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24. 心配性な旦那様

 額に触れた冷たい感触に意識が引き上げられる。

 重い瞼を開けると、見覚えのある天井が見えた。


 ……ああ、そうだ。旦那様が帰ってこられて、ほっとしたら急に具合が悪くなったんだ。

 たしか、その時に旦那様が私を抱き上げて下さって、私は旦那様の頬に、手を……。

 

 そこまで思い出した途端、頬がかっと熱くなった。

 すると、額にひんやりとした冷たさが残っていることに気づく。手を伸ばすと、氷嚢が額に乗せられていた。

 

 横になったまま首を巡らせると、ベッド脇の小さな棚の上に水差しを見つけた。

 喉が渇いていたので、水差しに手を伸ばそうとゆっくり身体を起こす。

 

 まだ怠さが残る身体は、なかなか思うように動かせない。

 その時、そっと肩が支えられた。


 「ありがとう、メイサ——」


 てっきりメイサだと思った。

 けれど、私を支えたのはメイサではなかった。


 「——目が覚めたか」


 思いもよらない人の姿に、私はそのまま固まってしまった。


 「旦那様……?」


 ようやく、それだけを口にした。


 どうして旦那様が私の部屋に?


 「君が目を覚ますまで、この部屋で仕事をしていた」


 そう言われて部屋を見回すと、私がいつも使っている机の上に書類が何枚も広げられていた。


 ——私が目を覚ますまで、ずっとここにいて下さったの?



 「まあ、奥様。お目覚めになられたんですね」


 その時、部屋に入ってきたメイサが私の顔を見て明るい声をあげた。表情も安心したように和らいでいる。


 「ええ」


 「喉が渇いていませんか?今、お水を——」


 そう言ってメイサが手を伸ばすより早く、旦那様が水差しを手に取った。


 「自分で飲めるか?」


 旦那様が私に水差しを差し出した。


 「まあまあ旦那様。奥様のお世話は私がいたしますのに」


 メイサが笑みを浮かべて言ったが、声はいつもより低い。


 「俺の方が近かったからな。俺が取った方が早いだろう」


 旦那様がそう言うと、二人は見つめ合い——いえ、どう見ても睨み合っていた。

 この二人、こんなに仲が悪かったかしら?


 「あ、ありがとうございます。自分で飲めます」


 お礼を言って旦那様から水差しを受け取る。

 口に含むと、心地よい冷たさの水が喉を潤していった。


 その間、旦那様は何も言わずに私の顔を見つめていた。

 そんなに見つめられると、なんだか落ち着かない。


 「旦那様、見つめ過ぎです。奥様に穴が開きそうですわ」


 メイサが呆れたように言うと、旦那様ははっとして気まずそうに顔を逸らされた。


 「……すまない」


 「い、いいえ。お気になさらず」


 メイサは私たちのやり取りを目を細めて見ていた。

 その視線がどこか生温かく感じるのは気のせいかしら。


 「さあ、旦那様。奥様がお目覚めになったので、ご自分の執務室にお戻り下さいませ」


 メイサがてきぱきと机の上の書類を重ね始める。


 「いや、もう少しだけ様子を——」


 旦那様は慌てたように反論したけれど、


 「奥様は汗をかかれているので、これからお召し替えなさいますの」

 

 と言われて、渋々といった様子で頷いた。


 「体調が戻るまで、ゆっくり休め」


 そうおっしゃる旦那様に、


 「あの、ダンヴェル伯爵へのお見舞いの品は……」


 と尋ねると、旦那様は苦笑を浮かべて


 「そういう事も、元気になってからでいい。とにかく休め」


 と念押しをして部屋を出て行かれた。


 その後、メイサは侍女とともに手早く私の着替えを済ませると、


 「今の奥様のお仕事は、ゆっくり休養されることですよ」


 そう言って私をそっと寝かせ、優しく掛け布を掛けてくれた。





次回更新は


7月28日(火)20時です。



************


いつもご覧いただきありがとうございます。

また、ブックマークと評価を下さった皆さま、

本当にありがとうございます。


おかげさまで、7月20日の日間ランキングで225位にランクインすることができました。


また、ご報告が遅くなりましたが、

6月17日の日間ランキングでは最高166位にランクインしていました。


応援していただいた皆様のおかげです。

心より感謝申し上げます。


これからも楽しんで頂けるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。


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