起承転結の起 ー2
この町は小さい町だが、常に安定しているがゆえにこの土地を治める領主様もわざわざ視察にこないほど、可もなく不可もない。
が、やはり人というのは愚かなもので、抑えがないと思いあがりで勝手な裁判を行い、それぞれの思惑で好きに処断する行為がまかり通ってしまう。
「もしかして、邪魔者扱いされた……?」
ツワシは牢屋の冷たい壁にもたれながら嘆く。
双子はそんな彼を一瞥することもなく「だろうねー」と落ち着いていた。
神官と町長が目配せした時点で悪だくみしているのはわかっていた。さらに素行の悪い双子を神官の家に招いたということでそれは疑いようもなくあきらかだ。
しかし悪意とは無縁だったツワシは本当に純粋にご褒美がもらえるものだと思っていたようで、親に怒られた幼子のようにメソメソしている。
「牢屋に組み込まれた魔術式で召喚もできないし、ラムダは戦闘疲れを労うために異界にしまっちゃってるし……」
「あと当たり前に魔法封じも施されてるしねー」
「なんで二人はそんなに落ち着いているのさ!」
「ずっと閉じ込められるわけじゃないし、牢屋にぶちこまれるの初めてじゃないし」
なはは、と嗤う二人。
「だーいじょーぶ。ディーが新しい仲間を選ぶか、あきらめて町を出れば終わるよ」
シロハは立ち上がり、牢屋の柵に触れて周りを見る。
気配がない、ということは魔術さえ施していればいかに悪童であっても出られないと思っているのだろう。予想通りの結果に、にやり、と意地悪く嗤った。
「いうて。大人しくしてるわけないよねん」
「それな」
クロハも立ち上がり、ぎゅっと柵をにぎる。
「無理だよ、魔法つかえないんだよ……。いかにクロハが怪力だっていっても」
「あれ、ツワシ知らないんだっけ?」
ぐぐぐっと柵が揺れると、まるで抗うように魔法陣が浮かびあがる。しかしそれは全くの無意味で、魔法陣が揺れるとまるでガラスが割れるような音を奏で儚く砕け散った。そして光を失った閉じ込めるための檻も鈍い音を立てて破壊される。
目が飛び出そうな勢いで驚いたまま絶句しているツワシにシロハは軽い調子で告げた。
「クロハは魔法破壊体質なんだよ」
「つってもまあ、そもそも魔法なんてもとから使えねえからこういうの関係ないんだよな」
「……ゴリラじゃん」
「握りつぶしてやろうか」
哀れにも天井と床から取り外された柵を軽々と放り投げると、手についた汚れを払う。
ビビっているツワシを無視して、ゆっくりと歩きながらシロハは牢屋と地上へと続く扉のほうに杖を構えた
「何する気---」
なのか、とツワシが問う言葉が終わる前に、扉が勢いよく開かれた。
そこからバタバタと轟音を聞きつけた神官邸に仕える執事たちが数人ほど慌てたように駆けつける。
彼らと目があった瞬間、シロハは呪文を放つ。
「洗脳支配」
杖から放たれたキラキラが執事たちの目に入ると、彼らはとろんとしたうつろな目で首を垂れた。
後方で腕くみしながら見ていたクロハがシロハのほうをちらりと見る。
「その魔法は十八番で詠唱無くても使えるんじゃなかった?」
「何人いるかわからなかったから、保険保険」
クロハがふーん、と言っている真横でドン引きの顔をしているツワシ。
彼の心の中でこう思った。
『双子のほうが魔王より怖い』---と
「さあ下僕ちゃんたちー、手分けして~。君は旅に必要なセット3っつ用意して、君はお金。君は非常食。あとはー何がいるっけ? なんかよさそうな武器とか?」
どんどんあれやこれやと無遠慮に指示して、それでもまだ何か搾り取ろうと頭をひねっているシロハの肩をつかんで必死の形相を見せながらツワシは首を横に振った。
「やめよう? そういうのなんて言うか知ってる?」
「んー。興味なぁ~い」
「犯ッ罪ッだよ……!!」
何度も肩を揺らして思いとどまらせようとするが、シロハは目をそらしながらハンッと鼻で笑った。
「ごほおびだよお、ご褒美。がんばったからくれるっていってたじゃあん?」
「お風呂とおいしいごはん食べたでしょ?!」
「それはおもてなしでしょお~。それにさー」
シロハは悪い笑みを浮かべた。
「先にこーんな、いたいけな一般市民を牢屋ぶち込んだのは、あっちだもんね~?」
「とりたま理論?」
「何それ」
怪訝な顔をしているツワシに、クロハはしれっと答えた。
「鶏が先か、卵が先か問題のあれ」
「そうやって略す人初めて聞いたよ」
「クロハが人類初だって。やったね」
「ヤッター」
くだらない話をしているうちに洗脳された執事たちが命令に従い様々なものを持ってくる。
いくつか集められ並べられた武器をみると、華美で豪華な装飾がされたものや、いかにも古そうなものまで、売れば結構なお値段になりそうなものばかりだった。
シロハは迷わず魔法の杖に手を伸ばす。
「これもーらい。あと、防御付属の魔法のアクセサリーも何個か。二人はどれにする?」
「僕は良い……」
ツワシは罪悪感がすごいと言ってそっと目をそらす。
「あっはー。今更遠慮したって同罪だよお」
「いやだ! 元から性根が腐ってる二人とは違って、心はいつも清らかでいたい!」
「煩い」
ツワシの尻を蹴り飛ばして押しのけ、並べられた武器を一通りみたクロハは、あるものを手に取った。
「これでいいや」
「またえぐそうなやつ選んだね」
「こういった武器はね、すべてのものを終わらせるための道具なんだよ」
「ひえ」
漆黒の色はありとあらゆるものを拒絶するような威圧感を放っており、それは美しき芸術のようにも見えなくはない、例えるならば妖しく煌めく一等星か、はたまたすべてを拒絶せし黒き太陽の輝きか。
「てってれー。クロハはモーニングスターを手に入れた~」
「結構重みあるけど、あのひょろのっぽな神官がコレ扱えきれたのかな」
「収集だけじゃない?」
お役立ち旅セットが詰められた異次元ポケット収納付き旅行鞄を背負う双子。ちらりとツワシのほうを見れば、ああだこうだとうだうだ言っていた割にしれっと鞄を背負っている。
「心まで清らかでいるのはどうした」
「清らかだよ。でもね、どうあっても手はいつかは汚れてしまうんだ」
「何言ってんのこいつ」
窓の外ではお祝いの宴会が催されているのか、夜だというのに昼間のように明るく火が町を照らしていた。
片っ端から洗脳して騒がれることなく神官邸からでた三人を迎えるのは、暗闇の冷たさを忘れたかのような陽気な音楽と笑い声。
楽しそうな町の人の声が聞こえるたびに、自分たちはまるで世界に取り残されたような、どことなく無気力な気持ちになる。
そんなわけはない、とわかっていてもこう思わずにはいられない。
「よーし」
「じゃあ」
「「ぶち壊すか」」
武器を構えた二人が悪い笑みを浮かべた。
「あ、あああ、あのさー。何するつもりかわからないけど、僕とりあえずいったん家にもどって両親に旅の話してくるよ」
「おっけー。じゃあ北門のとこで待ち合わせね」
「さっさと終わらせなきゃ、合流できないかもよ」
本当に何する気なんだといいながら、ツワシは鹿の見た目に猫のようなしっぽの生えた魔獣を召喚しその背に乗って家へと帰路を急いでいった。
「とりあえず、メインデッシュがどうなってるか見に行く?」
「じゃあ、……上から」
慣れた手つきでシロハを抱きかかえて屋根の上に飛び移る。
煉瓦でできている屋根の上は滑りやすいので、抱きかかえたまま広場の中央を目指す。
ところどころで町の人を見かけるが、まさか屋根の上に人がいると思わないだろう、誰一人として双子に気づくことはない。
ふと、クロハは思ったことを口にした。
「太った?」
「髪の毛燃やしちゃおっかなー」
「ごめんて」
「あ、新しい杖が装飾ジャラジャラのせいかな。こういうの持ち手には重さ影響しないから」
雑談しているうちに目的の場所につく。
宴会の中心にいるディーとライラはどちらとも違う感情だとしても共通しているのは真顔だった。
町長の長い話に心を無にしているディーと、神官に何かを言われて緊張しているライラ。
危機から町を救った英雄そっちのけでご馳走を前に楽しそうにしている町の人たち。
「いくぞ」
「おっけー」
シロハは杖を持ち上げて人々の頭上に向けた。
「煌めき星!」
放たれた魔法は花火のような鮮やかさと、閃光のような鋭い光を夜の闇を切り裂いた。
驚いた人々は目を抑え悲鳴を上げながら地面に伏せる。動ける者は混乱しつつも広場から我先に逃げようとし、ぶつかり合い怒号が響き渡っていた。
こちらに気づいていないうちに、双子はディーの前に降り立つ。
「へえ、さすが旅してるだけあるね」
ディーは魔法で防御膜を体に纏っており、光の攻撃を無効化していた。ちなみに横にいた町長と神官はわあわあ騒ぎながら目をおさえながら転げまわっている。
「あなた達、持病が悪化して動けないって聞いたけど……」
「持病もってたっけ」
「うーん、悪癖のことかな」
わはは。とわらうが目はわらっていない二人。
少し困惑気味な彼女の肩に手を置きながらディーは立ち上がり笑みをやめた真顔の二人と目を合わせる。
「じゃ、行こうか」
「え。え、ええ? 町のこの混乱を放っておくのですか……?」
阿鼻叫喚の町の人を見ながらライラは尋ねるが、三人は振り返ることなく「放置」と言い放った。
無慈悲な三人は手を貸すこともせず北の門まで足を進めた。
その境界をまもる扉のところにはツワシが立っていた。その顔は何か嫌なものを見るような苦い顔をしている。
「一応聞くけど……なにした?」
「サプラーイズ」
シロハが笑顔でぱあっと手を広げた。
それを見てディーはにやりと笑う。
「退屈しなさそうでいいね」
「私はなんだか胃が痛いです」
真っ青の顔のライラを見て、何かを察したツワシは町のほうに目を向けた。
「……二度とこの町戻ってこられないんじゃ……」
「「戻る予定あった??」」
「僕はあるよ!」
町の外へと足を踏み出した。
双子は振り返ることもなく顔を上げ、見慣れた太陽なき空に目を向けた。
町の明かりも何もない夜空には、幾千もの星が煌めいていた。ただ何かを言葉にすることはなく、立ち止って何かを思い返すように目を細める。
その様子に何か言おうとしたツワシの肩に手をおいてディーはとめ、同じように空を見上げた。
夜空に吹く風は昼間より優しく、静かに輝く月にゆっくりと雲をかけていた。
……
追手が来ないように歩き続けた結果、夜が明け、まばゆい朝が来た。
町から少し離れた場所にある森の中に入ったところでディーが振り返る。
「夜通し歩きっぱなしだけど、しんどい人いる?」
「はーい、もう眠いー」
クロハ以外の全員が手を挙げた。というか、挙げられなかっただけかもしれないが。
「……いやシロハは途中からクロハにずっとおんぶされてたじゃないか」
あきれた顔でツワシは突っ込んだ。その言葉が気に食わなかったシロハがくわっと目を見開かせ叫ぶ。
「あのね? ずっとおんぶされるのもしんどいんだよ!!」
「じゃあ歩きなよ」
「いけシスター!」
肩をぽんぽんとされたクロハは、無言でツワシの足を小突いた。
「痛い、心無い化け物みたいになってる」
余計なことを言ったので、尻を強めに蹴っ飛ばされる。悲鳴を上げながら目の前の草むらに勢い止まらず飛んで行った。
「大丈夫ですか?!」
ライラは慌ててツワシに駆け寄ると「あ」と声を出した。
「何かあった?」
ディーが草むらをかき分けその先をみると、轟轟と大きな滝が目の前に広がった。
マイナスイオンが体中を湿らせていく。
「うん、前髪崩れるからちょっと離れて休憩しようか」
「乙女かよ」
枯れ枝を見つけてきて火をおこし、炊事セットを取り出し慣れた手際で食事の用意を始める。
そんなライラの動きをみながらツワシはディーを見た。
「鏡みながら前髪直してるけど、こういうのいつもやってもらってんの?」
「俺は箱入りおぼっちゃんだからね」
「うん、まあ、見ての通りだけど。で、クロハはどこ? シロハは何してんの?」
クロハの上着を下に敷きスヤスヤと仮眠をとっているシロハをゆすって起こすと、不機嫌そうな顔をしながら指差した。
ちょうどそこからがさがさと草むらをかき分けてクロハが現れる。
「野生児すぎるッ」
その手には人を軽々と丸のみしそうなほど大きな蛇を持っていた。
「蛇食う?」
「え、っと……ごめんなさい。さばけないです」
ドン引きのライラは遠慮がちに断ると、クロハは無言で蛇をさばきだした。
異次元ポケットから鉈を取り出すと躊躇なく頭を切り落とし、皮をバリバリとはいでいく。
サイズが大きいので少しめんどくさそうにしていたが、すべてはがしきると川にほうりなげた。
完全に沈む前に回収し、薄い膜を引っ張り取って、鉈を使い肉を切って食べやすいようにぶった切る。その後骨が見えるまで開き、白い粉を全体にぶっかけシロハのほうを見た。
「へい、シスター」
寝ていたシロハを起こして処理済の余った肉を指差す。
「んーねてたのにい、凍結魔法ぉ」
杖でくるくると氷を放つとお肉が一瞬で凍結する。それを異次元ポケットにしまう。
クロハはライラのほうを見る。
「鍋と油ある?」
「あ、ありますが」
「もっとでかい鍋は?」
「いえ、そんな大きいものは常備してないです」
そうか、とクロハは呟くと粉まみれの蛇肉に油をぶっかけ、眠そうにしているシロハに向けてなげる。
「豪爆炎」
呪文に反応し杖から放たれた炎は肉を丸焼きにした。
地面に落ちきる前に皿でキャッチすると、ぱくりとかぶりつく。
「んー、なんかいい匂い~っていうか、この杖すっごい使いやすーい」
「食うか」
「いらない。ライラのほうがほしーい」
ライラがつくっていたのは山草粥だった。
優しい素朴でありながら香味がふんわりと鼻孔を癒す。
「そういえば、蛇追いかけまわしてるときに、でっかい石でできた扉みたいなの見かけた」
「追いかけまわすほうなんだ……」
食事もほぼ終わり、一息ついてから思い出したかのように報告するクロハ。
ちなみに蛇肉は誰も食べてくれなかった。
「ダンジョンの入り口だね」
「え、実在したんだ」
ディーの言葉にツワシは驚く。
「結構どこにでもあるよ。行ったことないの?」
「町から出るには騎士見習いとして学校いった生徒じゃないと駄目だったんだ」
「基本近場うろうろ。薬草とって、イノシシみたいな魔獣狩って終わり」
「もしくはただのマラソンさせられたよねー」
騎士見習いというのは騎士という職業になるだけではなく、魔術師や剣士などといった魔獣と対抗する能力を持ったものが戦えるスキルを学ぶことができる場所のことをさす。
卒業した者はだいたいその土地の『守護騎士』という役職が自動的に手に入る。
ようは、自警団だ。
「これから何度もであうとおもうけど、練習がてらいってみる?」
「えーっいきたーい」
「こんな地方にあるダンジョンならレベル低そうだし、君たちにぴったり」
「間接的に馬鹿にされてる気がすんな」
いやいやとディーは手をふった。
「事実だよ」
モーニングスターを構えたクロハを必死に止めるツワシ。
「だって君たち、あの程度の魔族も倒せなかったじゃん」
「別に倒そうと思ったら倒せたしー」
今度はシロハが杖を構えだす。
ライラが双子とディーの間に入って諫める。
「パーティーになったばかりなのに争うのはやめてください」
「別に争ってないけど。じゃあこうしよう」
ディーは砂時計を魔法で作り出し、三人の前に浮かせた。
「3時間以内にクリアしてきて」
「なにをもってクリアになんの?」
「ダンジョンの奥にはボスがいるもんだよ。それを倒すと、こういう石を絶対落とすんだ」
日の光に照らされて虹色に輝く石。
「魔力を圧縮されたような気配を感じるね」
「そうだよ。これがいわゆる『魔石』ってやつ。多きれば大きい程高値で取引されるし」
ディーはシロハの杖についている装飾を指差した。
「武器の強化として、装飾されることが多いね」
「あー。魔石がついてるから高魔法でも使いやすく感じたんだー。ほーん」
魔法でテントを出したディーはもぞもぞとその中に入っていく。
「じゃ、仮眠してるから頑張って。早くいかないと、砂時計の砂はもう落ちてるよ」
ライラはディーと三人のほう交互にを見ると、何かを決めたような表情を見せた後、拳をぎゅっとにぎった。
「私も行きます」
「無理してない?」
「してません。確かに戦闘は不向きですが……一応ヒーラーですので」
「え」
ツワシが驚いた表情を見せた。
ヒーラーということは聖女候補だ、基本彼女たちは神殿で学び外に出るには少なくとも教会の許可がいる。そしてそれをとれるのは子爵以上の貴族でなければ連れだすことはできない。その候補が旅に出るということは、ディーの身分が想像よりも高いことを意味する。
「じゃ、じゃあディーって子爵以上ってこと……?」
「どーでもいいよ。はやくいこー」
わくわくがとまらないシロハはクロハの手をとって駆け出していった。おいて行かれないようにツワシも駆け足でついていく。
休憩地点からそう遠くない場所にそこはあった。
崖に取り付けられたような石の扉の前に行くと、その重そうな扉は客人を招くように開かれていた。
それを見てクロハは首をかしげる。
「閉まってた気がするけどな」
「じゃあ誰かが先に入ったのかもしれませんね」
「へー。ちなみに扉閉めて出られないようにすると中の人はどうなるの?」
きゅるん、とかわいい顔を見せながら物騒なことをライラに尋ねるシロハ。
ライラとツワシは可愛さに誤魔化されることなくドン引きしていた。
「その発想に至るのが怖いんだけど……」
「ボス戦が終わると、出口までの魔法陣がでますので、意味はないかと」
「なーんだ」
扉の中の様子をみていたクロハが振り返る。
「人の気配ないから、だいぶ先にいったのかな」
「会いたかった?」
「まあ」
「え、意外」
クロハは虚空からモーニングスターを出しながら、真顔で言った。
「攻略するっつーのに、先にボス倒されたら邪魔じゃん」
「アッ……そっち」
ライラはついてくるのは間違いだったかもしれないと後悔し始めていた。
一行はさっそく石の扉の中に入る。
暗いと思っていた中は思いのほか明るく、長い廊下のような道が続いていた。
「なんもないね~拍子抜けかも」
「前の人が倒してくれたのかも? 僕としてはありがたい」
「あ、いえ、序盤は魔物ではなく、罠が多くあるので気を付けてください」
ツワシが足元を見て何かに気が付く。
「なんか地面がもりあがってるところがある?」
「それがスイッチだったりするので気をつけてください」
バッチィィンッと何かが強く挟まれた音がダンジョン内に響き渡る。
三人が音のほうに目をやると、先頭を歩いていたクロハの足に、目玉のついたトラバサミの魔物が食い込んでいた。
「だ、大丈夫ですか?! いま助けーーー」
「なんだこれ、邪魔」
トラバサミに寄生した魔物が食い込んでいるほうの足を、思いっきり壁に向けて蹴りつける。
すると、トラバサミが外れるのと同時に「カチッ」という音が鳴り
クロハは横からせり出した壁にぶっ飛ばされ、シロハは上から伸びてきた謎の植物に連れ去らわれ、ツワシは突如消えた地面の底へと消えていった。
入って五分もかかることなくパーティーが解散してしまい、ライラは顔を真っ青にへたりこんだ。
「…………え?」
どんな初心者でも中々なりようのない予想外の展開に頭を抱えるのだった。




