閑話:エクストリーム将棋ごっこ
……続きが書けなかったので。
「レフィ、将棋しようぜ」
「む、いいぞ。遊び相手がおらん可哀想なお主のために、儂が相手をしてやろう。心の広い儂に、お主はもっと感謝して敬うべきじゃな」
「おっと、俺と同じくらいの暇人が何か言っていますねぇ。どこかの誰かが哀れだったからこそ、俺が気を利かせて誘ってやったということに、気付いていないと」
「ほう、良いのか? そのようなことを言って。別に儂は、可哀想なお主をほっぽって、二度寝に入っても良いんじゃぞ?」
「構わないぜ? お前が勝負から逃げるって言うなら、俺は止めないさ」
「戯け、お主が頓珍漢なことを言っておるからこそ、儂はそう言ったのじゃ。勝負をせんとは言っておらん」
「……あの二人、よくあんな、スラスラと言葉が出て来るっすよね」
「お互いを煽ることだけに関しては、世界一だよね。しかも、そう言い合いつつも、しっかりと将棋盤の準備をしてるところが二人っぽい」
外野からそんな声が聞こえて来るが、俺達はスルーし、将棋を――。
「――と、そうだ、今日は、エクストリーム将棋ごっこでもやるか」
「……何じゃその、お主がリューと茶番を演じている時にやりそうな遊びは」
よくわかってるじゃないか。
「説明しよう!! エクストリーム将棋ごっことは、通常の将棋と違い、一つ一つの駒に特殊能力を付加し、エクストリームに戦う、超エキサイティン!! な将棋である!!」
「あー……よくわからんから、お主が先手でやれ」
「いいだろう、今回は俺が先手を取らせてもらおう! では――行け、我が『歩』! 歩兵は身軽、故に二マス一気に移動だ!」
俺は、通常ならば一マスしか進めないはずの歩を、ニマス分前に置く。
「ぬっ、それは反則では!?」
「これはエクストリーム将棋ごっこなので。将棋でありながら、将棋に非ず! 求められるのは、柔軟な思考なのだよ、レフィ……」
「……なるほどの。大体理解したぞ。それならば――儂のたーん! 『ヒシャ』は、飛ぶという字が入っておるんじゃろう? 儂はヒシャを空に飛ばし、偵察を行わせる! これによってお主の陣地は丸見え、故に儂の軍勢の行軍速度が上昇じゃ!」
そう言ってレフィは、魔法で飛車を浮かせ、固定する。
その魔法の使い方、カッコいいんだけど。
「な、何……ッ!? やるじゃねぇか、レフィ……ッ!!」
「フッ、お主らの遊びを、儂も散々見とるでな。儂ならばどうするかも考えておった故、問題ない。これならば勝てると思ったのじゃろうが、残念じゃったなぁ」
ニヤリと笑みを浮かべるレフィ。
飛車という名前から連想し、盤上へ浮かせるというその行動に、そこから生まれる効果。
思わず納得してしまった。
だから、レフィの今の一手は有効だ。
そう、こういう類の勝負は、納得が重要なのだ。
納得してしまったら、もう、受け入れるしかない。
「つまり、俺達と一緒に遊びたくて、一人で技を色々と考えていた、と」
「ち、違うわ! そ、それより、早く次の駒を動かさんか」
「そうだな。俺のターン! ドロー!」
「どろー?」
「何でもない。――俺は、さらにもう一つ歩を進め、ここに防衛線を築く! ここを正面突破するのは、これで困難になったぜ?」
「ならば儂は、上空のヒシャから偵察の連絡を送り、こちらのフを潜伏させる! お主の陣地はこの潜伏に気付けておらん故、次のたーんには背後から奇襲じゃ! その防衛線は崩壊することじゃろう」
レフィは一番端の歩を盤外に置き、潜伏させる。
コイツ……先程の言葉通り研究していたらしく、すでにこのゲームの真理を理解していやがる……!!
「だが、甘いな! 上空に飛車という強兵が飛んでいるのはこちらの陣地からも見えていた! 故に俺が行うのは、端の歩を移動させない代わりに、その場からの地対空攻撃! ゆけ、スティンガーミサイル発射!」
「すてぃんがーみさいる?」
「そういう攻撃があるんだ。えーっと……お前がわかるところで言うと、『龍の咆哮』みたいなものか? 地上から放つことが出来て、その上敵を追尾するんだ」
「そのような威力を持った攻撃を、フが放てるのは卑怯ではないか?」
「いや、ワイバーンくらいなら落とせるだろうが、飛車は多分龍族に近い強さを持つだろうし、スティンガーで倒すのは無理だろうな。けど、地上から攻撃される以上、その場に留まるのは無理なはずだ。故に一時的に飛車は撤退し、お前が潜伏させた歩はこちらの位置情報が掴めず、飛車が戻って来るまで死兵となるだろう!」
ピン、と浮いている飛車を指で弾くと、クルクル回って後退する。
「ふむ……それならば納得出来るの。隙を見てヒシャを戻すしかあるまいか。あとお主、フを酷使し過ぎではないか?」
「俺、歩って駒、好きなんだよね。だって、持たせる武器によっては、何でも出来るようになるだろ?」
「いや、けどすぐ死ぬじゃろ。ヒシャが龍族と言うならば、上空から一発魔法を放てば全滅じゃぞ」
「そりゃお前、龍族を相手にしたら何でもそうだろうよ。ダメダメ、やっぱ飛車が龍族は無しにしよう。ヤタくらいだ」
ウチのペットの一匹であるデカカラス、ヤタ。
アイツならば、亜龍と呼ばれるワイバーンくらいならば簡単にぶっ殺せるので、ちょうど良いだろう。
「えぇ? ヒシャは将棋の中では最も強い駒じゃろう? ヤタでは弱くないか?」
「お、お前……アイツだって最近は強くなったんだぞ? お前は基準が高過ぎだ」
「そうは言うても、将棋においてヤタが最高とすると、その他の兵はそれ以下ということになるじゃろう。弱くないか、その軍?」
「……アレだな。久しぶりに、お前が覇龍だってことを思い出したわ」
「久しぶりとは何じゃ、久しぶりとは! 儂はいつだって世界最強の龍族じゃ。それがわかったのならば、もっと儂を敬うことじゃの」
「敬う……えぇ、敬っていますよ、覇龍様のことは。ハハ」
「ふむ、毛程も思っていないということはようわかった」
「いやいや、そんなことないですよ。きゃーっ、本物の覇龍様だ、握手してー!」
「なるほど、儂を舐め腐っているようじゃな。よし、戦争じゃ」
――そんな感じで俺達は、それからも戦いを続ける。
一手一手思考を巡らし、自らが有利になるための陣地を築き、相手の陣地へと侵略して行く。
ヒートアップし続けた俺達は、すでに将棋盤などという小さな戦場からは離れ、お互い立ち上がり、王将を手にして構えを取っていた。
「……お主と対峙した時から、きっとこうなるのでは、と思っていた。最後には、王同士の一騎打ちになると」
「フッ……奇遇だな。俺も同じことを思っていた。最終的には、部下ではなく、俺自身――王である俺自身が、お前を倒すことになるだろうとなァッ!!」
「ハッ、妄想を見ておるようじゃなっ!! 儂がしかと、目を覚まさせてやるとしようっ!!」
「お二人方、もうちょっとで晩御飯の時間ですよー」
「「先に食ってくれ(おれ)」」
「あー……はい、わかりましたー」
レイラは、生暖かい目を俺達に向け、去って行った。
――大体いつも、レフィとはこんな感じだ。
しばらくしても勝負が終わらず、ネルかイルーナに怒られるまでが、ワンセットである。




