↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/52

20. 村でのひととき

 村に訪れると、プラド村長が出迎えてくれた。


 「おお、奥様。久しぶりだな」


 初対面の時の敵意が嘘のように、村長はにこやかだ。

 私も笑顔で村長の手を取る。


 「ええ。お元気でいらっしゃいましたか」


 「ああ、もちろん。……しかし」


 村長が私の後ろに控える領官長へ視線を向ける。


 「あんたも来たのか。クラークさん」


 そう声をかける顔は、『会いたくない奴に会ってしまった』とでも言いたげな苦々しい表情だ。


 「それが私の仕事なのでね」


 対して領官長はにこにこと笑顔を崩さない。


 あ、そういえば……。


 「お二人は、ご親戚なのでしたね」


 村長の息子のラウル・プラド卿と、領官長の娘であるメイサは夫婦だ。

 それを思い出して言ったのだけれど、村長が勢いよくこちらを睨みつけた。


 「親戚ではない!この人は倅の嫁の父親だ!」


 「そういうのを『親戚』と言うのですよ」


 大声で否定する村長を、やれやれと困ったような様子で領官長が嗜める。


 ……この話題にはあまり触れない方が良いみたいね。


 「さて、本日は先日追加で植えた赤豆の様子を見に伺いました」

 

 領官長が真面目な表情に戻って、訪問の目的を伝える。

 すると、村長も表情を引き締め、


 「ああ。そう聞いている。畑はこちらだ」

 

 と、私たちの先頭に立って案内をしてくれた。



 赤豆——小豆の畑は、村長の家の庭に作られていた。


 五列ほど等間隔に畝が並び、そこから小さな双葉を広げた芽が顔を出していた。


 「ふむ。種蒔きから二週間でしたな」


 領官長が畝のそばにしゃがみ込み、赤豆の芽をのぞきこんだ。


 「ああ。少し小さく感じるかもしれないが、ちゃんと育つ。四の月の終わりに種まきをしたものは、もうこんなに育っている」


 村長はそう言って、別の一角を指し示した。

 その小さな一角は、もともと家庭用に育てている赤豆の畑なのだろう。

 そこの赤豆は、草丈も伸びて青々と茂っていた。


 「だいたい四ヶ月ほどで収穫できる。後で蒔いた方は、うまくいけば十の月には収穫できるだろう」


 領官長は、村長の説明を領官に記録させる。

 そして、自身も手帳に書き込んでいった。


 「なるほど。栽培量が増えれば、赤豆のペーストの供給にも繋がりますし、村の収入源にもなりますな」


 「ああ。実際、パン屋から需要が出たお陰でいくらか収入があった」


 村長は私に向き直って頭を下げた。


 「……奥様には感謝している」


 かつて、不信感を露わにしていた村長からの感謝の言葉に、胸の奥が温かくなる。


 「いいえ。村の皆さんのご尽力あってこそです。こちらこそ、ありがとうございます」


 私がお礼を言うと、村長は頭をかきながらふいっと横を向いてしまった。


 「ま、まあ赤豆の成長具合はこんな感じだ。茶でも飲んで行くといい」


 気恥ずかしさを誤魔化すような、ぶっきらぼうな口調だけど、それが村長なりの不器用な労いだと思うと、つい笑みがこぼれた。



*



 「ところで、今日はいつもと違う侍女を連れているんだな」


 村長の家でお茶を頂いていると、村長が私の後ろに控える侍女を見て言った。

 今日はメイサではなく、まだ侍女になって間もない子を連れていた。


 「おや。メイサに会いたかったんですか?」


 領官長が目を細めて嬉しそうに尋ねる。


 「そっ……!ただ、気になっただけだ」


 村長があからさまに狼狽えて反論をした。


 「メイサは、旦那様達が戻られるまで、外出には同行させないようにしています」


 私は両手で包んでいる茶碗に視線を落とした。


 「……エマが、少し不安定になっていて」

 

 旦那様の出陣に同行した騎士の中に、メイサの夫でエマの父でもあるプラド卿もいた。

 エマは普段からプラド卿と顔を合わせる機会が少ないが、大好きな父親だ。周囲の慌ただしい様子から、いつもと違うことを感じたのか、心細い様子を見せるようになっていた。


 メイサを見つけると後を追うようになったので、侍女長のヘレナに相談をして、屋敷内ではエマをメイサの側におくようにした。


 「……奥様のお仕事のお邪魔をしていませんか」


 領官長が私に尋ねた。


 「いいえ。とてもお利口です」


 私が部屋で仕事をするときは、エマは同じ部屋で静かに絵を描いている。

 

 『お父さまに見せるの』


 と言って見せてくれた。


 「とても、健気な子です」


 あんな小さな子が父親の帰りを待っているのだ。

 ……私も、しっかりと留守を守らなければ。


 そう思った、その時。



 ——ドォン!


 突然響いた轟音に、私は思わず息を呑んだ。




 

次回更新は


7月14日(火)20時です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。