プロローグE:その落ちこぼれ魔法使い、やがて王になる
「……さん、兄さん!ほら、イーフォール・エロイ君!!!!」
俺を呼ぶ声で眠りから覚めそうになる。
「今日は買い物に付き合ってくれる約束でしょ!」
「んんぅ、うるせぇ」
俺は耳元で煩い目覚まし時計を掴んで布団に引きずり込んだ。
「ひゃっ。ちょっと、兄さん!」
なんだこの目覚ましこれでも止まらねえのか。全く働いていない頭でなんとか騒音を止めようとその出所を手で押さえる。
「んー!ん-!」
手の隙間からまだ少し音は漏れているがこの程度なら問題なく眠れる。俺は再び意識を暗い闇の中に落とした。
目を覚ますと俺の寝床に妹が潜り込んでいた。気持ちよさそうに寝息を立てている。
「なんだこいつ。人の寝床で何寝てんだ」
ちょっとした嗜虐心から無防備な額を軽く弾く。
「うぅん」
「おい、起きろ。何また人のベッドに紛れてんだ。お前もそろそろ年頃なんだから分別つけろ」
「えぇぇ、兄さんが無理やり連れ込んだのに」
「何言ってんだ、起きろ。買い物いくんだろ」
「理不尽を尽くされてる・・・」
ぶつくさ言う妹を置いて、俺は1階におりた。洗面台の魔導陣に手を置いて水を流し、顔を洗おうとしたところで玄関に人の気配を感じた。
うちの親父は鍛冶屋をやっており、組合でもかなりの重役。腕もいいと評判なのでこうして客の方から訪ねてくるのも珍しくない。
「おいクソ親父、客だぞ」
おそらく家に隣接している工房にいるであろう親父に声をかけながら応対のため玄関を開けた。
そこにはこんな下町には似つかわしくない明らかに高位の貴族の格好をしたおっさんがたっていた。城の騎士団に武器を卸すこともあるので貴族は初見ではないが、今までみた貴族とは格が違うことを全く知識がない俺でも感じ取れる風貌だ。だがしかし周辺に従者もいなければ護衛も見当たらない。なんにせよ周囲の景色ともなじんでいないしちぐはぐで怪しいおっさんだった。
「ワタクシはあなたを訪ねて来たのですよ、ミスターイーフォール」
「はあ、俺ですか。どういった用事で」
怪しいおっさんは恭しく一礼し慇懃に話しかけてくるがあいにく俺にお貴族様の礼儀作法の心得はない。
「ワタクシは・・・」
「おいエロガキ、お前はちょっと外でてろ」
怪しいおっさんを遮って親父が顔を出した。親父はそれなりに相応の所作を心得ているはずだが、客の前にも関わらずぞんざいに俺の前にでた。怪しいおっさんを睨んでいるようにも見える。
「いや俺の客だってよ。ついに俺にも指名客がついたんじゃねえの」
「馬鹿言え、誰が銘打つことも許されてねえガキの武具なんぞ欲しがるか。」
親父はそういってハエでも払うように手をヒラヒラさせて俺を追い出した。
なんだってんだ。こちとら顔も洗えてないってのに。
「おはようイー君。お父さんのお客さん?」
「おはよう姉さん、なんかお偉いさんが来てるみてぇ。俺に用事らしいけどなぜか親父に追い出された」
「そっか、、、」
玄関先では姉さんが箒をかけていた。妹と姉さんは近所じゃ有名な美人姉妹だ。確かに姉さんは身内の俺からしても綺麗だと思う。おい、なぜ俺だけこんなに違う。
「イー君はこれから工房?」
「いや、あいつと買い物行く約束してたんだけど、まだ出てこねえし、どうしよっかな」
「あの子とまた一緒に寝たの?」
「その言い方はやめてくれ。誤解を呼ぶ」
「仲がいいのはいいけど、イー君ももう成人なんだからしっかりね」
「兄妹でしっかりもなんもねぇよ。あいつはもうちょい慎みをもつべきだけど」
「あの子もイー君のことが大好きなんだよ。呼んでくるから買い物、行っておいで」
そう言って姉さんは笑って家に入っていった。身内ながら姉さんの笑顔は綺麗だ。
それから若干待った後に出てきた妹の顔はどこか落ち込んでいるように見えた。どうせ前髪が決まらないとかのしょうもない理由だろう。
「ねえイー君はエロイよね」
「誰がエロいって?ああん?」
一緒に街へ歩いているときに唐突に妹から喧嘩を売られた。元気がないと思ったらこれだ。兄の威厳を示さなければ。てか、なんだイー君って。姉さんみたいな呼び方しやがって。
「ちょっと、やめて!髪がくしゃくしゃ!!」
「誰がエロエロ大王だ!」
「そんなこと言ってない!イー君はイーフォール・エロイだよねってこと!!」
「はあ?そりゃそうだろ。んなこと言ったらお前もエロイじゃねえか」
「誰がエロエロ女王だ!」
「そんなことは言ってねぇ!」
そもそも女王というには妹は幼すぎる。せいぜいエロエロ少女だな。いやそもそもエロくない。
「どうしたんだよ、うちの家名が今更恥ずかしくなったのか?分かるぞ、俺もお前くらいのときには恥ずかしくて自分のフルネームを言えなくて、仮初の名前:◆漆黒の王◆(ブラッキング)と名乗っていたもんだ」
「そっちの方が恥ずかしいよ、、、」
「◆漆黒の王◆(ブラッキング)はかっこいいだろ!◆漆黒の王◆(ブラッキング)は!」
「やめて、恥ずかしいから連呼しないで」
心なしか距離を開けて歩くようになった妹にいつもより一歩近く寄ってみる。
すると今度は妹からゆっくり寄ってきて腕を組まれた。
「まだまだ子供だな」
「別にいいでしょ」
やはりなんだかしおらしい。組まれていない方の右手で頭をなでてやるとますます腕にしがみついた。
「、、、、、、、いやお前ももう大人だな」
つい口をついてしまったのはあまりに強く腕を組まれ、十二になる妹の体の成長を感じ取ってしまったからだ。
俺の発言の意図を読み取った妹はバッと俺を離し、顔を真っ赤にして腕を胸の前で交差させた。
「サイッテーーー!!!!!」
そう言って妹は思いっきり腹を殴ってきた。大して痛くはなかったが大げさにうめいてうずくまる。
「えっ、兄さん大丈夫?」
しまったという顔をして自分で殴ったくせに心配する妹を他所に四つん這いになってうめき続けてみた。おろおろしながら俺の周りのをうろうろする妹。
「う、う、うぅ~~~~ファイラ」
十分心配させたところで俺はネタバラシに尻から小さな火柱を出した。生活用術として覚えているやつもいる超初級魔術のファイラを尻から発動したのだ。
妹は真顔でもう一発拳を構えた。今度は本当にいい角度で入って本気でうめいていたのだが、心配することなく先に歩き出してしまった。
買い物から戻ると怪しいおっさんはまだいた。親父との話は終わったようで、どうやら俺の帰りを待っていたらしい。
テーブルの向こうに親父とおっさんが座っており、俺は手前に座らされた。妹は自室に戻らされた。
「イーフォール、お前も今年で成人だったか」
「そうだな、もう18だ」
なかなか口を開かなかった親父はそんな質問から会話を始めた。しかしそれから続かない。怪しいおっさんが痺れを切らして口を開こうとするが親父はそれを止めた。
「俺から言うって約束のはずだ。ちゃんと言う」
「なんだよ改まって」
「お前は、、、」
「俺は?」
「クビだ。」
「はぁ?」
「お前に鍛冶屋の才能はねぇ。だからお前はクビ」
「いやちょっと待て、最近ようやく一通りの工程が分かるようになってきたときだってのに何言って」
「お前と俺に血の繋がりはねえ」
「・・・・・・・は?」
「お前は15年前に橋の下で拾った。この家のだれともお前は血がつながっていない。だからうちの家業も継ぐ必要はねえし、お前には向いてねえ。そんでもってお前ももう成人だ。いつまでもここにおいとくつもりもねぇ。ということで結論、このおっさんに売ることにした」
「てめえ長年育てた情とかねえのか!!この童貞臭プンプン根暗口悪クソ親父が!!」
「口が悪いのはおめぇもだろ」
「お前に育てられたからなぁ!!クソだと思ってたがまさか少年趣味の変態貴族に俺を売るかよ!!いくら俺がイケメンだからってよぉ」
「てめえがイケメンならこの世に不細工は存在しねえなぁ!」
「待ってください、ワタクシは別に貴方様に夜伽させるつもりでは・・・」
「あぁん?じゃあ俺を買ってどうするってんだよ」
「トゥアル学園へ入学して頂きます」
「は?あの貴族のボンボンしかいない?」
質問すべきはそこではないのは分かっているが、怒涛の展開に頭がまわらず思いついた疑問を垂れ流すことしかできなくっている。
「別に学園は貴族にのみ門を開いているわけではありませんよ。才があればだれでも受け入れます。たしかに現状は貴族の子息が多いですが」
「魔術なんてファイラぐらいしか使えねえぞ」
「魔法が使えればよいのです」
「魔法?よく知らんが、だから魔法は使えないって」
「魔法と魔術は全くの別物ですよ。そしてあなたには魔法の才がある」
胡散臭いおっさんからでもあなたには才能があると言われれば、少しはワクワクするのが男というものだろう。他にも聞くべきこと、意見すべきこともあるというのに俺は聞いてしまった。
「俺にどんな魔法が使えるっていうんだ?」
「貴方様は手以外から魔術を放てますね?」
「ん?あぁ、まあ。なぜかケツから出せる。ふざけて出そうとしたらなぜか出せて今じゃ俺の鉄板ネタさ」
「あなたの魔法はそれです」
「は?」
「あなたの魔法は臀部から魔術を放てることです」
「はああああああああああ?」
「ちなみにもう前金は受け取ったからお前に拒否権はない。最後に親孝行できてよかったじゃねえか」
貴族に囲まれて俺みたいな庶民がケツから魔術がだせる魔法だけで魔術学園に通うことになった。しかも育ての親には金で売られ、鍛冶屋はクビ。俺の気持ちお察ししろ。
これから毎週日曜0:00に1P更新できるように頑張ります。




