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31. 叔母様とのお茶会


 いよいよ叔母様とのお茶会の時間。

 中庭に準備したお茶会のテーブルで、私は一人でマチルダ叔母様を待っていた。

 そう、一人で。


 「せっかくマチルダ殿と親睦を深めるんじゃ。わしらがいては話しにくかろう」

 

 そうおっしゃって、おじい様と旦那様は辞退されたのだ。


 ——いてください!


 気を遣われたつもりだろうけど、私一人で叔母様とどう話せというの。


 緊張のあまり心臓が飛び出しそうだ。

 そんな風に思っていると、中庭に足音が近づいてきた。

 私は立ち上がって出迎える。


 「奥様、マチルダ様をお連れいたしました」


 「ありがとう。マチルダ叔母様、ようこそお越しくださいました」


 ヘレナに礼を言い、叔母様へと向き直る。

 叔母様は笑みを浮かべ、鷹揚に頷かれた。


 「ええ。あなたとお話しするのを楽しみにしていたの」


 ——アンジェリーナ様とは一度、お話をしてみたくて。

 

 叔母様の言葉に、先ほどの意味ありげな表情と言葉が重なる。


 「こ、光栄ですわ。どうぞ、こちらへ」


 動揺を悟られないようにしながら、私は叔母様を席へ促した。


 叔母様が着席されると、私たちのカップに紅茶が注がれる。


 「……この香り。我が領の茶葉を使ってくださっているのね」


 叔母様が嬉しそうにおっしゃった。


 「はい。香り高くて癖がなく、おじい様——いえ、アーロン様が特にお気に召しておいでで。私も、こちらへ来て初めて口にして以来、好きになりました」

 

 これはお世辞ではない。

 実家の領地でも茶葉を扱っていたけれど、アルティス侯爵領の茶葉は、それよりも洗練された味わいだった。


 「まあ、嬉しい。それに、『おじい様』と呼ばせるなんて、アーロン様に随分と気に入られているのね」


 そう言うと、マチルダ叔母様は紅茶を口にした。


 「……実を言うと、イーサン殿の結婚相手があなただと聞いて、少し心配だったの」


 カップを置いた叔母様がしんみりとおっしゃった。

 私はどきりとして、危うくカップを落としそうになる。

 私の動揺を感じ取られたのか、マチルダ叔母様は苦笑を浮かべられた。


 「あなた、というより、あなたのご実家かしら。あなたの父君のフェルナー伯爵は、田舎嫌いで有名な方だから」


 ——ああ、またあの父の話だ。


 恥ずかしいことだけれど、父とは離れて暮らしていたから、社交界の評判など知る由もなかった。

 ダンヴェル伯爵と父の諍いの話は、先日初めて聞いたけれど、マチルダ叔母様のご様子から、他にも色々とトラブルを起こしているのだろう。


 「イーサン殿が、あなたの妹君に結婚を申し込んだと聞いた時は耳を疑ったわ。妹君も父君同様、田舎嫌いの方だったから。けれど、イーサン殿に嫁いだのはあなただった」


 妹の話題が出て、ちくりと胸が痛む。

 そうだ。旦那様が妻にと望んだのは妹だった。

 それと同時に、悪評が立つほどの二人の言動を思い恥ずかしくなった。


 「……あなたは、長らく領地にいらっしゃったのよね。それだけで、なんとなくご事情はわかるわ」


 マチルダ叔母様の憐れむような口調に、私は羞恥で頬が熱くなる。

 惨めな娘だと思われているのだろうかと下を向いた。


 「領地から突然見知らぬ土地へ嫁入りして、苦労されるだろうと思っていたのだけれど……」


 叔母様はそう言うと、微かに笑い声を漏らした。


 「心配は無用だったようね。城の皆と領民に慕われていると、ヘレナから聞いたわ」


 思わぬ言葉に私は顔を上げて叔母様を見る。


 「それに、ダンヴェル伯爵夫人も……ああ、彼女と私は文通をする仲なのだけれど、ダンヴェル伯爵があなたの事をしきりに褒めていたと仰っていたわ」


 叔母様は明るい声で言った。

 まさか、こんなに褒められるなんて。

 私は今度は気恥ずかしさから顔を赤くして俯いた。


 「お困りのようならお手伝いしようかと思っていたけれど……心配はいらなかったようね」


 叔母様の声はまるで娘を慈しむ母のように優しい。


 「これからも、イーサン様のことをよろしくね」


 「は……い。ありがとうございます」


 私は胸がいっぱいになり、こぼれた涙をそっとハンカチで拭った。


 「あらあら。泣かせるつもりはなかったのだけれど……」


 叔母様は困ったように笑われて、ぱん、と一度手を叩いた。


 「さあ、お茶会の続きをしましょう。……あら、これは?」


 叔母様の視線が、スコーン用のジャムと一緒に添えられている赤褐色のペーストへと向けられた。





次回更新は

8月25日(火)20時です。

 

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