265話 魔法の類似点
解体を終えた肉を紬に預けて、俺はギルドの中にある訓練室に一人向かう。
部屋の扉を開けると、先に到着していた理沙が振り返った。
「わざわざこんな部屋まで借りて、何の話をするつもりなんだ?」
「……先に謝っておくわ。ごめんなさい。でもこれをレオに見てほしかったの」
理沙はなんとも言えない表情を浮かべながらこちらに歩いてくる。
理沙は俺の横まで来ると振り返り、部屋の中心に置いてあった、訓練用の木の人形を指差した。
次の瞬間、人形が何の前触れもなく爆発する。
「爆発したな」
「そんなことを感じてほしかったんじゃないわ。……私のこの魔法、見覚えあるでしょ?」
「もしかして転生勇者の力か?」
どうやら正解だったようで、理沙は表情を固くする。
「多分、いや……もしかしたらの話なんだけど、わたしの魔法はレオの仇と関係があるかもしれないの」
転生勇者の魔法を一目見た時から、妙な感覚を覚えて人ごとのように思えなかったこと。
そして試しにやってみると、同じように魔法を起こせるようになったことを、理沙は申し訳無さそうに説明する。
ダンジョンが人間に与える、この世界では存在しなかった魔法の力。
エアリアルと関係があるかもしれないという理沙の言葉は、以前俺も似たような考えに至ったことがあるが……
「それがどうかしたのか?」
「どうかしたって、私の力はあいつの……」
「理沙の力が何であれ、理沙とあいつは関係ない。そんなことわざわざ言わなくてもわかるだろ?」
そう返せば、理沙はポカンと口を開けたまま一瞬固まり、大きく息を吐いて地面に座り込む。
「そうね。……そうだといいなって思ってた」
「まあ口で説明しなかったらわからないものもあるか。俺も紬の好き嫌いが全く理解できなかったから、似たようなものだしな」
「好き嫌い?」
「魔物の肉が鑑定できるようになったって言ったろ? それで色々食べれる魔物を解体していたんだが、大蜘蛛の魔物は駄目なのに、蟹の魔物は喜ぶんだ。意味わからんだろ?」
俺の疑問に理沙はクスリと笑う。
「紬は海鮮が好きだからしょうがないわよ」
「そういう違いなのか。じゃあ海に出る巨大なカタツムリの魔物だったら大丈夫そうか」
「……それは半々ってところかしらね。私も少し抵抗があるわ」
「じゃあ大蛇の魔物は?」
「それは大丈夫なんじゃないかしら。解体すれば普通の肉に見えると思うし、何なら解体してから鑑定すれば大丈夫だと思うわよ」
そう答える理沙の表情は、最初と比べてかなり柔らかくなっていた。
俺としてもどうでもいいことなので、変に思い詰めないでもらいたいものだ。
それにしても紬は海鮮が好物なのか。
それだとしたら、まだいくらか亜空間に眠ってそうだ。
「じゃあ海で出会ったゴキブリに似た魔物も……」
「――却下。そんなことすれば一生恨むわよ」
「そうだ。先に解体してから鑑定してもらえば……」
「ごめんなさい。さっきの私の言葉は訂正するわ。紬に渡す前に、解体前の現物を提示してちょうだい。そうでないと今この瞬間から、怖くて食べられなくなったから」
寄り添って提案してくれていた理沙が、突然突き放す。
……本当に違いがわからん。
――――――――――
『やっぱり大丈夫だったでしょ。レオさんがそんなことでりっちゃんを嫌うはずがないよ』
『そんなの分かんないじゃない。チームを離脱することも考えたんだからね』
理沙は今日の報告も兼ねて紬に連絡していた。
からからと笑いながら話す紬だが、理沙は自身の魔法に違和感を覚えてから、気が気ではなかったのだ。
『今日はレオさんが海鮮系の食材を出してくれたから、楽しみにしててね。りっちゃんが好きな刺身もあるし、僕が大好きな蟹もあるの』
紬は今日一日はギルドの調理場で料理をし、その後は鏡花の家に泊まるらしい。
満足のいく料理ができたと、嬉しそうに報告してくる。
『鏡花さんにお裾分けしてもいいってレオも言ってたけど、他の人にはバレないようにしなさいね。地球ではドロップしないモンスターの可能性が高いんだから』
『わかってるよ。師匠の部屋でしか食べないようにするから。それと、レオさんにも言われたんだけど、師匠の肉はどうしようか?』
意味深な紬の言葉。
理沙は紬の言いたいことにすぐ気がついた。
『……私はいらない。紬はどう?』
『僕もパスかな。流石にあの肉を食べるのは抵抗があるっていうか……』
『レオは好きにしていいって言ってたのよね? なら鏡花さんに聞いたらどうかしら?』
『師匠は……その……』
『何かあったの? 鏡花さんも流石に《《自分の体だったもの》》を雑に扱おうとはしないでしょ』
歯切れの悪い紬に、理沙は心配いらないと言葉を返すが、電話の向こうからは大きなため息が聞こえてくる。
『師匠はね、どうせならレオさんに骨の髄までしゃぶってほしいって……』
『──全部鏡花さんに食べさせなさい。もし抵抗するなら私も手伝うわよ』
『賛成』
レオが持つ獣王の肉体の処理方法が決まった瞬間であった。




