ともだち
デボラ宛に手紙が届いた。
差出人は、前回家庭教師をしていたアンゼルム伯爵家の長男のアルバン。
春に無事に貴族用の学院に入学したと聞いた。学院は王都にあるのだから、わざわざ手紙じゃなくても、とは思うが、勉強のためにお互いブリア語で書こうと、そう約束したらしい。
アンジェリーヌは薄い緑色の綺麗な封筒を持って、デボラの部屋をノックする。
「デボラ、お手紙が着いてたわよ?」
旅行カバンに荷物を詰めていたデボラが、はい、と顔をあげた。
手紙を私から受け取ったデボラは、相変わらず表情一つ変えずに、机の引き出しからペーパーナイフを取り出して開けて読んでいる。
「アルバン君とお友達になったのね?」
にまにまして、彼女のベッドに腰を下ろして眺める。
「…ともだち?」
デボラは便せんから目を離して、私の顔をまじまじと見ている。あら?違うの?
「そうよ。」
「え、いえ。学院での近況報告が書かれていますが?」
「…そう。じゃあ、南部に行くことになったとお知らせしておかなくちゃね?郵便は仕事先に転送する?」
「……ええ。お願いします。」
あら?考え込んでしまったわ…。まあ、今は良いか。アンジェリーヌはそっと部屋を出る。
一年前になる。この子が靴屋の息子さんに勉強を教えていると聞いて、私は正直驚いた。自分のことも他人のことにも、ほとんど興味を持たないのかと、そう思っていたから。
「勉強を教えろ、と、言われましたので。」
デボラに聞いてみたら、そう答えた。自主的にと言うわけではなさそうだが、とてもいい前進のような気がした。
命令形で動く、というのが気にはなるが、アンジェリーヌはデボラに提案をしてみた。
「ねえ、デボラ?もうあなたも16歳になるんだから、働いてちょうだい。ちょうど家庭教師協会の試験があるから申し込んでおいたわ。いいわね?」
「はい。」
デボラはこうして派遣の家庭教師として仕事を始めた。
最初の仕事先のアンゼルム伯爵家からは、伯爵直々に感謝の手紙も頂いた。
…私としては…お友達が出来たのが嬉しい。デボラ本人はよくわからないようだが。
ほんの少しずつでもこの子の世界が広がっていけばいいと思う。




