魔帝《2》
明後日にも投稿する、明後日にも投稿するのでロスタイムを許して……。
「ありがとう、ユキ君。おかげであの後の会談は、スムーズに行ったよ」
「うむ、ヌシのおかげで、向こうが完全に縮こまっておっての。もはや言いなり状態であったわ。ヌシの言ではないが、肝の据わっていた前皇帝の努力が、少々哀れじゃな」
「……そりゃ、役に立ったなら良かったけどよ。全く、今回限りにしてくれよ、こんな茶番は。アンタらと違って、こっちは腹芸には慣れてねーんだ」
魔界王と、そして彼と共にいたエルフ女王ナフォラーゼに、そう言葉を返す。
「そうかな? すごい上手かったよ、チンピラムーヴ」
「チンピラ言うな」
いや、俺も、我ながら性質の悪いチンピラみてぇだとは思ったけども。
――あの、先程の茶番。
アレは、魔界王に請われ、行ったものだ。
こっちの国にほとんど来ることがないであろう俺が、悪い隣人として恐怖を植え付け、逆にここの政治のほとんどを取り仕切ることになるであろう他の王達が、良き隣人として共感と仲間意識を作り上げる。
要するに、典型的な『悪い警官、良い警官』のアレだ。
わだかまりが数え切れない程残っているであろうローガルド帝国の重鎮達を懐柔するために、一芝居打った訳だ。
突然恐怖の魔王を注文され、どうにかこうにかやってみたのだが……まあ、上手くやれたのなら良かった。
ただ、これだけでは俺に恐怖と反感だけが溜まってしまい、それが臨界点を超えて、『打倒魔王』みたいな流れになってしまうとそれはそれで困ることになる。
恐怖政治は有効だが、必ずどこかで破綻し、終わりを迎えることになるのだ。
だから――次の策である。
「それで……次はどこに行けって?」
「うん、ヴァルドロイ君とドォダ君が調査をしてくれて、この付近の山に一帯の主の魔物が住んでいることがわかったから、お願いするよ」
ヴァルドロイが獣王、ドォダがドワーフ王だったな。
「あいよ。何の魔物だ?」
「ワイバーンの亜種だね。普通なら軍で対応する相手だけど……君なら、大丈夫でしょ?」
マップを開き、この前から見られるようになったローガルド帝国周辺を確認すると……ん、いるな。
魔境の森で中程度の強さを持つ、東エリアの魔物どもと同じくらいか。
今の俺ならば五匹くらい同時に襲って来られても余裕を持って倒せるが、確かに少々、強い相手だ。
「討伐は? 今日中か?」
「いや、二日後にお願い出来ないかな。君が討伐するところを見せ付けたいから、そのための準備する時間がほしい。こういうのは、直接見なきゃ面白くないでしょ?」
ニコニコと、腹黒い笑みを浮かべる魔界王。
恐怖だけでは、統治は出来ない。
故に次に必要となるものは、実利だ。
俺という力がこの国の利益となり、そしてその手綱をしっかりと他の王達が握っているということを示すための、魔物討伐という訳だ。
「了解、そんじゃあ、後日またこっちに来る――」
「あ、待って、ユキ君。君と是非お話ししたいって子がいるから、ここに呼んでもいいかな」
「お? あぁ、いいけど」
そうして、その場で待つこと数分程。
やがて現れたのは、かっちりと軍服を身に纏った、一人の老軍人だった。
この人間のじーさんは……見覚えがある。
確か、アーリシア国王の代わりとして派遣された、人間の大将をやっていたじーさんだ。
と、彼は軽く頭を下げて礼をすると、ハリのある低い声で口を開いた。
「お初にお目にかかります、ゴードンと申します。ユキ殿、あなたには、ずっと礼を言いたく思っておりました」
「? 礼を言われるような心当たりがないが……」
「いえ、我が祖国に対し、あなたは数多尽力してくださいました。あなたが陛下の下を訪れなければ、すでにアーリシア王国という国は存在していないことでしょう」
そんな大袈裟なことを言う彼に、俺は笑って言葉を返した。
「いやいや、色々と手伝いはしたが、そこまでではないだろうさ。確かに俺が関与したことで犠牲は減ったかもしれないが、アンタらの国は強かったぞ。道のりは長くとも、最終的には何とかしただろうよ」
彼らの国に、バカな貴族が多かったことは間違いないだろう。
しかし、それでも、立派なヤツらも多くいることを、俺は知っている。
頼りになる、知略と実力を兼ね備えた者達がいることを、俺は知っている。
ただ、俺の言葉を聞いて老将軍は、首を横に振る。
「その、仰る通りです。あなたが関わらなかった場合、その犠牲の数に大きな差が出たであろうことは明白でしょう。数多の犠牲を出し、形を変えて中枢だけが生き残っていたところで、やはりそれは、アーリシア王国とは言えません。民が死ねば、国は国ではないのです」
……民が死ねば国は国ではない、か。
あの国では本当に色んなことがあり、俺が行った時は特にガタガタになっていたことが多く、「大丈夫かこの国」なんて思うことも、それなりにあった。
だが――こういう軍人がトップに立っているのを見ると、やはりアーリシア王国は大国なのだということがよくわかる。
願わくば、あの国にこの人のような人材が増えてほしいものである。
「ですので、あなたには心からの感謝を。あなたがお困りの際は、我々はいつでも力になりましょう」
「……わかった、その時はありがたく頼らせてもらうよ。ただ、俺としてはウチの嫁さんを助けてくれる方が嬉しい。それが最も俺のためになるし、そちらさんのためにもなると思うんだ」
ウチの嫁さんの味方は、多ければ多い程良い。
それに、彼女が活躍すれば、それはアーリシア王国にとってプラスとなるだろうからな。
「あなたの妻というと、勇者殿ですな。えぇ、我らアーリシア王国軍、微力を尽くさせていただきましょう」
彼は確かな意思を感じさせる瞳でコクリと頷き、そう言った。
……書いてて気付いたんだけれど、この作品に出て来る老人、全員強キャラやない?




