閑話:???
博物館は、羊角の一族の里で書くことに決めました。
「――お、レフィ、見ろ。お前にピッタリの帽子がここにあるぞ」
俺は、手に取ったおかしな形の帽子を、我が使い魔であるレフィに見せる。
「いやいや、何を言っておるんじゃ。お主にこそピッタリ、といった感じの見た目じゃろう。ほれ、自分で手に取ったのじゃから、自分で被ってみよ」
「何を言ってるんだ。このマヌケな形、普段から色々とアレな部分のあるお前にこそ、似合うと俺は思うんだ」
「優希、こちらの世界には、ぶーめらんという言葉があるそうじゃな。知っておったか? ……というか、そもそも儂は、角があるから帽子は被れんぞ」
「そこは店の方で対応してくれるらしいぜ。角の部分を開けるサービスとかは、無料でやってくれるってよ。頼んでみるか?」
「ほう? そうなのか。親切なものじゃのう。――って、被らんからな!?」
「もー、おにいちゃん達、早くー!」
帽子一つでずっと言い合いを続ける俺達に、呆れた様子でそう声を掛けてくるのは、金髪の可愛らしい幼女。
名前は、イルーナ。
隣の家に住む幼女で、もう随分と前から付き合いがある。
子供とは思えない利発な子であり、恐らく天才というのは彼女のような子を言うのだろう。
我が家の駄龍さんにも、見習わせてやりたいところである。
「すまんすまん。それじゃあイルーナ、まずは何から乗りたいかー?」
「はい! ジェットコースターさんに乗りたいです!」
ニコニコしながら、ビシ、と片手を挙げてそう言うイルーナ。可愛い。
その彼女の姿に思わず和んでいると、ボソリと隣のレフィが呟く。
「うむ……あれじゃの、後でレイラとリューに警告しておくかの。儂の契約者様は小児性愛者らしいと」
「人聞きの悪いことを言わないでくれますかね」
――俺は今、二人と共に遊園地に遊びに来ていた。
これといったきっかけは特にないのだが、そう言えばレフィは遊園地というものを知らなかったなと思い、暇な時に連れて来たのだ。
ここに隣の家の子であるイルーナもいるのは、彼女の家庭が複雑であるのを知っているからである。
と言うのも、彼女の家は三姉妹で暮らしており、上の二人の姉が働いて生計を立てているらしく、そういうちょっと大変な家庭であるため、賢い子であるイルーナはあまりわがままが言えず、どこかへ遊びに行きたくともなかなか口に出せなかったようなのだ。
そういう姿を俺達は知っていたため、いい機会だから、今日一緒に遊びに行こうと誘ったのだ。
その姉の二人は、レイラとリューと言うのだが、彼女らとも普段から結構ご近所付き合いがあるしな。
レフィとも仲が良いし、割と世話になっている部分もあるので、その恩返しというか。
いや、イルーナとも普通に友人と言える関係なので、一緒にいて楽しいことは確かなんだがな。
姉の二人は大分恐縮した様子を見せていたが、お願い出来るのならと承諾を得たため、こうして共に遊園地へ来た訳である。
「それで……じぇっとこーすたー? とはどの遊具じゃ? イルーナが乗りたがる訳じゃし……あの穏やかな木馬か?」
「それはメリーゴーランドだ。ジェットコースターはな――いや、教えるのはやめとくか。近くなったら言ってやる」
「む……まあいいが」
「とっても楽しみだね!」
内心でにんまり笑っている俺に気付かず、レフィはよくわかってなさそうな様子で、ポンポンとイルーナの頭を撫でていた。
* * *
「きゃ~~~っ!! すっごーい!!」
可愛らしい、イルーナの叫び声。
「うおおおー!! 結構速ぇな!!」
俺の普通の叫び声。
「うぎゃあああああ!? 何じゃこれはあああああぁぁっ!?」
そして、うるさいのがレフィである。
縦横無尽に駆け巡り、三百六十度回転し、超加速で空中を駆け巡るコースター。
すぐ近くから聞こえてくる、イルーナとレフィの悲鳴の、なんと心地良いことか。
ジェットコースターへ向かうにつれ、それがどんなものかをだんだん理解していった時の、レフィの顔の青褪めっぷりときたら、あれだけで飯が三杯は食えそうである。
無理なら無理だとはっきり言えばいいのに、意地を張るからこうなるのである。
まあ、ワクワクが隠せない様子のイルーナを見て、水を差せないと思ったのだろう。
そういうところは好きだぜ、レフィ。
お前のその悲鳴は、もっと好きだがな!
「最高だな、イルーナ!!」
「さいこー!!」
「どこが最高なんじゃああああぁぁっっ!!」
やがてコースターが速度を落とし、降り場へと辿り着いた時、レフィは息も絶え絶えになっていた。
「楽しかったー!」
「楽しかったなー。よし、もう一回乗るか!」
「乗るー!」
「ま、待て、お主ら! ほ、ほら、この遊園地とやらには、数多の乗り物があるのじゃろう? だから、まずは別のに乗らんか?」
「む、それもそうだね! それじゃあ……次、あれ行こうよ!」
イルーナの興味が別に向かったことで、わかりやすくホッと息を吐く銀髪の少女。
ふむ、上手くやったようだな、レフィ。
だが、お前に弱点が多いことを、俺はよく知っている。
きっと次の施設でも、さぞ面白い反応を見せてくれることだろう。
そんなことを考えながら俺は、イルーナが興味を示した施設へと顔を向ける。
あれは……お化け屋敷か。
……え、マジ?
「……イルーナ、本当にあれに行くのか? あれ、お化け屋敷だぞ?」
「お化け屋敷!? うわー、楽しそう!」
「次はどういう施設なんじゃ?」
「あのねあのね、お化け屋敷はね――」
真っ直ぐそちらへ向かっていく女性陣に、俺は何も言えず付いて行った。
* * *
「うひおぉっ!?」
「きゃーっ、ビックリしたー!」
「ふむ、これは生首か? よく出来ておるのー」
驚きの声を漏らす俺とイルーナに対し、出て来た生首をまじまじと見詰め、ただ冷静に分析するレフィ。
「それにしても……何じゃユキ、その声は。情けないのう」
ニヤニヤしながら、そう煽ってくる我が使い魔。
「知ってるか、レフィ。お化け屋敷というのは、人を驚かせるための施設だ。だから、変に意地を張らず、こうして驚いてやるのが礼儀なんだぞ」
「『うひおぉっ!?』」
「…………」
マヌケな顔をして、先程の俺の真似をするレフィに、押し黙る俺。
こ、コイツ……。
別に俺は、ホラーが苦手という訳ではない。
ホラー映画もよく見るし、こういうところにも拒否感なく入れる。
だが――人を驚かせるような仕掛けには、普通に驚くのである。
警戒していても、突如目の前に生首が現れれば、当たり前のように驚くのである。
対してレフィは、こういうものに全く驚かないということを、俺は知っている。
どうも文化の違いがあるらしく、日本人なら皆怖いと思うものでも、何が怖いのかよくわかっていないようなのだ。
ホラー映画を共に見ていた時、驚かせポイントをしらーっとした顔で見ていて、「えぇ、コイツ……」と思ったものである。
こういう風になることがわかっていたからこそ、コイツと共にお化け屋敷に入るのは嫌だったのだ。
「ほれ、怖いなら怖いと言って良いんじゃぞ? 手でも繋いでやろうか?」
「おにいちゃん、怖いの? なら、わたしも手を繋いであげる!」
「…………」
こちらに手を伸ばしてくるイルーナを拒否出来ず、俺は彼女と手を繋ぐ。
「ククク……今、どういう気持ちじゃ? 幼女に気を遣われ、手を繋がれるというのは」
「う、うるせぇ! お前だって、さっきのジェットコースターじゃあ、散々悲鳴をあげてただろうが」
「さて、何を言っておるかわからんの」
と、そんな感じでレフィとバチバチやっていると、イルーナがニコニコしながら俺達へと口を開く、
「ね、おにいちゃん、おねえちゃん」
「どうした、イルーナ?」
「ん、何じゃ?」
「――いっぱいいっぱい、ありがとうね!」
にぱっと花のような笑顔を浮かべるイルーナに、俺達は顔を見合わせ、俺は首後ろを擦り、レフィはポリポリと頬を掻いた。
* * *
それからも俺達は、遊園地を遊び尽くさんと、次々にアトラクションを巡って行く。
小さなその身体にどれだけの体力が備わっているのか、元気いっぱいに駆け回るイルーナに付いて行き――夕方。
電池が切れたように眠りこけるイルーナを片手で抱っこし、俺は、レフィと帰路についていた。
「フゥ……ようやく満足したか。これだけ小さいのに、どこにこんな体力が備わっているのじゃろうの」
「子供ってのは、すげーよな……俺、まだまだ若いはずなのに、歳を感じたぜ……」
二人揃って、苦笑を溢す。
「ま、儂も楽しかったぞ。連れて来てくれて、ありがとうな、優希」
「何だ、随分素直だな?」
「うむ、誤魔化しようのないくらい楽しかったからの。お主と、そしてその童女と共におるのは……悪くない。お主は、どうじゃ?」
「……そうだな。お前と一緒にいるのは、悪くない」
俺の言葉に、レフィはニヤリと、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「のう、優希」
「おう」
「ん」
ス、と彼女は、こちらに手を伸ばす。
俺は、ドクンと心臓が跳ねるのを感じながら、その手を握った。
キュッと絡まる指。
そのままレフィは、こてんと、俺の肩に頭を預ける。
――陽は落ち、オレンジの空が、光を内包した黒へと染まっていく。
街灯。
淡く、穏やかな光。
ただ無言で、歩く。
繋いだ手から流れ込む、痺れ。
甘い感覚。
夜の帳は暗く、だが、世界を温かく包み込む――。
深夜だからまだエイプリルフール。
異論は認めません。




