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第5話 新しい靴。

「では今日は乗合馬車に乗って、街まで行ってみましょう」

そう先生に提案されている僕を見て、母がそわそわしている。


「先生、その…この子の足や杖が…人目を惹きませんでしょうか?」

「…そうですね。それはあり得ます。」

「でしたら…うちの馬車を出しますので…」

「でもお母様?アルバン様はこれから一人でどこにでも行くことになります。学院に入ってから本屋に行ったり、図書館に行ったりするたびに、お母様がご同行するおつもりですか?」

「……」


先生は相変わらず…眉一つ動かさない。

私はこの子を学院に行かせるために頼まれてきた、その使命感?というよりは…そう命じられたのでそれに沿って行動している、という感じだろうか。ある意味、真っすぐで気持ちいい。反面…先生個人の感情は読み切れない。



乗合馬車に乗って、先生に誘われて、下町の靴屋に行った。

先生は僕の歩調に合わせてくれているのか、ゆっくりだ。


「ジャンさん」

と、靴屋の主人に話しかけているところを見ると、以前からの知り合いのようだ。

「おや、先生。お久しぶりです!先生のおかげで、うちのバカ息子がまともになりましてね!急に仕事も真面目にやるようになったんですよ。」

ご夫婦そろって歓迎されている。バカ息子、と呼ばれた息子さんは納品に出かけているらしい。


「で、今日はどうされましたか?」


僕は杖に体重を預けながら、成り行きを見ていた。ご自分の靴でも注文に来たんだろうか?あまり無駄なことをしない人のようなので、僕の社会勉強の一環だろうか?


「今日は、この子の靴を作ってもらいたいと思いまして」

そう言われて…言われた僕本人が一番びっくりした。僕の靴はいつも母のなじみの靴屋で作っている。小さい頃は左足だけ踵が高い靴を履かされたこともある。足が押されて指が痛んだ覚えがある。


「ほう。足が?」

「ええ。」


僕は言われるままに椅子に座らせられると、靴を脱がされて、両足を裸足のまま測られた。左足はやはりほんの少し小さい。

次に、靴屋の主人に支えられて立って、左足の下に右足と同じ高さになるまで薄い板を何枚か重ねた。

「腰がね…でも今ならちょうど成長期だから間に合うかもな…」

そんなことをつぶやきながら、主人は僕の腰の高さを見ているらしい。


その主人の話によると…僕自身は、自分ではまっすぐに立っているつもりだったが、やはり微妙に骨盤がゆがんでいるらしい。しかも、左手で杖を使うので左肩が張っていて、体自体が傾きがちになっているそうだ。


「お坊ちゃまは来年の春に、学院に入学されるので」

先生が靴屋の主人がかがんで何やら僕の足を見ているところに話しかけている。

「そうですか。それまで靴に慣れて、両手が空くようになるといいですね。じゃあ、大急ぎですね。」

「そうなんです。学院が始まれば、荷物もあるでしょうから」

「うんうん。ただ、先生。初めのうちは腰やひざが痛くなりますよ?」

「そうなんですね?」

「ええ。使い慣れた体の使い方ができないので、慣れるまで、ですがね?」


ふむふむ、と先生が主人の話を聞いている。

「傷痍軍人の靴を作ったことがありますがね?体幹の改善には馬がいいらしいですよ?」

「…馬?乗馬ですか…。なるほど」



それから先生と僕は図書館に通い詰めて、文献を漁った。

フール国内の医学文献にはなかったが、ブリアの医学書に事例が載っていた。医学用の専門用語が多いので、辞書を片手に、だったが。

僕は初めの子だったので、母が大事にしてくれて、部屋には薄いカーテンが引かれっぱなしだった。文献によると…骨の形成に日に当たることはことのほか大事らしい。小さい頃、ベッドから落ちただけで骨折したのは…そう言うこともあったのかもしれないな。


「面白いですね、先生」

僕は夢中になった。自分自身のことなど、これ以上にもこれ以下にもならないと思っていた。静かに…片脚を引きずりながら、なんだかんだと母親に世話を焼かれて生きていくんだろうと思っていた。学院に通うのが最初で最後の自由じゃないのかとさえ思っていた。


もちろん両親は僕の足を心配して、国中の名医と呼ばれる人たちを呼んでくれた。

彼らは僕の脚のケガについての診断はするが…誰一人としてあの靴屋の主人の様に僕の体のゆがみや、体重の掛け方や…脚の長さを揃えるための靴の提案などはしなかった。



木型から作って、普通なら半年ほどかかるところを、仮り合わせをしながら、3か月ほどで仕上げてもらった。

僕の新しい靴。靴屋の主人に見守られながら椅子に座ってそっと足を入れる。



僕はデボラ先生に会って…人生が変わり始めた予感がした。


















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