モーリス伯爵家の姉妹。
「まあ、お座りになって、え、と、アンジェリーヌ様」
アルバン君の家の馬車に乗せてもらって、アンゼルム伯爵家におじゃましている。
デボラは…アルバン君と話をしているらしく、客間にこもっている。
靴屋のトマが呼びに来てくれて、私はやはりあの時、出ていくデボラを止めておけばよかったと、そんなことを考えながら走った。いつもそうだ。間に合わない。後になって、あの時…そう思う。
アルバン君の母君にお茶を勧められて、一息つく。
先ほど、あの男の暴言をこの方も聞いていた。うちの息子に近づけるなと言われるかもしれない。
今回は…間に合ったのか、間に合わなかったのか…。まあ、ダメだろう。
実は…アルバン君にはもうとっくにデボラの家の事情を話してある。お互いに…傷つかないように。ただ先生として慕ってくれているなら、それどまりにしてほしいと。
アンジェリーヌはため息を一つつく。
「モーリス伯爵家の姉妹は私たちの代では、有名でしたの。お綺麗で、賢くて、上品で。貴族の女の子の憧れでしたわ。」
「……」
「金髪に緑の瞳の、歴史あるモーリス伯爵家…。デボラ先生を見た時に、ひょっとしたらとは思っていたんです。あまりに完璧でしたし、貴族籍を名乗りませんでしたし。それに…面影が似ていらっしゃいましたもの。髪色は…あちらの家に似たんですのね?」
「……」
「私も夫も、もちろんアルバンも、とても信頼して大好きですのよ?デボラ先生のこと。」
「……」
「あの子ね、子供専門の医者を目指しているんですよ?子供の…怪我や病気だけでなく、心も治療できるようになりたいんですって。それを聞いた時、私は…母親としてできることはもうないのかと思いましたが…」
カップを置いたアルバン君の母君が、にっこりと笑った。
「あの子のことを信用して、送り出すことができますわ。あの子の選んだものを、私たちも大事にいたしますわ。ですから…」
「……」
「デボラ先生をこのまま、うちでお預かりできませんでしょうか?」




