32. 叔母様の後押し
「そちらは、赤豆のペーストです。我が領の村で育てている豆を甘く煮詰めて作りました」
このお茶会の席には、叔母様にも食べていただこうと、餡子を使ったお菓子をいくつか準備していた。
羊羹やペーストを挟んだ焼き菓子……けれど、初めて口にする方には、スコーンに塗っていただく方が良いだろうと、こちらも用意していた。
「まあ、これがそうなのね!?」
マチルダ叔母様が声を弾ませる。
そして、すぐに恥ずかしそうに咳払いをされた。
「ダンヴェル伯爵夫人から、このペーストのことも聞いたわ。『とても美味しくて、また食べたい』と仰っていたから気になっていたの」
「まあ、そうでしたか」
マチルダ叔母様に伝えるくらい、伯爵夫人にも気に入って頂けたのね。お贈りして良かったわ。
「それでは、いただくわね」
叔母様がペーストを掬ってスコーンにのせる。
そして、一度じっと見つめると、一口齧られた。
叔母様の目が、みるみるうちに見開かれていく。
「……まあ!こんなの食べたことないわ!なんて美味しいの!!」
口元を押さえて仰ると、すぐに残りも口にされる。
そして、足りなくなるとまた塗って……夢中になって召し上がられた。
「ああ、美味しい。今までに出会ったことのない味だわ」
餡子を使った他のお菓子も堪能され、伯母様は満足げに口元をハンカチで拭われた。
「ねえ。このペースト、王都に広めてみる気はない?」
「王都にですか?」
私が驚いて聞き返すと、叔母様はにっこりと頷かれた。
「ええ。今、王都で流行っているお菓子とは違った風味だし、十分好まれると思うの」
叔母様は自信に満ちた口調で続けた。
「私のお茶会でこのペーストを出すわ。王都のご婦人方は新しいものが好きですからね。それで一気に広めるの」
息子夫婦が後を継いだとはいえ、叔母様はいまだに社交界に広い人脈をお持ちなのだという。
その中には、同じように商売に力を入れる家もあれば、贅沢品や流行り物に目がない家もある。
「そのようなことが、できるのですか」
私の言葉に、叔母様は力強く頷かれた。
「ええ。このペーストなら大丈夫。私に任せて」
*
その後は、叔母様に餡子を作る工程を見ていただき、王都に運ぶための話し合いを重ねた。
王都はブラッドレイ辺境伯領から馬車で十日。
餡子を少しでも長く保たせるため、砂糖を増やし、できるだけ水分が残らないように煮詰めることにした。
風味が変わってしまうことが心配だったけれど、
「まあ、このくらいならば十分許容の範囲内でしょう。『出来上がりを味わえるのは辺境伯領だけ』という差別化にもなりますわ」
叔母様から及第点をいただいた。
餡子を運ぶ容器も決まり、秋の社交シーズンが始まったら、話し合った手順で叔母様のもとに届けることになった。
「ふふふ。こんなに胸が躍ったのは、若い頃にうちのお茶を広めるために開いたお茶会以来よ」
叔母様はそう言って微笑まれた。
次回更新は
8月28日(金)20時です。




