起承転結の起 ー1
三千年前 魔王率いる魔族と、女神が贔屓する人族との間で激しい争いが続いた。
この世の覇権をとるために、すべての生き物が生きる地上を支配する権利を主張し、意見は対立し、そのたびに大地は多くの血で穢れた。
終わりが見えず、永遠に続く地獄のような日々。
はじめこそ、あらゆる面で人間より能力が秀でていた魔族側が圧倒的に押していたが、女神が地上に顕現すると、神々の世界にある戦闘特化の神器、戦神の恩恵による強化、愛の女神の治癒魔法
ありとあらゆる小賢しい手段をとり、やがて戦況は人族に軍配が上がった。しかし魔王もただでやられるわけではない。
最後の力を振り絞り、自身が討たれることがあれば、いまよりもさらに多くの人間が死に、やがて魔物に変貌する呪いをかけた。
いかに女神であろうと魔王の呪いを解く力はない。
呪いを解呪する方法がみつかるまで、女神の寵愛を受けた聖女と、神々に選ばれし勇者と、その一行の力をもって魔王の魂は封印された。
こうして世界は平和になり今に至るが、預言者イドリスによると、その封印が近い未来破られ、世界は混沌と化するだろう。と
「テストっていうか、レポートだよねえこれ」
教科書に書いてあることを、自分なりに解釈して紙に書きだすという作業。
白雪のような優しい色の長い髪をくるくると指でいじりながら、テスト用紙から目を離して退屈そうに少女はぼやいた。
まわりにいた学生たちは「またはじまった」と小さい声で囁く。
教壇に立つ教師は少女の挙動一つ一つに、今にも爆発しそうにこめかみを抑えながら眉をひくつかせ、どうにか耐えようとしているがいつまでもつやら。
慣れた様子の生徒たちもやれやれという顔で呆れている。
「また怒られるよ、やめときなってシロハ」
「いいこちゃんぶんないでよ、ツワシ」
隣に座っているミルクティーのような甘い髪色の男の子は、白雪髪の少女を『シロハ』と呼び窘めた。
彼は『ツワシ』この少女の幼馴染だ。
静止の声を無視したシロハはおもむろに立ち上がり、手を伸ばして窓を開けた。外の風が一気に教室になだれ込み、外に咲いていた名も知らぬ花びらが踊るように舞い込む。
白い雲が流れる清らかな青い空に、大きく手を伸ばしてシロハは嗤う。
「こーんなに、平和なのに魔王復活でおびえてるなんて、寝てる猫をつついたらどうなるのかっておびえてんのとおんなじじゃーん」
「同じか?」
シロハの冗談に間をおかずに突っ込んだのは、彼女の後ろに座っていた『クロハ』。二人は双子だ。
表情がコロコロと変わるシロハとは違い、同じ顔のはずだが全くの無表情で、どことなく目も死んだように真っ黒で光がない。
風によって揺れる黒髪が目に入らないよう、目を薄めにしつつシロハをどかしてすぐに窓を閉めた。
「まったく、これで先生のカツラが飛んで行ったらどうすんだ。まぶしいだろう」
「ウケるー。ね、シスターは魔王復活信じる派?」
「どうでもいい派。てかシスター、がっつりこっちむいてるけど、そろそろ切れそう」
「なにが?」
だぁんッッ、と何かが破裂するような音が響き渡った。
音をたどれば教卓が破壊されいる。拳をふるったであろう教師が目を鋭く光らせながらシロハを指差し、学校中に響き渡る声で叫んだ。
「双子ォ今すぐ懺悔室にいってこい!!」
「私もかよ」
とばっちりだというクロハに、シロハは肩をすくめて半笑いで返した。
・・・。
朝から聞こえていた何度目かの鐘が鳴る。
この小さな町にある、ありきたりな石造りの学校。
その脇にある女神ディアロゥルを信奉している小さな教会。神父様は坂下の町から月に一度だけ信仰の授業の時にだけやってくる。
その時以外はほとんど反省室扱いの場所だ。
祈りをささげる場所で二人は胡坐をかいて座り、女神が描かれたステンドグラスを眺めている。
「歴史の授業がいっちばんつまんないよね」
「神話から始まり、魔王の話で終わるからね。建国とかこの国の話全然しないしな」
「王都目指されて人減らしたくないんだろうね。まあ王族の歴史とか興味ないけどー」
この町は農業で定着しているところもあるから人の変動はあまりない。ないがゆえにお互いを知りすぎているところはある。
名産物も特にないのでよそからわざわざ人が来ることはないし、安定した気温が続くためたくさんできる野菜をよく大きなところに卸しているため、金には困っていないという可もなく不可もなしな生活なので、わざわざ外に出ようとする町民もあまりいない。ようするに、まったくもってつまらない町なのだ。
光をあびてほほ笑む女神の絵を見ながら、あくびしながらシロハは呟く。
「ディアロゥルってあほみたいな名前だね」
「処されるぞ」
思うけど。
と小さく同意しつつクロハは立ち上がると、シロハに手を差し出す。
「腹減ったし、帰るか」
「そだねー。残りの授業さぼっちゃえー」
扉の前に行くと、当たり前のように鍵が掛かっていた。
しかしクロハはドアノブを持つ手に力を入れて、そのまま力任せに押すと、歪な音を立てて扉がゆっくりと前に倒れていく。特に慌てることもなく慣れたように二人は倒れた扉を足蹴にして外に出た。
「まあ、うん。壊すと思った」
目の前にはレースのついたバスケットと、小さな丸い羊を抱きかかえたツワシがいた。
「魔法の授業終わったとこ?」
「うん、お昼だから弁当もってきたけど……」
どうせ二人とも弁当ないでしょ。と二人分の弁当が入ったバスケットを双子の前に差し出す。
二人は顔を見合わせ、ツワシを見る。
「ほんと世話好きだね」
「ほんと物好きだよね」
「こういうときは『ありがとう』っていうもんだよ」
三人は再び教会にもどり、仲良く長椅子にすわって食事をはじめた。
ふわふわの三角に切られた食パンに、ほんのりあまい卵焼き、新鮮なしゃきしゃきサラダと真っ赤なトマトもきっちりはさまれていて、一つでも結構なボリュームだ。
「ハムはぁ?」
シロハの残念そうな声に、ツワシはありません、と突っぱねた。
クロハは食べようとするたびにガン見してくる羊に少々困惑しながら咀嚼する。
飲み物で口の中を潤したツワシはそう言えば、と何かを思い出したようにバスケットの中を探り、何かを取り出し二人に見せた。
「こんなの配られたよ」
ーー 君も目指そう! 魔王を倒して世界平和 そして世界の王へ! --
「……」
「……」
二人は顔を見合わせ、もう一度チラシを見た。
「「これ作ったやつ頭悪いだろ」」
「限りなくわかりやすくしたんだと思うよ、努力をバカにしないであげて?」
チラシを手にとってよく読むと、キャッチコピーとは違い厳かな言葉を並べて細々と書かれていた。
要約すると
①魔王を倒したものには王になる資格があると世界会議で可決された。
②各国の王族、貴族が討伐のために旅にでているので無条件で協力するように。
③魔王討伐に貢献したものには爵位などの褒美があるよ。
④魔王討伐の旅に出る者は役所で登録したら通過手形もらえるし、宿は無料になるよ。
「資格はあるけど、実際は無いんだろうな」
「もらえる爵位って男爵でしょ、肩書とはした金で終わりそー」
「二人ともドライだなあ、世間では一攫千金狙ってる人もいるってのに」
下のほうには、回覧板でよく見る「回復魔法をわずかでも使えるものは女神の使途であるため、聖女候補として王都に来るように」の文言
聖女候補とか言っているが、実際は神官などが死者蘇生、回復魔法を独占して金利を集めたいだけなのは見え見えなのだ。さりとて地方出身の貧乏人からすれば衣食住が約束されるし、聖女として実績を積めば貴族とも結婚できる可能性があるので、年頃の少女はみんな王都を目指すのである。
「いつも思うけど、クロハはいかないの?」
「ヒーラーではないから」
「クロハの場合、回復できるの自分だけだもんね」
回復魔法は全員が使えるわけではない。
適性があるものは圧倒的に女性が多い。それは愛の女神に起因してのことではないかと言われているが、もちろん男性も使える者はいる。当たり前のように神官として回収されるが。
そんな中でもクロハが昔から微妙だといわれいるのは、他者に対しての治癒魔法は全く使えない上に、自分で意識しているわけでなく、怪我をすると勝手に自己治癒している、という点。
神官と町長がどう判断するものかと考えあぐねていたが、持ち前の素行の悪さでその話はきれいさっぱり無くなったのだ。こんな問題児をおくるわけにはいかない、と
「君たちのお母さん聖女候補だったんでしょ? 才能あると思うけどなー」
二人はぎろりとツワシをにらむ。
「マザーの話はしないで」
「てめえの頭もぐゾ」
「も、もがれる……?!」
頭を押さえて警戒していると、教会の鐘が鳴る。
「そろそろ次の授業が始まるなー、二人は帰るの?」
「昼寝してから帰る」
「そんなことばっかしてて、守護騎士学校卒業できなくても知らないよ」
そういってクロハが寝転がると、シロハもその上にのっかって寝転ぶ。
あきれた顔をしているツワシに目もくれず、はーっとため息をついてぼそりと一言。
「魔物こねぇかな」
「物騒なこと言わないでくれない? 倒したら報奨金はでるけどサ」
足元をじゃれついていた羊を抱き上げながら、ツワシは歩き出した。小さく手をふる羊に二人は手を振り返しながら目を閉じる。
夢の世界に行くときの、魂の重みを感じると意識をそっと手放す。
ふわふわに浮いているぬいぐるみ、空箱がスポットライトにあたって輝いている。
せっせとおもちゃ箱の中にぬいぐるみをつめこんでいく、ぎゅうぎゅうに、いろんな色のぬいぐるみ、ぎゅうぎゅう、大きいのも小さいのも、ぎゅうぎゅう。
ぎゅうぎゅう、ぎゅうぎゅう、空箱だったものが悲鳴をあげてもまだぎゅうぎゅう
つめこみすぎて、ぽん! って大爆発。
「!」
大地が揺れるほどの振動で目が覚めた。
ちゃんと掃除がされていない教会の天井からほこりがはらはらと落ちてくる。
「……ふぁあ」
二人は顔を見合わせると、ゆっくりと寝癖を直しながら外に出た。
丘にある学校から赤い夕陽のほうに、境界を守るための石壁がものの見事に破壊され煙を上げて揺れているのが見える。
煙が晴れる前にそこからぞろぞろと黒い様々な姿の魔物たちが現れた。
「叶ったじゃん」
「毎日願おうかな」
二人はゆっくり町のほうまで歩いていく。
町の端のほうでは悲鳴を上げて逃げていく人もいるようだが、この町にも守護騎士はいる。
急いで向かわなくても自分たちが家につくころには解決していることだろう。
そう思っていたが、お約束の展開というものだろうか、騎士たちを薙ぎ払うひときわ大きな巨体の魔モノが現れた。巨人のような体躯にごつごつの岩のような角が体中に生えている。手に持っている棍棒だけでも人間二人分はありそうだ。
動きを止める魔法をくらっても、雄たけび一つでその拘束を振りほどき、荒れ狂うイノシシのように走り出した。
進行方向にあった家が一つ哀れにも破壊され、そこから大きな炎が沸き上がる。
魔物が逃げ遅れた人に襲いかかり、悲鳴や怒号が響き渡った。
こうして町を襲われるのは初めてのことだ。
町の外での課外授業で対峙することはあったが、油断していた時の奇襲ほど恐ろしいものはないだろう。
住民を守りたい騎士だが、魔モノの相手だけで手いっぱいで、数人かがりでも止められてはいない。
そもそも質のいい騎士は出世してもっといいところに常駐している。こんな平和な小さな町にいる騎士など、連携もとれていなければ長年培ってきた酒ッ腹がさらにその動きを鈍らせている。
魔物がどんどん進軍していく中それを見守るように闇の靄を纏った赤黒い肌に赤い目の細い人間がゆっくりと魔物を生み出している。
「あれって魔族かな」
「んー魔族登場までは願ってないかな」
「っていうか、なんで魔族が町にきたんだろうねー。ま、理由なんてないか」
シロハが虚空に手をかざすと、光が集まり形となり杖と成った。それをしっかりと握るとクロハにむけて魔法をかけた。クロハの体がキラキラと一瞬だけ煌めく。
「強化~アップアップ~」
「魔術師なのに呪文なしでいいのか」
「私は天才なので~、ではゆけい。最強の戦士よ」
「これでいっか」
クロハは落ちている瓦礫を手に持って、数メートル先の魔物に向かって投石した。
当たった魔物の頭部が墨汁をぶちまけたように弾け散り地面に溶けていく。それを繰り返すと、魔物の標的も当然のように逃げ惑う人々よりこちらに変わる。
「あ、シスター。そっち一匹いった」
「え、やだやだこっちこないで」
杖を構えるシロハだが、オオカミのような魔物のほうが早い、シロハに襲い掛かろうとしたとき、白いモフモフが魔物を弾き飛ばした。
「もふたん!」
「ラムダって名前あるんだけど」
少し離れた場所にいたツワシが羊に指示をだす
「ラムダ、羊毛らんらんだ」
大きく息をすうと体が風船のように膨らみ、体を揺らすと綿毛のように毛が飛んでいき、怪我をした人や動けない人を包み込んだ。その羊毛につつまれたものは衝撃を受けなくなる。いわゆる防御魔法だ。
周りを見れば学校の生徒がちらほら見える。
「さすが騎士育成学校の生徒、来るのが早い」
「将来有望だね」
戦う手腕のない大人たちが、怪我をして動けない人の手助けしながら褒めたたえる。
なお、その称賛の中に双子は含まれない。
「ラムダ、バイバイボディだ」
「もふたーん、グランドバーン」
シロハは当たり前のように杖をくるくると回して、ツワシのラムダに指示する。
本来ならば契約しているツワシの指示を優先して聞くものだが、キラキラとした光がラムダの目を輝かせると、ラムダはグランドバーンを実行した。
大地に向かって大きく足踏みすると、地震のような衝撃が発生し、魔物たちを転げさせた、それを見てシロハは隙だらけの魔物たちに向かって無数の攻撃魔法を食らわせる。
「ちょ、ちょっとー。なんでいつも人の使役魔を洗脳するのさー」
「えーだってテイマーの素質ないもん」
シロハは魔術師だが、本人がやりたいのは魔獣召喚士
テイマーは「魔獣といかに心を通わせる」がとても大事で、それができなければ使役できないのだが、当たり前のように人の心がない双子にはそれはできないのだ。
「へい、シスター」
シロハの体が浮いたと思ったらクロハに抱きかかえられ屋根の上に移動した。その数秒後に大きな揺れと音が響き渡る。彼女がいた場所に大きな棍棒が飛んできていた。
飛んできた方向をみると、無力な騎士たちを戦闘不能にした魔モノが雄たけびを上げながら巨体を揺らしながら突っ込んできているのがみえた。
「防御展開。超強化付属。反転攻撃付与」
魔法で防御壁をつくると、向けられた拳を跳ね返したが相手にダメージは当たることがなかった。ドアをノックするように何度もたたきつけられるうちに防御壁に揺らぎが見える。
「レベル差きちぃー。へい、シスターどうにかしてよ」
「武器ないんだよ、すぐ壊れるから」
「ステゴロでいいじゃん、再生力ゾンビなんだから」
しょうがないな、といいながらクロハは屋根から飛び降りる勢いそのままに魔モノに飛び蹴りを食らわせる。顔面に攻撃を受けた魔族は大きく飛んでいく。
「うわっ」
「あ、ごめん。そっち行ったわ」
その勢いでツワシの近くまで転がる魔モノ。運悪くそれと目があったが最後
八つ当たり気味のお前でいいと言わんばかりの拳を突き上げた。
「ぎゃああああ!」
死んだ。
そう思い目を強く閉じていたが、いつまでたっても衝撃はなく。そろっと目を開けると、上からドロッとしたものが頭を汚した。それが何か理解する前に、真横に何か大きなものがドンっと落ちて転がる。
「え、あ、え、あ、あ、頭?」
ふわりと重力を感じさせない動きでツワシの目の前に現れた。
黒と赤紫のツートンヘアを風に靡く、そのたびにキラキラと光を受けてピアスが輝いていた。
「ん、誰だろ」
シロハがその少年に注目していると、かれは剣を頭上高く持ち上げると呪文を唱えた。
「虎之威借ル狐」
天空にひと際大きく光り輝く魔法陣が浮かぶと、大きな滝のような光の洪水が町全体を包み込む勢いで流れだす。それに触れた魔物は浄化され姿を消していく。
「お、魔族が逃げた」
どこか生気なくゆらゆらしていた魔族はおびえたように移動魔法を使い消えた。
たった一人でこの場にいた魔物を殲滅したようだ。
「こんな雑魚に騒ぐなんて、よく今まで生き残ってたね」
厳かな装飾が施された剣を鞘に戻しながら毒を吐く。
そんな彼を追いかけるように、フードを目深にかぶったおとなしそうな少女が駆け寄り、ツワシの肩に手を置いた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。え、っと、どちら様で」
「あの方は」
「僕はディーだよ、それより君テイマーだよね」
ディーは女性の何か言おうとした言葉を遮り、腰を抜かしたままのツワシに視線を合わせるように、ゆっくりとかがむと、助けるために手を差し出した。
「僕のパーティーに入りなよ、あと……そこの屋根の娘と、魔族ぶっ飛ばした娘」
屋根からおりたシロハはクロハの隣に行き、二人は目を合わせて小声で会話を始めた。
「あの二人の手首の腕輪って通行手形の紋あるね、本物かな」
「さあ、少なくともこの町のやつよりは強い、態度もな」
「いいとこの坊ちゃんぽいけど、この町を出れるのはでかいかも」
「それな」
二人は悪だくみをする顔をしたあと、ディーのほうを向く。
「前衛のクロハ」
「魔術師のシロハでーす」
「よろしく。で、君は?」
「ツワシです。……って。え?!」
流れで名乗ってしまったツワシ、思わず立ち上がった。
「本気で言ってます?!」
「ため口でいいよ。同い年ぐらいでしょ」
「ディー様。いくらなんでもそれはダメですよ」
フランクな態度のディーをたしなめるように声をかけた女性にやれやれと呟く。
「これから仲間になるんだから、つまんないこといわないよ、ライラ」
「でも」
ライラと呼ばれた娘は不安そうな声音で、もじもじと手を動かし落ち着かない様子だった。
「旅のお方様、町を救ってくださり、ありがとうございます!」
二人の会話は町長のくそでかボイスによってかき消された。
太った体の町長は杖をつきながらゆっくりとディーの前に立ち、深々と頭をさげ感謝を述べる。
「町長? ちょうどよかった。この三人に通行手形用意してよ、小さい町でもあるでしょ」
「ございますが、三人……とは」
双子とツワシが無言で手を上げる。
町長は少し黙った鼻で小さく笑った後、すう、と息を吸って、首を横に振りながら深く長いため息をついた。
「御冗談でしょう。仲間をお望みでしたらもっと優秀なものがおります」
「今来たからわからないと思うけど、魔族相手にひけをとっていなかったよ。少なくともそこらへんで寝っ転がっているふとった騎士よりはね」
神官が急いで騎士たちに治癒をかけているのが見えたが、軽傷だった騎士はその言葉が聞こえたのか、ばつが悪そうな顔で目をそらした。
町長は苦い顔をしながらも、ひきつった笑みを見せる。
「お言葉ですが、通行手形を与えるには、それ相応の優秀なものでなければなりません。ご存じないと思いますが、そこにいる、とくにその双子は素行がすこぶる悪うございまして。たとえ旅に連れて行ったとて、お役に立つどころか、きっと迷惑をおかけします」
ディーはかったるそうに首をかしげながら二人を見た。
目があった二人はにやりと頷く。
「不愛想・傲慢・不躾とは私のことよ」
「無責任・怠惰・唐変木とは私のことよ」
「カッコつけながら言うことじゃないよ!」
突っ込みはしたものの、言いたいことがあるツワシは、ディーの横に立って町長と対峙する。
足元にきたラムダを抱きかかえながら、穢れなき瞳で言い返す。
「確かに、二人の性格は終わってます。魔物来ないかなとか普段から言ってるような、どうしようもない二人ですけど、今回あの二人がいなければ町はもっと被害が出ていたと思います。たとえ、賞金欲しさだったとしても、頑張ったことには違いありません!!」
「あいつなんか良い顔しながら、しれっと余計なこと言ってんぞ」
「無意識ノンデリだからしょうがないよ、あとで処刑しよ」
ツワシの熱意に「確かに、最初に戦ってたのはあの二人だけど……」と町の人もひそひそと同意する声をあげた。
町長は答えを出せずにいるのか、口ごもって言葉を紡がない。
そんな彼を見守っていた神官が近寄る。
「子どもの旅たちを迷うのは仕方ありません。どうでしょう。しばらく町に滞在するのは」
神官の言葉にディーはライラと目を合わせた後、同意して頷いた。それでは、と神官と目配せをした町長が案内すると、宿のあるほうへと歩き出した。
ディーはツワシの肩に軽く触れ、「またあとで」と去っていった。
「?」
どこか含みのある言葉に不思議に思っていると、神官が三人の前に現れた。
「三人とも、きなさい」
「説教ならお断りですけどお」
「違いますよ。疲れたでしょう。穢れを払う湯を用意させています。風呂に入ったら食事にしましょう。これはご褒美ですよ」
町を救いましたからね。とほほ笑む神官。
ツワシはやったーと喜んでいたが、二人は何か言いたげに目を合わせる。
町の神官の屋敷は町長の家に匹敵するほどの大きな豪邸だった。当たり前のようにメイドたちが頭を下げて三人を迎え入れてくれ、あれよあれよと導かれていく。
お城かと思うような長い廊下には赤い絨毯。
見たこともない程に広く、花びらの浮いた温かいいい匂いのお風呂。
一日で食べきれないほど大量の、見たこともない豪華なおいしい食事。
人生でそうそう経験することはない、心まで凍えそうな冷たい牢屋。
「なんでーーーーーっ」
ツワシの悲しい咆哮が牢屋の中響き渡り続けるのであった。




