にある慰霊の日の準備だ。


 慰霊の日は各家庭でお祈りやお墓参りをし、家族を亡くした家には領主から見舞いの品が贈られる。

 私も実家の領地では毎年準備を手伝っていた。


 しかし、辺境伯領ではそれに加えて慰霊式典も行うという。

 後で手順の確認をしなければ。

 私は改めて気を引き締めたのだった。



*


【イーサン視点】



 叔母上が乗った馬車を見送っていた俺は、隣に立つアンジェリーナへそっと目をやった。


 彼女は叔母上にすっかり懐いたようだ。

 同様に、叔母上もアンジェリーナのことを気に入っていた。

 だから、両親の墓参りで俺にあんなことを言ったのだ。


*



 「お姉様、お義兄様、今年も参りましたよ」


 墓の側に花をそっと置いて、叔母上が静かに語りかける。

 辺境伯家代々の墓地に、二つ並ぶ墓石。

 ——二十年前に亡くなった俺の両親の墓だ。


 「今年は、おめでたいことが続きましたわ。息子夫婦に二人目の孫が産まれましたの」


 叔母上は、毎年両親の墓前で近況報告をする。

 我が子の結婚、息子が侯爵家を継いだこと、俺が辺境伯になったこと。そして、夫を亡くした悲しみ。なんでも話した。


 「イーサン殿も、奥方を迎えられました。アンジェリーナ様と言いますの」


 話題が俺の結婚の話になったので、自然と身構える。



 「……ご実家で辛い思いをなさっていたようだけれど、とても健気に頑張っています」


 ……叔母上はそんなことまでご存知だったのか。

 俺は、結婚後初めて帰還した時にじい様から聞いたというのに。


 その後、叔母上はアンジェリーナが作る甘味のこと、それを広げる手伝いをすることを話した。


 「良い子だから、お姉様達もきっと気に入るわ。どうか見守っていてくださいね」


 そう締めくくると、叔母上はゆっくりと立ち上がった。

 叔母上に腕を貸し、二人で屋敷に戻る。


 

 「……あなたが、あの子の妹君に求婚したと聞いた時は耳を疑ったわ」


 前を向きながら、叔母上がぽつりと漏らされた。


 「あの子は違ったけれど、ご実家の方々は平気で田舎を馬鹿にする見栄っ張りばかりよ」


 「それは……」


 知っていた。だからこそ求婚したのだ。

 

 「あなたが結婚に前向きでないのはわかってたわ。でも、陛下にさんざんせっつかれたそうね。それで、おおかた断られる前提で求婚したんでしょう?」


 俺は息を呑んだ。叔母上には俺の考えは見透かされていたのだ。

 会う度に陛下から『結婚はしないのか』と言われるのにうんざりしていた。

 一度求婚して断られれば、しばらく逃れられると思ったのだ。

 ……今思えば、随分と浅ましい考えだったが。


 「うちの息子も馬鹿よね。あなたに、フェルナー伯爵が田舎嫌いだと教えて。そのせいで、アンジェリーナ様が代わりに嫁ぐことになったと知って、気にしていたわ」


 叔母上がため息をつく。

 アルティス侯爵が悪いのではない。よく調べなかった俺が悪いのだ。

 ロゼリア嬢以外にも娘がいるなんて知らなかった。


 「田舎は嫌い。けれど辺境伯家との縁は欲しい。そんな思惑で、アンジェリーナ様はあなたに嫁ぐことになったのよ」

 

 淡々とした口調で話しているが、叔母上が怒っているのはひしひしと伝わってきた。


 「……でも、あの方は一生懸命に頑張っておられる。だから、私は応援いたします」


 叔母上の声がふわりと和らいだ。


 「あなたも、そうでしょう?」


 そう言って、俺の方を見上げた。


 「ダンスの練習の時、気づいたわ。あなたがあの子を見つめる目……とても優しかったもの」


 「……」


 俺は黙り込んだ。そんなに態度に出ていたのか。

 叔母上は俺の反応を楽しげに眺めると、「イーサン殿」と声をかけた。


 「アンジェリーナ様を大切にね」


 「……はい。もちろんです」


 そう答えると、叔母上は満足そうに頷かれた。




次回更新は

9月4日(金)20時です。

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