繋がるは死と生の輪舞《3》
皇帝シェンドラの描写、ダンジョンに関する機能がユキと同じ『ゲームのステータス画面』で表示する方式になってしまっていたので、本で表示する方式へと変更しました。
「報告! 出現した人工アンデッドの殲滅、完了しました!」
「報告! 帝都内部にアンデッドドラゴンが出現! 現在魔王ユキ及び彼の支配下の魔物達が交戦中です!」
「報告! 敵部隊が撤収、戦場から完全に姿を消しました!」
「報告! アンデッドドラゴンの動きに呼応し、人工ではない天然のアンデッドが出現を始めました! 時間経過で増えている模様です!」
「報告! 帝都に侵入した夜襲部隊、一時撤退した模様! 指示を求めています!」
次々ともたらされる報告に、魔界王フィナルは険しい表情でポツリと呟く。
「そうか、これが……」
ここからでも見える、あの骨の怪物。
今まで感じていた、敵の動きの気持ち悪さには、やはり裏があったのだ。
ここまでアレが出て来なかったことにどんな理由があるのかはわからないが……アレが出て来た段階で敵が退いたということは、まず間違いなく、敵の目的はアレを蘇らせることだったのだ。
「ナフォラーゼちゃん、エルドガリアさん、どう思う」
フィナルの問い掛けに、エルフの女王ナフォラーゼ、そして羊角の魔族エルドガリアがそれぞれ言葉を返す。
「まず間違いなく、我らにあのアンデッドドラゴンを押し付けるつもりであるの。アンデッドは生きとし生けるものの気配に惹かれる。この戦争途中に敵がいなくなったのは、自分達がアレに襲われんようにするためであろう。ただ……となると敵は、あの怪物の制御を得られておらんということになるの。それが、朗報かどうかはわからぬが」
「あの禍々しい魔力の感覚……この軍で対処しようとすれば、確実に半数は死ぬだろうさね。あの魔王が相手をしておらんかったら、大分不味い状況だったろうよ」
「……逃げるにしても、戦うにしても、アレをどうにかしないといけないのは確定っぽいね」
誰も彼もが焦りを含んだ視線を魔界王に向け、その指示を待つ中、彼はス、と目を閉じる。
戦場の喧噪とは裏腹に、奇妙な沈黙が流れる司令本部。
重い緊張感に場が包まれ――そして、魔界王は目を開いた。
「……よし。各隊、隊長級を選出し、臨時部隊を編成。精鋭のみで帝都へ突撃する。それ以外の一般兵は、出現したアンデッドの掃討を。法撃隊は隊を二つに分け、片方は地上に残ってアンデッド掃討の支援、もう片方は飛行船部隊に合流して上空支援だ。――ゴードン将軍」
「えぇ、何でしょう」
魔界王の言葉に答えるのは、片目に眼帯をし、顔中傷だらけの、戦場での叩き上げであることが一目で窺える風貌の老軍人。
彼は、後方支援に残ったアーリシア国王の代わりに派遣された、人間達の総指揮官であった。
「現時刻を以て、総軍の指揮は君に任せる。組織戦闘において、人間に敵う者はいないからね。帝都での戦況を見て、戦闘を継続するか、引くかの判断は、全て君に任せる」
「拝命致しました」
「フィナル、ヌシも出るのか?」
ナフォラーゼの言葉に、フィナルはコクリと頷く。
「ユキ君があれだけ頑張ってくれているのに、後方にはいられないさ。僕は法撃隊と一緒に飛行船に乗らせてもらって、上から指揮を執るつもりだよ。想定とは大分違ったけれど、ここがこの戦争の山場だ。――ここで、全てを終わらせる」
敵がアンデッドを多用しているという情報を得た後に、準備させた秘策も、幾つかある。
勝算は、ある。
「決戦の時は、今だ」
* * *
「アンデッドどもよ、行け!! 奴の動きを止めろ!!」
皇帝シェンドラの怒鳴るような指示を聞き、異形の姿をした兵士達――人工アンデッドの部隊が動き出す。
二対の翼で空を舞い、冥王屍龍に悲鳴をあげさせているあの魔族。
脅威的なのは、その攻撃力の高さと機動性の高さだ。
縦横無尽に帝都の空を駆け、まるで嬲るように冥王屍龍に攻撃を加えている。
だが……攻撃力に関して言えば、冥王屍龍もまたずば抜けたものを持っているはずなのだ。
どこぞの軍勢など、簡単に滅ぼせるであろう程の力を、である。
不十分な負の魔力で起動してしまったが故に、多少力が落ちてしまっているようだが、時間さえ経てば非常に鈍い動きも解消され、もっとまともに動けるようになるはずである。
そう、あの魔族さえ排除することが出来れば、勝ちの目は転がって来るのだ。
故にシェンドラは、相当に数が少なくなった人工アンデッドの中でも翼を持っている個体を集め、攻撃へと向かわせ――突如、彼が常に革紐で肩から下げている本が、独りでに開く。
「ッ、近衛兵ッ!!」
彼は声を荒らげると、一時も離れることなく付き従っている近衛兵達に自身の身を守らせる。
次の瞬間、飛来する数十の魔法や矢。
それらの攻撃に一発も有効打はなかったが、しかし飛び立った人工アンデッド達にも同じように攻撃が殺到し、そして何やら力が抜けたようにのろのろと地面に墜落したかと思いきや、動かなくなる。
「ゴジム様が戻らず、貴様が生きているということは……やはりゴジム様は、お逝きになられたのだな」
「チッ……次から次へと……!!」
奇襲を仕掛けて来たのは、悪魔族の部隊。
その中にいた、悪魔族頭領ゴジムの腹心であり、実質的な取り纏めをしていた副官――デレウェスが、冷たい口調で口を開く。
「仮にも我らは戦力を供給し、命を賭して敵と戦っていたというのに、こちらに何も言わずあんな化け物を放つ、このとんでもない裏切り。本来であれば怒り狂っても良いだろうが……今は、何も言わぬでおこう。何をするつもりだったのかは知らぬが、ゴジム様の命で、アンデッド対策を十全に行っておいて正解だった」
人工アンデッドが動かなくなったのは、彼らが矢に塗っていた、アンデッドに有効である『聖水』を特殊な方法で煮詰め、その効果を数倍に高めた、『神聖水』と名付けられた液体によるものである。
一瓶だけで最上級の回復薬である上級ポーション――エリクサーと同程度の費用が掛かっているそれは、アンデッドが制御を外れた時のためだったのか、それともこうなることを見越していたのか、悪魔族頭領ゴジムの命令で製造したものであった。
「ほざけッ!! 最初に攻撃を仕掛けて来たのは、貴様らのボスであるあの男だったぞ! 私は手を差し伸べた、この戦争を共にするのならば、大陸を平定した後の景色を見せてやれるであろうとなッ!!」
「その時のことは知らぬ。何故なら、見ておらんからな。ただ一つ言っておくと、今はまだ、ということだろう。いずれ我々が敵対するだろうことは、お互いにわかっていたはずだ」
以前ゴジムに向かって放った言葉と、同じようなことをデレウェスに言われ、シェンドラは激高した表情で叫ぶ。
「今まで何も気付かず、自分達のボスが殺されるのも防げなかった愚か者どもに、今更何が出来るッ! ――殺せッ!!」
そうして戦場から一つ離れた場所で、本来であれば味方同士であるはずの者達による、入り乱れた乱闘が開始する。
理性も大義もそこには存在せず、あるのは両者に募った怨恨のみ。
ただ相手が憎いと、同盟軍を相手にする時よりもさらに増した殺意で、互いに剣をぶつけ合い、魔法を放ち合い――。
「はい、じゃ、人間の皆さん、動かないでくださいねぇ」
――ス、とシェンドラの首筋に当てられる、剣の刃。
「なッ、その声は……ッ!!」
乱闘の最中、近衛兵達の守りをすり抜けていつの間にか彼の背後に立っていたのは――音無の暗殺者、ルノーギル。
「き、貴様ッ、心臓を潰して殺したはずだッ!!」
「フフフ、知らなかったようなので教えてあげますねぇ。魔族って、人間よりも身体が頑丈なんですよぉ。……ま、禁術も使用しましたが」
「陛下ッ!!」
「おっと、動かないように、といったはずですよぉ。早いところ、武装解除をしていただきたいですねぇ」
「クッ……!!」
近衛兵の中で隊長と思われる男が、人を殺せそうな程の視線でルノーギルを睨み付け、ギリィと血が出んばかりに歯を食い締めながら、味方に武器を捨てさせる。
そうして彼らが武装解除したところで、恨みの募った悪魔族達がかなり乱暴に近衛兵達を跪かせ、無力化していく。
「チッ……この謀ったかのようなタイミングの良さ、やはり裏で繋がっていた訳か」
「いいえ、敵同士であることに変わりはありませんよぉ。ですが、彼らは私達同盟軍よりも、味方であるはずの貴方達の方が憎いようでしてねぇ。故にこの直前に、少しだけお話ししまして」
「フン……元々敵である者よりも、味方の顔をして裏から刺して来る者の方が頭に来るのは、自明の理であろうよ」
ルノーギルの言葉に、デレウェスは吐き捨てるようにそう答える。
「クックッ、だそうですよ。――あぁ、そう言えば話が途中でしたねぇ。『分御霊』と言って、自らの魂を幾つかに分けることで一時的に死を回避するのですよぉ。復活の確率は三十パーセント程、そして代償に寿命の半分と一生分の魔力を奪われてしまいますが……いやぁ、土壇場で上手くいって良かったですねぇ」
「……なるほどな。『マップ』が反応しなかったのは、それが理由か」
迷宮が与える力の一つ、『マップ』は魔素及び魔力を参照して敵の位置情報を得ている。
敵の動向も、今の悪魔族達の奇襲も、全てこれで把握することが出来ていた。
だが、肉体からそれらが完全に失われたとなれば、当然ながらその位置は捕捉不可能となる。
「あぁ、その本は頂きますよぉ。貴方、魔王だそうですし、確か魔王は本やら石板やらを用いてダンジョンの力を使用するそうですからねぇ。――あの骨の怪物と戦っている、彼の邪魔はさせません。彼のような『英雄』ではなく、私のような一兵卒に、貴方は負けるのです」
ルノーギルはシェンドラが革紐で脇にぶら下げていた古めかしい本を回収すると、剣の柄で頸椎を殴って気絶させ、どこからともなく取り出したロープで手際良く拘束し、完全に身動きが取れないようにする。
そして、縛り上げた皇帝の身体を担ぎ上げると、悪魔族副官デレウェスの方にチラリと視線を送り、言葉を掛ける。
「……お行きなさい。私はその内容を知りませんが、我が主は、貴方達の頭からの密書を受け取っていた。だから、お行きなさい。あの怪物には、敵も味方も関係ないでしょうから」
「……ゴジム様がお亡くなりになられたのならば……我らは降伏する。あの王に伝えるが良い」
それ以上の言葉は交わさず、彼らは互いに背を向け、離れて行った。
戦争編は、後三話くらい。
ここまでで大体お気付きだと思いますが、今章の主人公はユキさんではありません。
彼を中心に話は進みますがね。




