雑談休憩
平坦で退屈な道中。
次の目的地までまだまだ遠い。
出会ったばかりの一行はまだよそよそしく、目を合わすことなく各々好きな方向を向いて無言でただただ歩いている。
しかしその沈黙を破ったのは、意外にもクロハだった。
「ライラって聖女候補じゃん」
「え、はい」
「自分の意志で聖女候補として聖都にいったの?」
「もちろんです。大変名誉なことですから」
とはいいつつ、その表情はあまり明るいものではない。
何か思うことがあるのだろうが、人に興味がないシロハが割って入る。
「聖女候補って何するの? お給料もらえる?」
「皆さんが思っている通りですね、お給料は役職がついてからで、私のような見習いは勉強期間ですのでもらえませんでした」
聖女候補は神官のいるところに集められる。その後ある程度基本的な知識を得た後、首都の中にある聖職者だけが住まう都市、聖都に全員集められ、そこで病人の治癒や魔物を寄せ付けない結界を張り、寝る前にこの世の平和、と女神様に信仰と感謝の祈りに一日を費やす。
「つまんなさそ、聖女候補じゃなくてよかったー」
「候補っていうけどさ、聖女はいないの?」
双子の言葉にライラはぎこちなく微笑む。
「今はいらっしゃいませんが、15年前はいたようです。確かお名前はーーー」
「どうやって選ばれるの? 処女じゃないとだめなの? お給料どんだけもらえんの? ライラは聖女になれそう? 護衛守護騎士が付くってホント? 聖女候は補美女ばっかりって本当?」
ぐいぐい質問攻めにして近寄ってくるシロハに困惑して、どんどんとのけぞっていくライラ。
見かねたツワシは二人の間に入ってとめる。
「やめなさい。何をそんな急に好奇心爆発してんの」
「暇でつい」
「っていうか聖女候補についてなら二人のおかあーー」
「それ以上しゃべったらお前の頭を丸禿にしちゃうぞ」
地雷を踏みそうになったツワシに警告した後、急にさめたのか、スンと真顔になりクロハの背中に抱き着くシロハ。
おんぶ拒否されいやいやと顔を横に振っている。
「ええと、聖女として認められるには、各地で大きな貢献をして多くの信者に支持されれば教皇様から宣誓されるようです、処女や容姿については特に重要視されていません」
「貢献? って聖女候補って大体聖都からでないじゃん。無償でやられたら教会が儲からないからって」
「私のように、貴族様の旅についていったり、聖者の巡礼の時に多くの人を救ったりすればですかね。護衛騎士様がつくのは役職持ちになってからだと思います」
「ほおん」
シロハはちらっと視線をディーに向ける。
「二人は恋人?」
「そそそそんな滅相もございません」
ぶんぶんと顔を真っ青にしながら激しく首をふって否定するライラ。
そんな様子を特に気にしていない様子でディーも頷く。
「ディー様とは神殿で出会いました」
「神殿で?」
「貴族の嗜みとして教会に献金するために年一に訪ねるんだよ。神殿ではこんな額もらいましたーって教会側が神様に報告というテイの祈りをして、見返りに無病息災の祈りをかけてもらうんだよ」
ツワシがすすすすと耳に手を当てたままディーに近づく。
「ちなみにいくら?」
「……」
ディーは耳打ちすると、ツワシの目がカッと見開いた。
「都会の貴族ってすげーっ」
「THE田舎者って感じの発言だね。結局ディーって大貴族様なの?」
「まあ、ある意味」
「なんでもったいぶった言い方すンの」
双子の言葉に肩をすくめて黙る。どうやらまだ話す気はないらしい。
また始まった沈黙の時間。
晴れていた空が雲がかかり、日の光が遮られて風もあって少し涼しい。
と、誰かのお腹がぐうと鳴る。
「休憩にしましょうか」
ごそごそとライラが食事の準備をしている横で、ディーがツワシのほうを見る。
「君たちは幼馴染なんだよね、仲悪いのか良いのかわかんないけど」
「「腐れ縁だよね」」
「双子の世話を僕のばあちゃんが見てたんだよ。それで一緒にいることが多くて」
「へえ」
ディーは双子を見る。
全く同じ顔のパーツなのに、髪色は反転していて、服の好みも真逆。おそらく性格も違うのだろう、雰囲気が全く違うので真顔にならないと、ただ顔の似ている姉妹にしかみえないときがある。
ディーに見られていると気づいたシロハが嫌そうな顔をした。
「やだ、シスター見て。私たちのことなめまわすように見てる」
「何見てんだおら。やんのか」
「こわ、チンピラじゃん」
何も言わないディーの代わりに突っ込むツワシ。
まったく気にしていない様子のディーは双子にむけて手を差し出す。
「ちょっとステータス見ていい?」
「他人のステータス見れんの?」
通常ステータスは自分のものしか見れず、そこでスキルを得たり経験値を振ったりする。
表示していても人には見えないものだが……。
「特殊なアイテムがあってね」
「へー。ヤダ」
「まあ、そうだよね。残念」
どうしても見たかったわけではなかったのだろう、彼は拒否の意をすんなりと受け入れた。
そして訪れる、何とも言えない沈黙。
誰も口を開かず、なんとなくライラの食事の準備に目を向けている。
「手伝うよ」
沈黙に耐えかねたツワシがライラの手伝いに駆け寄るが
「え、あ、もうできたので……大丈夫……です」
「あ、はい」
簡単に食べられるサンドイッチを頬張りながら各々の視線は好きなところを見ている。
ぼおっと空を眺めているクロハの背中にもたれながらご機嫌にもぐもぐしているシロハ。
「コーヒーと紅茶どちらを飲みますか」
ライラの言葉にシロハとディーはコーヒーを選び、ツワシとクロハは紅茶を選んだ。
「お二人は、双子でも好みは違うんですね」
「なんなら逆なイメージあるな」
ライラとディーの言葉に、双子は目を合わせる。
「双子だってそら違う人間だから」
「シスターと私、趣味嗜好真逆だよね」
「うん」
「それは……まあ見たまんまだね」
ハイライトのない黒い瞳に、愛想のアの字もない真顔で、きっちり束ねられた濡れ烏の髪、動きやすさ重視の運動系の衣装。
対して
光はあるが何も見てなさそうな黒い瞳に、どこか人を小ばかにした笑み、毎日結い方が変わるの月白の髪に、運動に向いていなさそうなヒラヒラフリフリの衣装。
共通しているのは瞳の色と、他人を信じていなさそうなところだけ。
再び訪れる沈黙。
「……えっと、ツワシさんの、その、フルモフはきれいな子ですね」
「ラムダ? とってもいい子だよ」
褒められて満足そうにめえと鳴くラムダ。
「技って何覚えてるの?」
ディーの言葉にえっと、と言いながらステータスを確認する動作をするツワシ。
「今のとこ、技は三つだね。羊毛らんらん、バイバイボディ、グランドバーンだよ」
「防御と、攪乱、それに行動麻痺か、攻撃系があるとバランスがいいね」
「うん……まあ……ないんだけどぉ」
少し気まずそうに眼をそらすツワシに、後ろでシロハが「ざーこざーこ」と煽る。
「いやそもそもシロハが人の使い魔を『洗脳支配』で指導権とって協力して敵を倒すから、経験値が分かれる上にとどめさすから上がらないんじゃないかー!」
「べーっだ。召喚士なんてサポートしかできないじゃーん」
ぎゃあぎゃあ言い争っている二人を見ながら、ディーはふむ。と感心した声をだした。
「洗脳支配使えるのすごいね、熟練者じゃないと使えない『欲望支配』よりも高位呪文だし」
「んっふー天才だもんね」
「自称じゃん」
「あん???」
ツワシとまたぎゃあぎゃあ言い合う。
そんな二人を無視しておいしそうにご飯を食べているラムダ。
「てか思ったんだけど、都会からきたんならなんでわざわざこんな田舎まできたの?」
クロハの言葉にライラは苦笑いを浮かべる。
「一年に一度、旅立ちの儀という、旅に出る貴族達を送り出すイベントがあるのですが、そこで教皇様から旅の安全を祈っていただき、ワープゲートに入り旅に出るのですが……」
「基本低レベルな田舎方面から始まる仕組みらしんだよね。実は俺たちも旅して一年未満の初心者だったりする」
「先輩風吹かせといてペーペーなの? それにしてはレベル上位な気するけどな……」
シロハは疑う目でディーを見るが、本人は肩をすくめて誤魔化した。
再び訪れる沈黙。
もくもくと片付けを終えたライラを見て、「出発しようか」とまた歩き出す。
無言でしばらく歩いていると、日が沈んできたので、テントを張ることになり、就寝に向けての準備を始める。
簡単な食事を終えた後、すっ……と無言でツワシは手を上げる。
「はい」
「……何」
「僕たちもっと歩み寄るべきじゃないかな!!」
訪れる何度目かの沈黙。
「これだよ、これ。この空気。これからいっしょに旅するってのに気まずいじゃん」
「んなわかりきったことワザワザ改めて言う必要なくね?」
「無駄に言語化したんだから、勿論なんか案あるんだろうね」
双子に詰め寄られ冷や汗をかきながら小さい声で「ナイデス」と蚊の鳴くような声で答えるツワシ。
「バブちゃんじゃないんだから、何でもかんでもアホみたいに思ったこと口にしないでくれない?」
「なんだよー迷惑かけてないじゃん」
「かけてんだよ。この空気わかんねーのかよ」
どことなくぎごちない空気が、さらになんだか気まずい感じにレベルが上がっている。
双子にバシバシ叩かれて涙目になっているツワシを助けるように、ライラは間に入ってなだめるが空気は良くならない。
見かねたディーがあるものを取り出す。
「とある地域でこれが流行ったそうだよ。やってみる?」
渡されたのは小さなカードみたいな紙。
左上に〇の空欄があって、その横には四角く枠どられた中に四つの項目が掛かれている。
★なまえ ★すんでるところ
★せいべつ ★ねんれい
「……このさ、真ん中に書かれてる。チャームポイントは~~~だよ★とか、みんなには~~に似てるって言われるよ★って……なんか腹立つな」
「まあこれ、子供向けだから」
「書いてどうするの」
「みんなでまわしてみる」
「なるほど……」
納得した声を出した後、クロハは紙をそっとディーに返した。
「無言の拒否」
ディーをフォローするつもりはないのだろうが、ワクワクした顔のツワシが紙を手に笑顔をみせた。
「ちょっと楽しそうじゃない?」
「やってみたら?」
シロハに言われて書き始めるツワシ。渡されて素直に書いているのはツワシだけ。
「あれ、僕だけ?」
「いや普通に書くことないなって。ね、シスター」
「そうそう。普通にむずくない? あこがれの人は誰? とか、実は〇〇が好き! とか。無いし」
クロハとシロハの言葉に同意するディー。
「あと純粋にめんどくさい」
「渡した張本人」
ライラはじっと紙をみつめている。それに気が付いたシロハが首をかしげる。
「どうしたの」
「え、あ、いえ……デザインが……かわいいなって」
少し照れたようにはにかむライラ。その周りだけ花が咲いたような幻覚が見えた気がした。
子供向けなだけあってポップな文字に、華やかな絵柄に淡い色のペーパーいかにも女児が好みそうなデザインだ。
「私もかわいいの好きだけど、こういう可愛さは求めてないや」
「たしかにシロハさんの衣装かわいいですね」
「でしょ」
くるんと横に回転すれば、スカートもひらりと揺らめく。
ロリータ系の衣装だが、甘すぎるわけではない。少女チックといえばそうだが、衣装なんて似合っていればなんでもいいのだ。
「そういうのが似合ってうらやましいです、私が着ると浮いちゃうので」
「なーにいってんの、似合ってなくても関係ないじゃん。自分の心と体だよ? 着たい衣服を着ればいい。それにさ」
ライラの体を見る。大人っぽい衣装だ。
「聖女候補っぽくない服装でなーにいってんだって話」
「こ、これには訳があるんです」
「というと?」
「聖女候補と一目でわかる格好をしていると、勝負を挑まれることがあるんです」
「勝負? 聖女候補に?」
クロハが会話に加わる。
「い、いえ。私ではなく……」
「聖女候補は基本聖都に集められるって会話したよね」
ディーも会話に入り、言葉をつづけた。
「旅するならヒーラーは欲しい、でも教会まで許可をもらわないと聖女候補は連れていけない、許可もらうにはそれ相応の実力と献金がいる。そんな時間はない、でもヒーラーが手っ取り早く欲しい。じゃあどうするか」
「「よそから奪う」」
「そういうこと」
「「なーるほーどぉ」」
ポーションを毎回買い貯めておいてそれを保存しながら旅をするのはまあまあ面倒なものだ。
ヒーラーがいればそんな手間とお金をかけずに済む。
目の前に自分たちより弱そうな初心者の冒険者が、珍しいヒーラーを連れているとなると、良心のないクズは確実に盗りに行くだろう
「ちなみに、盗賊系は初心者狩りを積極的にやってくるよ」
「あぁ、なるほど、それで……」
クロハは日が落ちて暗くなってしまい、焚火の灯の届かぬ草むらに目を向けた。
「視線を感じるなって思った」
ディーに向かって飛んできた矢を片手で受け止め、それを向かってきた方向に投げ返すクロハ。
草むらの向こうで小さな悲鳴が聞こえた後、ガサガサとガタイの良い男たちがにやにやしながら出てきた。
「通行手形だけいただこうかと思ったが、そこの女聖女候補か。高く売れるんだよなあ」
「大人しくしてれば命まで取らねえよ」
「俺の矢を投げ返しやがったくそがきはぶん殴ってやる、俺の肩に刺さったじゃねえか」
弓の使い手、大斧持ち、召喚士なのかクマの魔獣を従えた三人のおっさん。数はこちらのほうが多いが、初心者だと思ってなめているようだ。
「ど、どうしましょ」
おびえているライラに対し、三人は全然気にしていない様子で、ちらりと目を合わせる。
「変な動きしたら、足ぶったぎるぞ」
という斧持ちを無視して、シロハは杖を一瞬で構えると、熊の魔獣に向けてキラキラと魔法をかけた。
「?」
「てめえ、変な真似すんなって……」
「その三人『ヤっちゃえ』」
斧を持ち上げシロハに近寄ってこようとした盗賊は真横にぶっ飛んでいった。その先にあった岩に衝突し、止まることなく貫通した。赤い血が周りに飛び散る。
「お、おい、やめろ!! とまれ!! なんでいうこと聞かないんだ」
「なんで、おい、くるな。やめろっ、とめてくれ!! 嫌だ、いやだ、いやあだああ」
弓を何度も熊の魔獣に放つが、装甲が硬いのか突進を止めることはできず、噛みつかれてそのまま振り回される。断末魔はその場に響き渡ると、使い手である召喚士はシロハのほうをみた。
「まさか、お前……俺の魔獣を操ってるのか……?」
シロハは真顔で惨劇を見ていたが、おびえたように問いかけてくる男のほうをみると、両手で口を隠す動作をしながら
「んふっ」
と楽しそうに嗤った。
「クソガキがぁああ」
短剣を片手に大きく振りかぶって走ってきたが、大きく空に飛んでいた魔獣に押しつぶされ、いともたやすく圧死した。
興奮冷めやらぬ状態の熊の魔獣はよだれをダラダラと流しているかと思うと、目をぐるんと回し、白目になって倒れこんだ。
「およ」
シロハが近寄ると、残念そうな声を上げた。
「やーん、毒矢で死んでるー。操って連れて行こうと思ったのにー」
「洗脳支配って長時間継続できるっけ」
「私は一日もたせれるよ」
「そっか、すごいね。怖……でも、ナイス殲滅ぅ」
いえーい、とハイタッチしている中
「できた!」
と嬉しそうな声でツワシは駆け寄る。
「あれ、何この熊」
今までの状況をまったく気づいていなかったらしい。
クロハはテントのほうに向かって歩きながら、ツワシとのすれ違いにポンっと肩を叩いた。
「お前大物だわ」
「え?」
「疲れたから寝よーっと」
「え? え?」
双子はとことことテントに向かってそのまま入っていった。
「え、できた……よ」
「ごめんなさい、具合悪くなって、明日でもいいでしょうか、すみません」
申し訳なさそうな顔をしながらライラもテントのほうに駆け込んでいった。
最後に残ったディーと真顔で見つめあう
「……はい」
ディーが手を差し出したので、ぱあっと表情を明るくさせ手渡そうとした瞬間
びゅううっと強風が吹き、プロフィール紙が風に攫われ、そのままきれいに焚火のど真ん中に吸い込まれていった。
「「……」」
なんともいえない空気が流れた後、ディーはツワシの肩をぽんっと叩いた。
「寝よっか」
「うん」
そして朝になり、また何とも言えない空気が流れるのであった。




