33. 頼りになる叔母様
叔母様が力になってくださったのは、餡子を広める計画だけではない。
あのお茶会の後、叔母様に尋ねられた。
「ところで、アンジェリーナ様は社交の方はどうなのかしら」
そう尋ねられ、私は気まずさから俯いてしまう。
「お恥ずかしいことですが、ずっと実家の領地で暮らしていたので、デビュタント以来、夜会には一度も参加しておらず……ダンスは辛うじてステップを踏める程度です」
「そうですの。わかりましたわ。では、特訓いたしましょう!」
「は、はい?」
特訓?
戸惑っている私に叔母様はにやりと笑われた。
その翌日。
「アンジェリーナ様、下を向かない!堂々となさって!」
広間で旦那様と躍る私に向けて叔母様の指示が飛んできた。
「は、はいっ!!」
私は慌てて返事をして顔を上げる。
「イーサン殿も!しっかりリードなさらないと、アンジェリーナ様が困ってしまわれますよ!」
「うっ……」
旦那様も厳しい指摘に呻き声をあげる。
旦那様とダンスをするのはこれが初めてだった。
こんな時は、もう少し甘い雰囲気になると思っていたのだけれど……。
叔母様の指導は厳しく、とてもそんな雰囲気にはならなかった。
このダンス指導は、叔母様が帰られるまでの五日間、毎日行われた。
その合間には、叔母様と餡子を広めるための話し合いを重ねたり、アルティス領の茶葉の評判を知りたいという叔母様のお出かけにもお供をした。
*
お連れしたのは、以前旦那様と訪れた大通りの喫茶店だ。
店主から茶葉の評判と売れ筋を聞けた叔母様はとても満足していらっしゃった。
「やはり、昨今は香り付けされていたり、癖のない味わいの茶葉が好まれるのよね。私は渋みのある方が好みなのだけれど……」
店を出ると、叔母様は聞き取りをしたメモを見ながら、なにやら難しい顔をして呟いておられた。
「ああ、でも、赤豆のペーストには渋みがある茶葉の方が合うかもしれないわね。お茶会ではその茶葉と合わせましょう」
やがて、納得がいったのか、にこりと笑みを浮かべられた。
「叔母様は、領地のことを大切に思っていらっしゃるんですね」
そう言うと、叔母様はこちらの方を向かれた。
「旅先でまで、自ら茶葉の評判を調べられるなんて……私も見習わなければと思いましたわ」
「まあ、ありがとう。私自身お茶が好きだし、皆さんにも美味しいお茶を召し上がっていただきたいですからね。それに——」
叔母様は穏やかに微笑まれ、何かを思い出すように遠くを見つめられた。
「亡くなった夫と大切に育ててきた事業ですからね」
マチルダ叔母様がアルティス侯爵家に嫁がれた時、侯爵家の事業はうまくいっていなかった。
お茶の事業もやめる話が出ていたのを、叔母様が立て直したそうだ。
侯爵夫人が自ら茶畑を見に行ったり、市場を調べることに、周囲はいい顔をしなかった。
しかし、夫である前侯爵は、叔母様を信じて好きにさせてくれたらしい。
そして、今ではアルティス侯爵領の茶葉は王室御用達になっている。
その話を聞いて、私はますます叔母様を尊敬した。
「素晴らしいですね」
思わずそう言うと、叔母様はふふっと笑い声を漏らした。
「それを言うなら貴女もよ」
「えっ?」
「嫁いだばかりなのに、新しい特産品を作って広めようとしている。大した行動力だわ」
そう言われて私は頬が熱くなるのを感じる。
「まるで昔の私を見ているみたい。だから、応援したくなったの」
叔母様は優しい眼差しを私に向けられた。
「だから、あなたも遠慮なく私を頼りなさい。そして、イーサン殿のことも。あの子も、貴女の力になりたいはずよ」
叔母様の言葉で私の心は温かく満たされていった。
——やがて、叔母様が帰られる日になった。
次回更新は
9月1日(火)20時です。
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