繋がるは死と生の輪舞《4》
2018年以来使ってなかった活動報告機能を使って、クリスマスの話を追加しておきました。
本編がひと段落したらこっちにも投稿します。
――動きが良くなってきたな、コイツ。
帝都の街並みを破壊しながら迫り来る太く長い尻尾を飛んで回避し、反撃を、というところで歪に伸びた爪が迫って来ているのを見て、距離を取る。
ぎこちなくナメクジだった骨龍の動きが、段々と滑らかになって来ているのがわかる。
今のも、ここまでの戦闘だったら簡単に反撃が出来ていたが、新たな身体に馴染んで来たのか、それとも生前の頃の動きを身体が思い出して来たのか、容易に手を出せなくなって来ているのだ。
発生し続けているアンデッドも、一体一体は雑魚なのだが、帝都中に蘇り出したソイツらが建物の隙間を縫って四方から襲い掛かって来ており、ゾンビ映画のクライマックスばりの防衛戦を我がペット達が繰り広げている。
俺の戦闘に邪魔が入らないようにしてくれているのだが、その処理もそろそろ追い付かなくなりそうだ。
やはり、今回に関して言うと、時間は敵だ。
「フッ――!!」
どうにかヤツの攻撃を掻い潜り、神槍の先から飛んで行く真空刃で頭部ごと大剣を斬り飛ばしてみるが……。
――ダメか。
攻撃は、入る。
だが、例の黒い靄のせいで、当たり前のように再生してしまった。
……もはやあの呪いの大剣は、骨の身体の一部として認識されてしまっているらしい。
しかも魔力眼で見る限り、俺の攻撃で力が削れてしまったのか、先程よりも骨龍に対する大剣の抵抗が弱まった感じだ。
クソッ、失敗だったか。
こうなると、後は――。
「――直接抜くしかない、かッ!!」
付かず離れずで戦っていたところを、グン、と一気に距離を詰め――というところで、冥王屍龍は突如頭を仰け反らせ、俺を追い払うべくメチャクチャに暴れ始める。
「チッ!!」
ならば首から先を斬り落とし、頭部を動かせなくさせてから、と思ったのだが、恐らく出力を落とすことで連発出来るようにしたのだろう『龍の咆哮』を、ヤツはバンバンとこちらに向かって放ち始め、ロクに近付くことが出来ない。
一丁前に、自身の弱点が狙われていると気付いたのかもしれない。
「テメェこのッ、脳味噌なんざ持ってねぇくせに、知恵を働かせてんじゃねーぞッ!!」
ジリジリとした焦りが胸中に湧き始め、どうにか現状の打開策をと思考を巡らしていた、その時だった。
『――ユキ君、こちらフィナル。今からその魔物に法撃を行う。巻き込みたくないから、一旦君の配下達と一緒に離れてくれるかい』
風に乗って運ばれたかのような、魔界王の声が耳に届く。
これは……エルフ達が使っている魔法、ウィスパーか!
「お前らッ!! 下がれッ!!」
ペット達に距離を取らせ、俺もまた後ろに下がり――それから、すぐだった。
空から骨龍に向かって降り注ぐ、何かわからない液体。
何だ、と思い上を向けば、いつの間にかそこに滞空している、飛行船部隊。
次の瞬間には、大小様々な魔法がそこから放たれ、骨龍へと殺到する。
「おぉ……! 派手にやるもんだ」
もしかするとアレ、この世界で初めての組織的な空爆だったりするんじゃないだろうか。
騎龍兵とか翼持ちの種族とかいるから、そういう訳でもないのか?
『アあアァァアぁアァアッ!!』
周囲のアンデッドを粗方消し飛ばしたその派手な魔法空爆は、どうやら効果があったらしい。
動きが良くなってきていた骨龍が、再び油が切れたかのように鈍くなっている。
空爆を受け、損傷した箇所の再生も、非常に遅い。
さらに、発動しっ放しの魔力眼で見ると、ヤツの全身に巡っていた負の魔力が非常に薄くなっているのがわかる。
俺が魔法を試した際は、豆腐でも投げ付けたが如く全く通らなかったのだが……もしかすると、直前に放った液体に何か理由があるのか?
『あらら、まだ動くのか。ユキ君、今の液体――神聖水はこれで全て使い切った。君の動きからして、あの怪物の額に刺さっている剣を抜こうとしているのだろう? こちらからも、それが負の魔力を集める焦点になっているのは確認出来た。だから……後は、頼むね』
「任せろッ!!」
聞こえているのかどうかはわからないが、そう叫んだ俺は、動きが鈍くなったせいで逃げられないヤツの頭部を今度こそ神槍で斬り落とすと、その上に乗る。
「よう、久しぶりだなッ!! 以前見た時と比べて、随分マヌケな姿に成り下がってよッ!!」
俺は神槍をアイテムボックス内に投げ入れ、呪いの大剣――トートゥンド・ルーインを両手で握り締めると、この魔王の身体が持つ力の全てを込めて引き抜きに掛かった。
「ぐッ、ぎいいいいぃッ!!」
両腕に掛かる、コンクリートで固められた鉄筋でも引き抜こうとしているんじゃないかと思わんばかりの、非常に重い負荷。
と、その時、大剣からブワリと滲み出た黒い靄が柄を握っている指先から侵食を開始し、俺の身体を蝕み始める。
抗えない、圧倒的な負の魔力。
俺の頭の中で騒ぎ立てる、いつかエンを初めて握った時にも感じられた、強烈な呪詛。
まるでミミズやムカデが這いずり回っているかのような、非常に気色悪い感覚が腕を上って行き、肩に到達し、全身への侵食が進んで行く。
「気色悪ぃなあもおおッ!! 俺こういうの無理なんだけど――って、オイオイオイ!! クソッ、テメェさっきまでそんな動きしてなかったじゃねぇか!?」
同時に、俺の目の前でギギギ、と独りでに動き出す骨龍の胴体。
斬り落とされた自身の頭部でも取り戻そうとしているのか、こちらに向かって骨の腕を伸ばし――。
「「かかれぇぇぇ!!」」
『オオオオオッ!!』
――鬨の声と共に、骨龍に殺到する、同盟軍の兵士達。
「この化け物に彼の邪魔をさせるなッ!!」
「そォれ、引っ張れぃ!!」
指揮をしているのは、獣王とドワーフ王か。
精鋭で固められているようで、分析スキルで見る限り一人一人かなりレベルが高い彼らは、俺に迫ろうとしている胴体に突撃を敢行。
ダメージは入れられずとも、尻尾の先を掴んで後ろに引っ張り、体重の掛かる足を重点的に攻撃し、その動きを妨害している。
どうやら負の魔力である黒い靄が薄くなったことで、取り込まれることもなくなり、攻撃することが出来るようになったらしい。
我がペット達も、そちらに参加しているようだ。
そうして、皆が俺が現状を打開することに賭け、時間稼ぎをしてくれている――のだが、トートゥンド・ルーインが抜ける気配は、未だ感じられない。
どれだけ力を込めようと、一ミリも動かない。
「ぐぅぅぅッ、舐めるなよッ!! 俺はなァッ!! レフィが梃子でも動かねぇって意地張ってる時でも、あの手この手で動かすことが出来んだよォッ!!」
腕に走る血管の全てがはち切れ、筋がイカれてしまいそうだ。
俺の身体を侵食する負の魔力が作用しているのか、強烈な吐き気がこみ上げ、体内魔力の循環が狂い始めているのがわかる。
それでも。
一切、力は抜かない。
全身を突っ張らせ、歯を食い縛り、黒く染まった腕をぶっ壊さんとばかりに踏ん張り続ける。
「テメェ程度が動きたくねぇってクソニートな決意を固めてようが、俺にとっちゃ何も問題ねぇッ!! わかったらなァッ!! いい加減抜けやがれってんだッッ!!」
ピキ、と動く感覚があった。
刀身が刺さっていた額の穴に、ビシリと入るひび割れ。
それは、俺が力むのに比例してビキビキと大きく広がって行き――ブシュウッ、と負の魔力を吹き出し、トートゥンド・ルーインの刀身の全てが抜き放たれる。
――よしッ!!
抜いた勢いで体勢を崩しながらも、瞬時にアイテムボックスから神槍を取り出し、魔力を込めて薙刀フォルムに変形させると、呪いの大剣を空中で真っ二つにして破壊。
そして、翼で姿勢制御して体勢を立て直すと、そのまま骨龍へと突撃した。
まず、縦に一撃。
全身を左右に真っ二つにした後、十字に斬るように連撃を加え、肉体を大まかにバラバラにしてやる。
と、魔力を込め過ぎたせいか、神槍が再び俺の魔力を勝手に吸い取り始めるが――知ったことか。
「ハハハハハッ!! 解体作業は楽しいなァッ!!」
沸き上がる戦意のまま高笑いをかまし、魔力が物凄い勢いで減って行くのも無視し、ただ攻撃を続ける。
「彼に続けッ!! あの攻撃に巻き込まれるなよ、そうなっても手当ては出んぞッ!!」
「ガッハッハッ!! お前ぇら、ガキへの土産話を作るなら、今じゃぜッ!!」
この化け物の終わりを、戦争の終わりを感じ取り、周囲の同盟軍兵士達もまた意気軒昂に武器を振るい、満足に再生の出来ない冥王屍龍の骨の身体をガリガリと工事でもするかのように削って行く。
『全軍! 法撃隊の極大魔法の準備が終わった、退避を!』
そして、恐らく拡声魔法と呼ばれる魔法を使っているのだろう、魔界王の声が辺り一面に響き渡る。
俺達は、一斉に冥王死龍から距離を取り――。
天を白に染め上げる、幾本もの轟雷。
魔を滅す、裁きの光。
質量すら感じさせる密度のその極大の光は、全ての者の耳を馬鹿にし、立ち昇る噴煙が目を使いものにならなくさせる。
その状態が、一分は経過しただろうか。
キーン、と鳴る耳鳴りがだんだんと治まっていき、煙が晴れたその先には――もはや原型を留めていない、ただ白い粉だけが一面に広がっていた。
『ウオオオオオッ!!』
魂からの雄叫びが、帝都を揺らした。
今年中に戦争編を終わらせる、終わらせるぞぉ……!!




