悠々の対義語は難しい字 ー6
ディーがみつけたというダンジョンまで向かって歩いていると、確かに氷や雪などの寒い属性をもった魔獣が多かった。
慣れない地形ということもあり、足場が悪いので極力戦闘を避け、目的地まで岩や斜面を利用しなるべく隠密しながら進んでいく。
あったかい服装や護符をもらっているものの、寒いものは寒い。
そのことで生じる問題といえば
「クロハなんか、動き悪いよね。動きっていうか、反応?」
ツワシがそういえば、ワンテンポ遅れた後に「そう?」と返した。
いつもなら敵がいれば気配で気が付き、周りに注意を促していたが、今回まったく言葉を発していない。
のそのそとついてくるだけ。
「クロハさんは表情が変わらないから、寒くないのかと思っていました」
ライラはそういってクロハに近寄るので、ほかの三人も同じようにその無表情な顔を見つめる。
相変わらずのこの世のすべての光を消し去る勢いの真っ暗闇な瞳に、上がることがほぼない口角、感情表現のときに唯一動く眉毛も、今は一文字のままピクリともしていない。
「……ちょっと、調べてみますね」
ライラは手を組むと女神の魔法を唱えた。
「この世に生と愛を受けし命あるものに幸福を……」
聖なる光がこの場に溢れるように輝く。
「健全ノ祷」
優しい光がクロハを包み込むと、ホタルのヒカリのようにチカチカと輝いた後儚くゆっくりと薄くなり、最後にはフッと消えた。
「それってどういう魔法?」
「相手の健康状態を調べることができるもので、ついでに状態異常も治癒できます」
「すごいじゃん」
「ですが」
ライラは困った顔を見せた。
「クロハさんには女神の魔法があまり効かないようですね」
「呪われてんの?」
ツワシの頭を殴りながらシロハはクロハのほうをみる。
「そもそも状態異常なの?」
「はい、凍結状態ですね。寒さでみんな鼻や頬が赤くなっているのに、クロハさんはなっていないので、もしかして、とは思っていましたが」
「寒いのシスター?」
クロハにくっつきながら訪ねるシロハ。少し間をおいてから「眠い」とだけ返す。
「こりゃ前衛いないと思って行動したほうがいいね」
ディーが冷静にそういった後、指を鳴らした。
「四季ノ唄」
全員の周りに、四季に咲く代表的な花びらがひらひらと舞うと、あんなに寒かったのが嘘のように感じなくなった。
「耐寒スキルあるなら最初からつかってよ」
「効果30分しかないし、ちんたら歩いてなかったらもうついてるころだよ」
「私たち旅始めたばかりのぴよっぴよのぴよっこだよ」
かわいそうにといいながらクロハの背にのって頭を頬ですりすりするシロハ。
「そういいながら、歩くのめんどくさくなってくっついてるだけでしょ」
ぴっぴよぴーと言いながら目をそらすシロハ。
「どのみち、クロハに魔法効かないんじゃ、さっきのも意味ないんじゃないの」
「効かないわけじゃないよ。壊せるってだけで。私の魔法以外だと確かに鈍いけど」
「シロハの魔法だけ受け付けるとかじゃなくて?」
「とりあえずさ」
ツワシは指の先の洞穴を指差して「休憩しない?」と呼びかけた。
敵の気配を感じないので、一息ついて座り込む。
魔法がキいているのかいないのか、いまいち表情が変わらずわからないクロハのために焚火をつけておく。その一番近くに座らせてその背中をさすってあげているライラに、もふもふのラムダを頭にのせてあげているツワシ。
そんな様子を見ながら会話する魔法組
「凍結状態で眠いっていうことは、自己治癒で拮抗してるからから疲労して眠くなってんじゃない?」
「あー、なるほど。……ん? 凍結って自己治癒でどうにかなるのかな……?」
ディーの予想に納得の声を上げたが、すこし疑問を持つシロハ。
「まあそれはともかく、シロハにしか魔法がかからないという前提として、今後のクロハのことを考えると」
「うん」
「さっきの四季ノ唄ぐらいは覚えていたほうがよさそうだね」
ちょっとめんどくさそうな顔をしたシロハだったが、うん。と渋々といった感じの声で同意した。
トコトコと呆れた顔でツワシがやってくる。
「いつも世話になってるんだからそれぐらい努力したら?」
「うるさい役立たずの召喚士は黙ってて」
「ひどいッ」
傷ついた、とおよよと泣き崩れるツワシを無視してディーはシロハに魔法のコツを伝授していく。
「なーんであんなに双子は口も性格も悪いんだろうねぇ。ラムダ?」
「神様がそう創ったからじゃね」
「あ、覚醒した?」
魔法組に相手にされなかったのですごすご戻ってきたツワシ
いつのまにかライラにつくってもらったらしいホットミルクを飲みながら、クロハはその言葉に不思議そうに首をかしげた。
「別に起きてたけど」
「そういう意味じゃなくて、あれ、無自覚?」
頭の上のラムダの頬をなでながら、クロハは目を伏せてあくびをする。
「なんか、魔力吸われてる気がする」
「ラムダにそんな能力ないけど」
頭の上のラムダもめえと鳴いてツワシに同意する。
「てかクロハ魔力ないじゃない」
「魔法は使えないけど、人並みにはあるよ。まあそれすらもシロハに取られてないようなもんだけど」
「え、こわ。そうなの」
「あいつ無自覚だし、知らないだろうけど」
まあ知ってても気にしないだろう。自分大好きな奴だから。と付け加えた。
「シスターが大技うちまくっても大丈夫な底なしの魔力量は、他人の『感情に付着した魔力』を吸い取ってるからだよ」
「『感情に付着した魔力』とは?」
「わかりやすく言えば『殺意』かな、怒りと殺気があるだろう。怒りが感情で、殺気が魔力って感じ?」
ミルクを飲み終えたクロハはそれをライラに渡す。
「感情や思いを魔力に変換する……どこかで聞いたことがあります」
「珍しくないことなの?」
「あ、いえ、なんとなくの記憶しかないのでそこまでは」
ツワシはシロハのほうを見る。
魔法を真面目に教わっているが、めんどくさそうな顔を見せていた。
「シロハさんは、魔法が好きというわけではないのですか?」
「魔法っていうより、魔法を使って優位に立つのが好きだよね。授業でもあんまり真面目に聞いてなかったし、クロハもだけど」
そういうツワシをじろりと睨む。
「使いもできねえもんの話聞いてたってサ。おめーだって聞いてるふりして聞き流してたじゃんよ。真面目だけが取り柄のくせによお」
「ひどい、ちゃんと聞いてたよ。僕はクロハと違って初級なら魔法使えるもんッ……時間ものすごくかかるのと、へたくそなだけで」
どんぐりの背え比べでお互いを下げていたが
「……あ」
ラムダを膝の上にのせて背中をなでていたクロハが、何かを思い出したように口にした
「花鳥三姉妹について、思い出したことがある」
「大精霊ですよね。霊峰の名になったホーラ聖女がかつて契約していたという」
それは知らなかったとクロハとツワシは首を横に振る。
「魔法系じゃないと契約できないって。魔力経路のつながりのどうのこうのってホコタテねえちゃんが言ってた」
「クロハ意外と人の話聞いてるんだね」
「酔ったねえちゃんに羽交い絞めされながらうんちく語られたら、誰だって多少は入ってくるよ。お前らはさっさと私を犠牲にして逃げたけどな」
「ああ」
何かを思い出したツワシが目をそらす
「ふふ、楽しそうなお姉さんなんですね。お会いしてみたいです」
「ライラは一人っ子?」
「……兄が一人おります。もう何年もあってませんが」
ツワシが何か言おうと口を開いたとき、突然クロハの体の周りに光る花びらが舞っては消えていった。
少し離れたところにいたシロハが、るんるんと嬉しそうに小走りでやってくる。
「いえーい、四季ノ唄を習得なり~。シスターどう?」
「視界が明るくなった気がする」
「そんな効果はない」
珍しくまじめなトーンで突っ込むシロハに、真顔でみつめるクロハ。
そんな二人の間にディーは割り込んだ
「もういいでしょ、そろそろ行こう」
一行が洞穴から出ると、天気が晴れ晴れとしており、ほんのりと温かい。
気候は歩きやすくなったが道は険しいまま、時々こけそうになりながらもどんどん坂道を上がっていき、やっとのこさ目的地であるダンジョンの入り口にたどり着いた。
町をでて初めて挑んだとき同様、重々しい雰囲気を纏う扉が挑戦者を待ち受けるかのように開いている。
「ではおさらいです」
ライラの前に素直に座って耳を傾けるダンジョン初心者の三人。
「変なものには近寄らない、触れない、報告する。はい、復唱」
「変なものには近寄らない、触れない、報告する」
「へんなものにはちかよらなーい、ふれなーい、ほーこくするー」
「チカヨラナイ。フレナイ。ホウコク。」
「なんか一人片言じゃなかった?」
ディーは興味なさげに見ていたが、ライラとおさらいをしている三人を見て、今回もダメそうだなあとなんとなく予感する。
「バラバラになったら手間が増えるだけだから、これ使う?」
異次元空間から取り出したるは二つの黒いリボン。
双子はそれとディーの顔を交互に見て、ひそひそと言い合う
「一人だけ嫌に美容に気をつかってるとおもったけど、そっち系かなあ」
「黒ってところがあれかな、ヘラメルみたいなタイプかな」
「ゴスロリ」
「これを二人で結ぶと一定の距離を離れると、強制的にくっつくアイテムだよ」
「迷子防止によくつかわれるやつですね」
ライラの追加の説明にそうだよと即答
「俺の趣味とかじゃないから」
そういいながらディーは自分とライラの腕をリボンで結ぶと、すう……とリボンは見えなくなった。
消えたリボンは触れることができなくなっている。
「おぉ」
「見てて」
そう言ってライラからどんどん離れていき、小さくなった姿が見えなくなりそうなると、ディーが何かに引き寄せられるように飛んでくる。
ぶつかる直前にちゃんと足に力を入れて踏ん張ったディーは、もう一つのリボンをみせながら「ね?」といった。
「へー、おもしろーい」
といいながらシロハはそれを手に取って、さっそくクロハと結んだ。
「すごいねー。ところで、リボンはもうないの?」
「試作品もらっただけだから、ないね」
ツワシは双子の消えたリボンを見ていたが、ディーの顔をゆっくりと見た。
「僕は……?」
「いや、俺はツワシとクロハにしようとしたんだけどね、どうせシロハはいつもおんぶにだっこじゃん」
「はぁ?? 普通玄人と初心者がセットでしょ。それを先に組んじゃったのがおかしいと思いまーす」
「ライラは貴重なヒーラーだから一番に守らないといけないでしょ、危険察知して守れんの?」
「でーきーまーすーけーどぉー?」
シロハとディーがバチバチと火花を散らすのを、まあまあと諫めるライラ。
しょんぼりとしているツワシに、クロハは肩にぽん、と手を置いた。
「私に考えがある」
「いやな予感しかしないけど」
クロハはツワシの体を持ち上げる。
「こうやって持ち歩けばいいんじゃね。召喚士なんてどうせ後方で戦わないし」
「確かにそうだけども! 前衛が機能しなくない?!」
「今回やる気ない」
「急に??」
ここに来るまではあんなに積極的だったのに、急にやる気がなくなったようだ。
そんな様子を気にせず、ディーは中に入っていく。
中に入ればひんやりとしており、まるで冷凍庫に入ったかのようだった。体温調整の魔法をかけていなければきっと身を切られるように冷たいだろう。
そして定番なのか最初の入り口は薄暗い。
「今回は俺が先頭で行くから、シロハ、ライラ、クロハの順でついてきて。ツワシは……戦闘系の相棒いる?」
「えーと。戦闘系はいないけど、そもそもラムダしか相性よくないかも」
ケルカは風草タイプで、マッチズムは水タイプ。
ラムダは土岩なので、まだ影響は低そう。そもそも出身地がここということもある。
ツワシの頭の上で任せろと言わんばかりの「めえええ」と雄たけびを上げるラムダ。
「きゃわたーん」
それにメロメロなシロハ。
「じゃあ、後方任せたよ」
「んんめえ」
「きゃわわー。だっこしたーい」
「列が乱れるからダメ」
ぶうぶう言いながらも素直に従い、一行はフロアを進んでいく。
最初のフロアは大きなツララがぶら下がっている極寒エリアだった。
魔法の効果で寒くはないが、吐くと息が白い。
「うっきーうきっき! うっきゃー」
真っ白の毛皮のサルが現れ、遠くから威嚇の鳴き声を上げてこちらを様子見している。
ツララに器用にしがみついては、ほかのツララに飛び移ったり、なんとも素早そうだ。
「アイスモンキーですね。剛毛の毛皮は商人に人気だそうです。また主な攻撃はツララ投げと、毛皮針」
ライラは本を見ながら解説する。
ちらりと見えるタイトルは『お子様でもわかる世界の魔獣図鑑』
それをみたツワシが真顔でライラのほうを見た。
「ぼくにも後でみーせーて」
「え、あ、はい。もう一冊あるので、後で差し上げますね」
「予備も持ち歩いてんだ」
なんて緊張感なく話していると、目の前にツララが落ちてきた。
人ひとり押しつぶせそうなほどの大きなツララ。
飛んできた方向を見るとアイスモンキーが目を真っ赤にしてキイキイわめいている。
「くるよ」
「ほえ?」
ディーは振り返らずに後ろ手でシロハをつかむとそのまま前に放り投げた。
その直前に見えるは無数の巨大なツララをぶん投げているアイスモンキーの動作。
「豪爆炎」
爆炎を放出し、ツララを一気に溶かす。
水蒸気による霧が晴れる前にディーは走り出した。
サルたちは体を寄せ合い、体を震わせたかと思うとこちらに針のような毛が無数に飛んできた。
「守護神展開……ツワシ、ラムダにグランドバーン指示」
「え、あ。わかった」
飛んできた針毛は光り輝く結界にふれると、すべて淡い光となって消えた。
クロハに抱えられたツワシは言われるがままラムダに指示をだすと、技によってぐらぐらと大地が大きく揺れ、ツララがどんどんおちていき、アイスモンキーたちの居場所が狭まる。
そこに狙いをつけ、剣を向けて呪文を放つ。
「天上来電」
アイスモンキーの頭上に大きな雨雲が一瞬で現れると、まるで何かが爆発したかのような爆音を響かせ一瞬で雷が落ちる。
アイスモンキーたちが何が起きたかも理解できず、もくもくと煙を上げて地面に落ちていく。
「さ、次のフロアに行こう」
「ねえねえ、さっき私を盾にしたことは謝らないのかなあ」
「作戦だから」
「ふーん、そうなんだー謝らない気なんだあ。背後気を付けたほうがいいよお」
ディーはため息をつくと、異次元ポケットからほっかほかの肉まんを取り出して、まだ文句を言っているシロハの口に突っ込んだ。
また何か言いたそうにしていたが、おいしかったらしくもぐもぐと黙ってついてきた。
次のフロアにいくと、一面が緑の葉っぱのじゅうたんで覆いつくされていた。小さな葉っぱは愛らしくふわふわに見える。
立ち止ったままのディーに、ツワシは首を傾げた。
「進まないの?」
「道がないからね」
「え? その草道通れないの?」
ディーは近くにあった小石を草に向けて投げると、草の中をすり抜け石はちゃぽんと音を立てて沈んでいった。
「池だよ。葉っぱは浮き草だね。小さいから人は支えられそうにない」
シロハがもぐもぐしながら手を上げる。
「ふぉおらす?」
「この浮き草は氷系魔法をはじく特性があります。なので難しいかと」
葉っぱに触れながらそう伝えるライラにシロハは唸った。
「むうーん。ん! んっん! うーん」
ツワシと目があったシロハは、ジェスチャーで何かを伝えようとしている。
なにやらツワシを指差し、腰に何か巻く動作をしたあと、ほーいとなにかを放り投げるような動作をした。
「……ロープ付けた人間を向こう側になげるってこと?」
「うん」
「船ないからどのみち意味ないかな」
首を横にぶんぶんとふり否定する。
「?」
もぐもぐと食べきると、ごくんとのどを鳴らした。
「ツワシをこっちに引き戻すときに、草をできるだけひっかけてもらって、氷の道をつくる」
「嫌だよッ!!」
「ダンジョンの属性が氷だから、多分すっごい冷たいと思うよ水」
ほら、死んじゃう。とわめくツワシに、四季ノ唄やってるからいけるいけると根拠のない理論でぶっ飛ばす案を通そうとするシロハ。
ぎゃあぎゃあわめいている二人にはさまれているクロハがポツリ。
「ケルカは水面歩けるんじゃないっけ」
二人はぴたりと黙る
「ケルカ?」
基本ラムダばかりディーとライラの前に出しているので、聞き覚えのない名前に首をかしげる二人。
「試してみる? おいでケルカ」
ラムダと入れ替わるように現れるケルカ。
それをみてライラは手を合わせた
「ああ、シュンロー。確かに浮けますし、草を操ることもできますものね」
「まあ、そうだけど、そのお」
気まずそうな顔をしながらツワシは言った。
「風攻撃と、身体強化と、小回復の技しか覚えてないんだよねー。草操る系のスキルなくてさあ」
「移動にしかつかわないから」
非難するシロハに、だってえともごもごするツワシ。
それを無視してじっとケルカをみるディー。
「まあ、乗って渡れるのは良いと思う。二人のれる?」
「んー……」
ツワシはケルカのほうを見た。
ケルカは首を横に振る。
「一人」
「だよね」
「往復してもらう?」
ケルカはスン……と嫌そうな顔をした。
「召喚士じゃなくてもわかるや。嫌ですけどみたいな」
「ケルカは召喚士だったおばあちゃんから譲ってもらった子だからね、お嬢様気質っていってたかな」
「それでこんなに美しんだね。美人さんだなあって思ってたんだよ」
ディーの褒めた言葉が気に入ったのか、ふんっと顔をあげるケルカ
ツワシはそんなディーを信じられないという顔でみつめる。
「今まで見たシュンローのなかでも一番気品あって花が似合うね。こんなお姫様に俺たちを運ばせるなんて失礼だよね」
「……」
ケルカはツワシのほうをみると、顔をくいっと短く振った。
「え、あ、うん。なんかのせてあげなくもなくてよ。って」
「優しいね、お姫様」
ディーがそっとケルカをなでると、ケルカの目に♡が浮かぶ
すりすりとディーに頬を寄せるケルカの様子をみて、ディーは複雑そうな顔を浮かべた。
「このパーティは僕の使い魔を奪わないと気が済まないわけ?」
「ツワシが凡庸だからじゃね?」
シロハの言葉に「使い魔すら持てないくせに」と言い返す。
その間にディーがケルカの背にのって向こう岸まで行く。向こう岸につく前に、ライラのほうを見て声をかけた。
「リボンの効果発動するから、気を付けて」
「え、あ、きゃあっ」
たどり着いたとたん、ライラの体が浮き、ディーのほうに飛んでいく。
ぶつかる前にちゃんと受け止めるディー。
それをみた双子が顔を見合わせる。
杖を召喚すると、シロハは魔法を唱えた
「『風神夏舞』」
突風が巻き起こり、クロハとツワシをぶっ飛ばす。
悲鳴をあげるツワシに対してクロハは冷静で、ちゃんと着地すると飛んできたシロハを受け止めた。
「最初からこうすればよかったねー」
「心臓飛び出るかと思った! 息できなかったんだけど、クロハに守ってもらってなかったら絶対体ばらばらになってたって!」
「竜巻だからね」
「だからね、じゃない!!」
ケルカはツワシに顔を寄せて心配している。
シロハは反省してなさそうな顔で親指をぐっと立てた。
「往復しなくて済んだじゃん?」
「人を運ぶ魔法、こんど覚えようかな」
「そうしてください。誰かの体がばらばらになる前に、ぜひ」
ディーとライラが真剣な顔で相談しているが、全く気にした様子を見せないシロハ。
身の危険を感じたツワシがケルカからラムダに交代して抱きかかえる。
「二人はもう少し人の命を大事にして!!」
ごもっともなお怒りの言葉を発すると、二人は目を合わせて首を傾げた。
「大事にするって何さ」
「具体的にどーしろっていうの?」
「少なくとも人を攻撃しないの!!」
えー。という双子の反応を、ディーは眉をしかめながら聞いていた。
町でのことを思い出し、口を開こうとして、やはり気が変わり言葉を閉ざす。
「遊んでないで行くよ」
「いや死にかけたんですけど?!」
ぎゃあぎゃあわめくツワシを俵担ぎしながらクロハは歩き出す。
そんなツワシをあおるようにシロハはツワシのお尻を小気味よくぶったたく。
(ツワシと双子の関係が気安いから気づかなかったけど、おそらく町での扱いは良くないものだったんだろうな。ツワシはノンデリだから気づいてないだろうけど)
シロハの覚えている魔法が広範囲の高威力ばかりだったり、クロハがいくら回復体質とはいえ痛みを伴っているはずなのに、ほぼ痛いと口にも表情にも出さなかったり。
対人に対してのコミュニケーションの取り方がまず敵対する前提だったりするのは、今までそのようにしてしか人と接してきていなかったからだろう。
(今更そんなこと指摘しても無駄だしね)
だから黙っていることにした。
ライラのほうも感付いているようだが、はっきりとした答えがあるわけではないらしく、もやもやとしているようだ。気づいたとしても、ライラの大人しい気を使いすぎる性格から察するに、口にすることはないだろう。
ノンデリのツワシはこれまで通り気づくことはないだろうし、このまま何事もなくいくことにした。
「四季ノ唄」
新しく魔法をかけなおし、次のフロアに向かうのであった。




