魔帝《1》
~今までのおさらい~
種族なき同盟軍:魔族、エルフ、ドワーフ、獣人族、人間、そしてユキが所属する陣営。戦争に勝利。
人魔連合軍:ローガルド帝国、悪魔族が組んでいた陣営。戦争に敗北。
「――ユキ君、来てくれたね。待ってたよ」
「あぁ。ルノーギルから聞いたんだが、さっそく混沌とした状況になって来てるらしいな」
「まあね。ただ、まだ序の口さ。状況はここからさらに混沌としていくだろう。敵は闇を広げるために動き、僕達はそうならないように策を巡らす。戦争は終わったが、僕らの戦いはまだまだ続くだろうね」
肩を竦める魔界王。
何だか、すげー楽しそうな様子である。
本領が発揮出来て、嬉しいのだろうか。
「元気そうで何よりって感じだが、気を付けてくれよ? ここで対処に失敗すると、民衆に火が点いてすっげー面倒になるぞ」
そう言うと、魔界王は意外そうな表情を浮かべる。
「お、よくわかってるね。こう言ったら失礼かもしれないけれど……ユキ君って、結構学があるよね? 魔王は閉鎖環境に生まれるもののはずだけど、君のその知識はいったいどこから来てるんだい?」
「ウチには長い年月を生きた覇龍に、羊角の一族がいるからな。色々と教えてもらったんだ」
肩を竦め、そう誤魔化す。
まあ、前世じゃあ義務教育はちゃんと受けていたからな。
不良学生であったことは否めないし、決して頭が良い方ではなかったが、それでもこちらの世界では高等教育に分類されるくらいの知識は持っているのだ。
親バカの考えだろうが、ウチの子達には是非とも、前世で俺が受けたくらいの教育を受けさせてやりたいものだ。
レイラがいてくれているおかげで、外と比べれば相当に高い教育をウチの子らは受けているだろうが、それでも限界はあるだろうしな。
ちゃらんぽらんな俺でも知識が力になったと思っているのだ。俺よりも賢い彼女らならば、きっとその知識を使って、世界を謳歌してくれることだろう。
「それをわかってくれているなら、話は早いね。実は一つ、お願いがあるんだ」
「……あんまり聞きたくない感じだが、一応聞こうか」
すると魔界王は、いい笑顔を浮かべて言葉を続けた。
「ユキ君――恐怖の魔王になってくれないかい」
* * *
ギィ、と扉を開き、俺は、その会議室へと入った。
中では、この国の重鎮らしい人間が数人と、見覚えのある同盟軍の王達が大きな円卓に座って何かしらの会議を行っており、前者は暗く重苦しい表情、後者は余裕のある表情と、今のこの国の現状がよくわかる様相である。
突如入って来た俺に、ローガルド帝国の連中は「誰だコイツ」と思っていることが丸わかりの顔をし、同盟軍の王達は何かを察したようにピクリと眉を動かす。
――作戦開始か。
俺は、横柄な態度で部屋に入ると、気だるげに中央を進んで行き、用意されていた空席に座った。
「会議途中だけれど、ローガルド帝国の諸君、紹介しよう。――彼がこの国の次代の皇帝になった、ユキ君だ。ここのダンジョンは彼が継承した。これから君達は、彼をトップとして仰ぐことになる」
ダンジョンを継承した者が、ローガルド帝国の皇帝となる。
この国がダンジョンとなっていることは一般的には秘匿されており、代々の皇帝が魔王で、ダンジョンを継承することで次期皇帝となることもほぼ知られていないそうだが、この国のトップ間近であるこの者達は当然そのことを知っているのだろう。
「おう、よろしく。魔王ユキだ」
テキトーに手をヒラヒラさせると、人間達の俺を見る目が険しくなる。
多分、「若造が……」とか思っているのだろう。
「ユキ君、彼らに何かあるかい」
「ん、あぁ、そうだな……じゃあ、最初に言っておくぞ。俺は、お前らが何をどうしようが、何も言わねぇ。勝手にやっててくれりゃあいい。何故なら、お前らに興味がないからだ」
「んなっ……!」
その投げやりな俺の言葉に、彼らの幾人かが絶句した様子で息を呑む。
「ただ、一つだけ指図させてもらう――逆らうな。従え。その間は好きにさせてやる。……いや、まあでも、やっぱ逆らってもいいぞ。丸ごと潰すだけだからよ。お前らが好きに選べ」
「――ふっ、ふざけるなッ!!」
と、激高した様子で立ち上がり、口角泡を飛ばすのは、軍人らしい厳めしい見た目の老人。
恐らく、五十は超えているだろう。
心労が祟っているのか、目には隈があり、頬はげっそりと痩せこけている。
「あん? 何がだ。逆らわないんだったら好きにしていいって言ってんだぜ。お前らには万々歳だろうよ」
「貴様ッ、我々を愚弄しているのかッ!? このような適当な男が、我らが皇帝であるとッ!? そんなこと、決して認められるものか……ッ!!」
「知らねーよジジィ。だったら戦争に勝て」
バッサリと反論を切り捨てると、老人は血管がブチ切れそうな程に顔を真っ赤にし、ギリィと歯を食い縛り、腰に佩いていた剣へ手を伸ばす。
会議室にいた同盟軍の兵士達が一斉に警戒態勢へと移るが、魔界王がいつもの内心の読めない笑みのまま、片手を挙げて止める。
「ッ~~!! 貴様のような破落戸に国を任せるくらいならば、今ここで……ッ!!」
「お、やるのか? ――いいぜ」
刹那――俺は魔力を解放し、威圧する。
ただ、威圧と言っても、大分前に黒龍のクソ野郎を殺した時に得たスキルである、『王者の威圧』は使っていない。
人間相手に使用すれば、そのまま殺してしまう可能性が高いので、ただ殺意を乗せた魔力を放ち、圧力を掛けるだけに止めている。
全く……何で俺が、こんな気を遣わなきゃならないんだろうな。
同盟軍の王達は流石なもので、ステータス的には俺より下でも余裕そうにしているものの、人間達や周囲の護衛兵達は顔を強張らせ、硬直している。
こっち陣営の人間や兵士の彼らには悪いが、もう少しだけ我慢してくれ。
その状態のまま、俺は躊躇なく円卓の上に土足で乗ると、ダラダラと冷や汗を流して抜剣する途中で硬直している老人の前までゆっくりと進み、しゃがんで視線を合わせる。
「まだ、わかってねぇようだな。力の差を。その点、皇帝シェンドラはよくわかっていたぞ。わかっていたからこそ、いがみ合っていた魔族とも協力し、禁忌に手を染めて戦争に挑んだ。そして、負けを察したらあっさりとそれを受け入れ、これ以上荒らさせないようこの国をこちらに託した。敵ではあったが、賢い男だった」
「――――」
強張り、口を上手く動かせないらしいソイツに、俺は言葉を続ける。
「お前は何だ? 若造に煽られて、キレるだけの無能か? 現実が受け入れられないからと、逃避する臆病者か? ま、何でもいいぞ。俺はお前に興味がないからよ。領地に戻って兵を連れて来たいなら、待ってやる。千くらい連れて来るか? それとも万か? ほら、言ってみろ」
「ユキ君、その辺りにしてあげて。僕らは戦争に勝ったけれど、別にこの国をメチャクチャにしたい訳じゃないんだ。それに、彼らにも状況の変化を受け入れるだけの時間が必要だ」
まあまあと仲介するような口調で、魔界王が口を挟む。
――ん、これで十分か。
フンと鼻を鳴らし、円卓から降りると、元の席へは戻らず、そのまま会議室の扉へと向かう。
「もう一度言おう。逆らうな。従え。その間は、この国に襲い来るどんな脅威からも守ってやる。お前らの前皇帝とそう約束したからな。それ以外の細かいことは、こっちの王達と相談することだ」
それだけを言い残し、俺は部屋を去ったのだった。
どう森最新作のさ、博物館が本当に凄くてさ……どうにかして幼女組と博物館に行く話が書きてぇ。
……そう言えば、エイプリルフールが近かったな。




