起承転結の起 ー3
初めてのダンジョンを三時間以内にクリアするというタイムアタックを始めた矢先、パーティーはばらばらになってしまった。
経験も知識もない三人はこの難関を乗り越えられることができるのでしょうか
まず最初に動いたのはシロハ
自身の体に絡みついていた植物を氷漬けにして動きを鈍らせた後、衝撃波で粉々にして抹消した。
怪我はしていないが、かなり元の場所と引き離されてしまったようだ。
周りは見たことのない植物ばかり。
口が生えた大きな葉っぱや、えげつない棘が生えているキノコ。うるうるな目玉のついた花々。
「空間聖域」
呪文を唱え、自身の周りに目の見えない毒や呪いなどを通さない防御魔法を施す。
一応の警戒はしているが、思ったよりこの空間の謎生物たちは攻撃してこない。
「うーん、最奥までいけばいつかは会えるとは思うけど、どうやって行けばいいんだろう」
見渡す限り背の高い植物ばかりで、どうにも道らしき道が見えない。
学校でならったダンジョンの情報は『とりあえず探索すべし』ということだけ。
高い授業料払っているのに無能にもほどがある。
先ほどのようにツルに絡まれ杖をとられる事態は避けておきたい。のもあるが、正直にいえば謎の植物の汚れが付きそうだからあまり動き回りたくない。
ならどうするか。
「よし、燃やすか」
シロハは杖を構えて呪文を唱える。その火に触れた途端植物が大きな音を響かせ大爆発した。
「ほわぃっ!?」
爆速で飛んできたものを防御魔法で防いだが、基本レベルの防御壁では連続で撃たれると脆い。
いともたやすく壁が壊れ「ソレ」はシロハの体を掠めた。
なんとか肉体には当たらなかったものの、よけきれなかったマントに穴が開く。
まだまだ止まらない追撃に魔法防御を諦め、頭上を低くしつつ回転し、なんとか近場にあった頑丈そうな岩の影に隠れる。
削れていく岩の影から飛んでいるものの正体をみれば、種であることに気が付いた。
「わお、でっかい種~。っていうかいつまで放出されんの」
火の手が広がると、前方から飛んできていた種の砲撃が、今度は左右から飛んできた。
防御魔法を展開しながら使い物にならなくなった岩から、人間五人分はありそうな幅の大木の影に身を潜める。
かすかにパチパチという何かに火が付いた音とその直後で爆発音が響き、種が飛んでいく音を耳にした。
「あー、はいはい。察するに……燃えたらはじける系なやつね」
数分前の自分の行いをちょっと後悔する。火を消そうにも爆速種が危なすぎて魔法を放つことができず、タイミングが取れない。
このまま燃えきるまで耐えるしかないが、四方八方から飛んでくる種に耐えうる強度は持っていない。
「もーっ、こういうときのシスターがいないのありえないんだけどー! 全部全部、ぜーーーーんぶ」
やり場のない怒りを込めて叫んだ。
「シスターのせーーーーーい!!!!」
せーい、せーい、せーい
せーい……とエコーも届かない場所でもふもふに埋もれているのはツワシ。
「あー死ぬかと思った……。ありがとうラムダ」
使い魔の頭をなでると嬉しそうにニッコリと満面の笑みを見せるラムダ。
通常のサイズよりも10倍も大きく出していた羊毛を元のサイズにもどす。
「どのぐらい落ちちゃったんだろう。ボス戦の前とかじゃないよね……最下層にあるってきいたけど」
周りをみると、きれいな花畑だった。
空はないはずなのに、幻覚なのかきれいな夜空が広がっており、咲き乱れる彩の花びらがひらひらと舞い散っていた。ここが天国なのかと見間違うような光景。
「ありえないってわかってるから、こう綺麗なんだけど、むしろそれが怖い気がする」
ラムダは気にしていないようで、もしょもしょと雑草をのんきに食べている。
「ひーん。基本魔法しか使えないし、使い魔は一匹ずつしかまだ召喚できないし、サポート系しか仲良くなってないから強アタッカーいないんだよお~」
震えながら弱音の独り言をつぶやきつつ、手口がありそうなほうへと恐る恐る歩みを進める。
花畑しかないと思っていたが、キラキラと目の前を何かが横切った。
目でそれを追うと、まるで蝶々が宝石になったかのようにキラキラと美しく輝いている。
ひらひらと舞うごとに落ちていく鱗粉は、いくつもの宝石を粒子にしたかのようで、その輝きはダンジョンに入る前にディーに見せてもらった魔石に似ていた。
「うわあ、凄く綺麗だなあ……シロハが喜びそ」
人差し指を前にだすと、その宝石のような蝶々はツワシの指にとまった。
「ん?」
何か違和感を感じて、蝶々を目の前に持ってきてじっくりと観察する。
きれいな宝石のような羽、普通の触手、ふわふわとしている体に、人間の指のような無数の足。
「うぎゃあああ?!!」
驚いて振り払うと蝶はひらひらと力なく花びらの中に落ちていった。
悪いことしたなと思った瞬間、ざわざわと花が揺らいだ。
「な、なーんか嫌な予感」
ぶわっと花びらが空に向かって舞い散るのと同時に、先ほどの蝶の群れが目の前に現れた。キラキラと宝石のような鱗粉を先ほどまでだしていたのに、今は禍々しい色の鱗粉をまき散らしている。
「あ、あー。お怒り、ですよね……?」
なんとか謝罪しようと声をだそうとしたが、くらりと目の前が歪んだ。
体に力がはいらず、呼吸も心なしか苦しい。視界のがマーブルカラーに回転してキラキラがあちらこちらにおどっているようにみえる。
「や、ばい、か、も」
薄れゆく景色のなか、崩れ落ちる。
なんとか呼吸をしようとするのだが、息を吸えば吸うほど重く苦しい。まるで麻酔をかけられて眠る前のような不快感に抗いながら、なんとか打開策を探す。
草花の中に隠れるように小さな宝石が散らばっているのが見えた、なんでこんなところに、とおもっていると、宝石から五本の指がにゅるりとでてきてこちらに近寄ってきた。
本能的に、やばい、にげないと。とはわかっているものの体が動かない。
「だ、れか、だ、た、たす、けて」
ツワシの背後にいたラムダが、グランドバーンを発動した。
地面が大きく揺れると、宝石の幼虫たちが転げまわる。
虫の裏側は見てはいけないと思う。
吐き気を催していると、耳元でラムダが鳴き声で何かを訴えた。
「!」
ツワシはハッとして、異界へラムダをしまい、もう片方の相棒の魔獣を召喚した。
「にげて、ケルカ」
ケルカと呼ばれた使い魔は主を背に乗せ俊敏にその場を離れた。
蝶たちに機動力はないのか、執拗に追うということもせずどんどん視界から小さくなっていく。
いけどもいけどもひろがる花畑、しかしとつじょ上へとあがる階段が現れる。
なんとか駆け上がると突然世界は水の中に入った。上も下もわからずもがいて水面へと顔をだすが、そこからはいでる体力は残っていなかった。
ケルカは地上から水面の上なら歩けるが、水中には対応できない。なんとか異界へケルカを戻し、どうにか周りを見渡す。
ラムダも水中とは相性が悪い。
そして仲良くなっている使い魔はその二頭しかいない。完全にツンだ。最後の力を振り絞り大声で頼りない呂律で助けを求めた。
誰かに届けと願いながら薄れゆく意識とともに水に沈んでいく。
そんな沈んでいくツワシの意識よりも漆黒の瞳を宿す女、クロハ。
足に食いついてきた何かを壁に叩きつけると、不思議なことに横から勢いよく壁が押し出してきて、全身を強打されたが、特殊体質により勝手に発動された自己治癒のおかげで無傷だった。
まわりをみれば狭く、薄暗い通路だけでほかには何もない。が、そこはかとなく鬱蒼としており体感温度が冷たく、息を吐けば少し白い。
「あ? 私一人か」
誰もいないことに今更気づく。
残念ながらクロハは魔法を扱えない。生活レベルの魔法は使えるが、少なくとも今ここを照らすほどの能力をもっていない
怪しげな雰囲気があるとか、そんなことを気にするような人間ではないので、さっさと適当に歩き出す。歩けば歩くほど、なんだか空気が冷えていく。
うっすらとしていた白い息が、はっきりと見えるようになってきた。
そして体中にまとわりつくような冷気もどんどん重くなっていく。
体に氷晶が見えはじめたあたりで、クロハはかすかに聞こえる何かに耳を傾けた。
ーーー シネ シね シンでしまえ オマエモ コチラ側にコイ シね ハヤク死ね
ーー ナンでこいつ ヘイキナンダ キニしろ オイ キヅケ オイ
クロハは立ち止まり、自分の体に目を向けた。
まとわりついていた冷気はどうやら亡者がしがみ付いていたらしい。
うっすらとしているそれと目が合うとニヤリと厭らしく嗤った。
ーー 目がアッタナ オマエハもうニゲラレナイ ココでシヌンダ
ケタケタケタケタと嗤う亡者共。
クロハは亡者にまとわりつかれるたびに体力を吸われているのだと気が付く。
亡者を払うことができるのは光魔法か、祓い系の何かのみ。
もちろんそんなアイテムも、魔法も持っていない。
普通なら生気を奪われじわじわと衰弱し、やがて死んでいただろう。
しかしこの女、自動自己治癒のおかげでノーダメージなのだ。
回復魔法は「魔法」とはいうものの、通常の魔法とは違う。魔法力ではなく、本人の気力しだいでその威力や使える回数が違う。
つまり気力がある限り、永遠に無敵なのである。
いつまでたっても崩れ落ちないクロハに亡者たちは困惑しはじめる。
ざわざわと揺らぐ霊体を無視して再び歩いていたクロハは突然立ち止った。
「一本道かと思ったのに、行き止まり……?」
ーーー ふふふひひひひ バカめ イマサラ気づいたか ココはギミックを解除シナイと……
クロハは異次元からモーニングスターを召喚すると、全身を使って目の前の壁にぶつけた。
大きな轟音とともに壁が崩れ落ちる。
壁の向こうにまだ壁があったが、モーニングスターを思う存分奮う。
技も何もへったくれもなく、力こそすべて、勢いこそ最適解。そう言わんばかりに壁を殴り続けること数分、ダンジョンのフロアが根をあげたのか、はたまた偶然か、ここから出る道が出現した。
クロハはモーニングスターを異次元にもどし、ふう、っとおでこにできた汗をぬぐう。
「いい準備運動になった」
ふと気が付けばあんなにまとわりついていた亡者たちの姿はどこにもなかった。
何だったんだと思いつつ、興味がないのでそのまま次に進む。
陰で亡者たちに 「アイツないわー」 と言われていることも知らぬまま。
勢いと力でこじ開けた道をすすむと、曲がり角に光が見えた。
「あ」
顔を真っ青にしているライラと目が合う。
どうやら入口に戻ったらしい。
「く、クロハさーんッよかったーッ」
涙を流しながら抱き着いてくるライラに、豆鉄砲くらった鳩のような顔で硬直するクロハ。
聞けば罠が作動し、シロハ上に、ツワシは下に落ちていったらしい。
「じゃあさ、もっかい罠作動させたらどっちかと合流できんじゃね」
「でも同じものが作動するとは限りませんよ」
クロハのとんでも発言に両手と首を横に振って全力で拒否する。
序盤の位置とはいえ、即死トラップがないとも限らないのだ。とてもじゃないがそんな危険は冒せない。
「他のパーティーは仲間とはぐれたらどうしてんの」
「ええっと、特殊な魔法陣が施された鈴『集合の鐘』というアイテムがありまして。鐘をならすと、鈴をもった仲間が、鳴らした人のところに集合します」
しかしそのアイテムは鐘と鈴がおなじ紋でないと発動しないので、繊細な技術と膨大な魔力がかかるので、魔法職人にお願いしても、手間と時間がかかることもあり、高額な交渉をしても渋って断ることが多いらしい。
既存のものはかなりの高価で、王族か大貴族の血族以外は所持していないとか。
「後は……ええと、魔法で『離れた仲間の位置がわかる』呪文があるそうですが、ごめんなさい。私はそれを覚えていません」
「守護騎士学校銘打ってんならこういう情報おしえとけよな」
ダラダラと過ごしてきた守護騎士学校での日々を少し思い出しながら毒を吐く。
「一番確実なのは、ボスを倒せばダンジョンの中にいるすべての者の目の前に、帰還の魔法陣が現れます」
「んじゃさっさと進んだほうが早いってことか」
「ごめんなさい、私がもっとしっかりしていればこんなことには」
「……」
クロハは二人を思い出す。
魔法の腕前は達者だが、基本他力本願で集中力が継続しない我儘娘と
召喚士としての才能はそこそこ、本人の能力は平均以下。守護学校で評価されていた「大人しく真面目でよろしい」という印象部分だけの男。
「ツワシは……死んでそ」
「えっっ、急いで進みましょうッ」
ライラは駆け出す、クロハはすぐ後ろについていく。
次のフロアにいこうとした瞬間、ライラの足が何かの糸を切った。
「え」
がこん、と謎の音が響くと、足元が急に斜面になった。
「きゃあああっごめんなさい私のせいでーッ」
先ほどは右にぶっ飛ばされたクロハだったが、ライラをとっさに抱きかかえて左に滑り落ちていく。
つやっつやの滑り台では足をどんなに踏ん張っても無駄でどんどん加速していった。
「どうしてこんな、序盤に罠がいっぱい……?!」
「そういうもんじゃないの」
「ありえませんっ」
目のまえは暗闇だったが、滑り台の先がカーブしているのが見える。
「お前って魔法つかえる?」
「えっあ、ごめんなさい、支援系しか」
「そっか、じゃあ」
「きゃあっ」
道は途絶え突如として二人は空に放りだされた。
一瞬の無重力、そしていつもの重力
クロハは下を見て諦めたような声で言った。
「串刺しコースか」
地面には無数の針が生えており、いまこの空中でできることはない。
「一応、むこうの滑り台の続きっぽいとこあるけど」
「もうこのタイミングじゃ……」
二人分の重みで台よりすでに下降気味。
「わ。私のせいなので私が下になります!」
提案を無視してクロハはライラを滑り台のほうへぶん投げる。
ぎりぎり届くことができたライラは宙ぶらりんになりながらも、針の脅威から逃れることができた。
「クロハさんッ」
何かが砕ける音がした。
なんとか滑り台の続きの道によじ登ると、クロハがいるであろう下をすぐに見る。
そこには針の上でもけろりとしている彼女の姿が見えた。
「く、クロハさん」
ここに来る前に、シロハに冷凍してもらっていたカチコチの氷に覆われた蛇肉の上に立っている。
「御無事でよかった……よく、滑りませんでしたね」
「確かに」
気が動転していたが、異能収納空間があることを思い出し、ライラはそこからロープを取り出し、垂らそうとしたが、クロハは首をよこにふった。
「お前の腕じゃ人ひとり引き上げるの無理そうだし、なにより……届いていないし」
ライラのいる場所と、クロハのいる場所は距離があり、垂らしたロープは意味を成さなかった。ライラは申し訳なさそうな顔をしてうつむいた。
「ごめんなさい、私が無能なばかりに」
「あのさ、それ口癖?」
「え?」
クロハは蛇肉を再び異能収納して大地に降り立ちながら、言葉をつづけた。
「その『謝罪』」
「え、アッ……ごめ、あ、いえ、不快、ですよね。その……ごめ、んなさい」
「自己肯定感ないっつーのは初対面からわかってたけど、聖女候補なのにって……まあ、聖女候補にあうのライラで二人目だからアレだけど」
クロハはモーニングスターを構え、針をぶんなぐって壊してどんどん進んでいく。
とりあえず、ライラがいる方向に
「まあ不快とかそーいう話じゃなくって」
黙りこくってしまったライラにクロハはつづけた。
「そもそも、こうなったの私のせいだし」
罠があるといわれたのにうかつな行動をとって全員をばらばらにしたのは、まぎれもなく自分のせいだ。それだというのに、いちいち罪悪感を抱き、自分のせいだと謝罪をするライラの気持ちが純粋に理解できない。
謝ることでどうにかなるというわけでもないのに。
「お、扉みっけ」
滑り台の下にある壁に次に進む扉があった。
クロハはライラの真下までいき、両手を広げる。
「……」
その行動の意味を理解できず、二人は数秒見つめあう。
「落ちて」
「え……」
「合流」
ライラは下を見る。
10mはありそうな高さ。
クロハが受け止めるつもりなのはわかるが、破壊された道以外は殺傷能力の高い針の山だらけ。
そうでなくともまっすぐ飛び降りれるかも自信がないし、申し訳ないが、人をこの高さから受け止めきれるかどうかも信じきれない。
冷や汗を流し、どうしようと考えあぐねていると、クロハは「ふう」とため息ついた
「あっ、ごめんなさい。決心がつかなくて。今とびまーーー」
すたすたとクロハは滑り台の下に消えていった。
「あ」
またがっかりさせてしまった?
私が無能だから、クズだから。どうしていつもモタモタしてしまうの……。
涙に視界が滲む。
と
「ていっ」
という声とともに、滑り台の中腹がモーニングスターによって貫通された。
「 」
絶句。
あまりのことに声も出せずに落下していく。
もはや恐怖心もなにもない、ただただあっけにとられていると、クロハに抱きかかえられたのだけは理解した。
ぽかんと開いた口のまま。彼女と目が合う。
彼女は真顔で悪びれる様子を見せないまま、抑揚のない声で言った。
「ゴメン」
思わず吹き出す。
その様子を見て、クロハはきょとんとした顔を見せた。
「ありがとうございます。クロハさんは、優しい人ですね」
「はじめて言われた」
「そうですか?」
会話しながら扉の向こうへ行くと、不思議な人影が見えた。
それはこちらに気が付くことなく、いくつもの魔法陣を展開しており、不思議な音楽のようにも、ノイズのようにも聞こえる音を発していた。
「人?」
小声で疑問を口にするライラ、その瞬間クロハに口をふさがれ物陰に押し込まれた。
いくつもの見たこともない謎の文様、いろんな色の刺繍で編み込まれた分厚い布を幾重にも纏うソレには一切の地肌も、目も、鼻も、手も指の先すらも見えない。
わずかな声に反応してこちらを見ているようなそぶりをみせていたが、一歩も動くことなく「たんっ」
という短い高い音が聞こえると、その姿がほどけるように粒子になりその場から消えた。
二人は顔を見合わせ、物陰からゆっくりと様子見をする。
「どうやらいったみたいですね」
「あの布のお化けみたいなの何」
「わかりません、魔獣でも、魔物でもなさそうでしたけど……」
首をかしげながら次のフロアへ移動する。
何もない謎のフロアを抜けると、なにやらメラメラと燃え盛っていた。
崖の下を見れば、密林エリアのような場所のようだが
「めっちゃ燃えてんね。普通こんな燃える?」
「あっあれは」
ライラが指差す方向を見ると、炎に囲まれた小さな白い何かが見えた。
「シスターじゃん」
身を守る盾がなくなったのだろう、地面に穴を掘ってそこに身を潜めているらしい。
彼女周りには砲弾のように種が荒れ狂っている。
当の本人はお手上げのようで、もはや腕を組んだまま虚無の顔をしていた。
「助けないと」
「どうやって?」
ライラは少し悩む素振りを見せたが、意を決した顔を見せた。
「三分だけ、時間を緩やかにします。その間にシロハさんを連れて逃げて下さい」
「どこに?」
「あの真ん中の大きな岩と一体化した大樹がみえますか、あれの上まで登れば炎の脅威は届きません」
クロハの身体能力なら問題なく登れるだろう。クロハは承諾し、崖から飛び降りてシロハのもとへ向かう。
あまりの行動力の速さに焦りながら、ライラは両手を握って数秒聖なる魔力を自身に集中して溜めた後、魔法の呪文を唱えた。
「遍く記憶を有するものに選択の権利を与えよ、女神の愛と名に信仰を、その御業を借りし傲慢なる我が身を許したまえ」
崖の上にいるライラの体が淡く美しく光り輝く、その輝きにシロハは気が付き目を向けた。
「一時ノ逆流」
放たれた光がこのフロア全体を包む
すると燃え盛っていた炎の揺らめきや、飛び交う砲弾が鈍い動きとなった。
クロハは地面に着地するとシロハのもとに一直線に向かい、その手を取った。
シロハは目をぱちくりさせながら大人しく抱きかかえられる。
「あれって女神の魔法だっけ? 初めて見たね」
「んだなー」
目の前にある砲弾をモーニングスターでぶっ飛ばしながら大樹の上にあがっていく。
ある程度の高さまで来たところで、光の粒子が春解けの雪のようにゆっくりと小さく溶けていった。
「っはぁッはぁ……」
ライラの吐息と同時にフロアの時間が正常になった。
轟音を立てて種が行き交うさまが遠目に見える。
「二人ともーっ大丈夫ですかー」
「おー」
クロハは手をあげて応える。
「よーし、ここなら」
シロハは杖を取り出し、魔法陣をいくつも展開する。
「滴水成氷」
魔法陣から放たれた数多の雨は途中で音を立てて凍り付き、燃え盛る植物をなぎ倒しては濡らしていく
その後にも覆いかぶさるように氷が付着していき、植物の元気がどんどんなくなっていった。
ものの数分で火の気はおちつき、やっと三人は合流する。
いえーいと双子はハイタッチした。
「ライラすごいじゃーん、おかげでたすかったよ~」
「そんなことは……本当ならあの魔法は『一日前に戻る』ことができるはずなんですが、未熟者で三分時間を遅らせることしかできないんです」
「んなこたねえべ。私らなんて女神の魔法つかえねーし」
「まじそれー」
双子がきゃっきゃとじゃれあっている。
ライラは褒められて少しだけ胸がくすぐったい感じがした。
「んで、ツワシは?」
「まだ」
「ふーん」
シロハは何かを考えた後、呟いた。
「もう死んでんじゃね」
「縁起でもないッ」
双子の評価の低いツワシのことを心配になったライラが先を急ごうとせかし、三人は次のフロアへと向かうのだった。




