第12話 お友達。
「うちの娘は…なんというか、自信が無くてねぇ…昔はそんなんでもなかったんですけどねぇ…。お兄ちゃん子で、うちの息子が甘やかしすぎたのかしら?息子が学院に通うようになってからああなんですよ。」
ナータン伯爵夫人は、ふうっとため息をつく。
「来年には社交界にデビューだというのに、引っ込み思案で…人前に立つ自信が無いと言い出しましてね?」
お茶のテーブルの向こう側に浅く腰を下ろしているのは、今回家庭教師協会から作法の先生にと頼んだ、デボラ先生。まだお若い。
お茶を飲むしぐさを観察させていただいたが、お上品だ。あまり高圧的な先生じゃなくてよかった、と夫人は思った。ますます娘が引きこもるようなことがあると困るし。
「…自信…でございますか…。」
先生はそうつぶやいて、ほんのちょっと首を傾げた。
***
ロゼールは朝からそわそわしていた。
今日から新しい作法の先生がいらっしゃるらしい。何度か立ったり座ったりして自分でも落ち着かないのがわかる。侍女は、今日もお似合いですよ?と言ってくれたが、自分の今着ているこのワンピースが似合っているとは思えない。髪型は?これで良いのかしら?
「ロゼール様、初めまして。デボラと申します。」
そう言って部屋に通されたのは、真っ黒のワンピースを上品に着こなしたこげ茶の髪の女性。年も近そうで、なんとなくロゼールはほっとする。
「は…初めまして。よろしくお願いいたします」
…黒のワンピースか…目立たなくていいかもしれない。あ、でも…私が着たら、お葬式帰りみたいだと笑われるかもしれない。
そんなことを考えながら、先生を見ると、微笑みのお手本のような笑みを浮かべていた。こうして、先生の授業が始まった。
先生は…声を荒げることもなく、淡々と、お勉強や礼儀作法やダンスまで幅広く教えてくださった。今までも先生はついていたので、おさらいのような感じだ。
「いいですね」
合間合間にそう先生が言って下さるのが、とてもうれしい。おべっかを言いそうな方ではないので。
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「明日のお茶会を見学させていただいてもよろしいですか?お嬢さまのお友達もいらっしゃるんですね?」
お母様が定期的に開く中庭でのお茶会の名簿を見ながら、先生がそう言ってきた。
「あ……ええ。」
そう返事はしたが…本当は私は出席したくない。
お母様が私のお友達に、と、ここ2.3年は同じ年位のご令嬢も招かれてくるようになった。みなさん…私と同じ年とは思えないほどお綺麗で…大人だ。テーブルは大人用と、少し離れて子供用に分かれている。これもいつものことだ。
当日。お母様が用意してくださったデイドレスを着る。淡いピンク。地味目にしてくださいねってお願いしたのに…派手じゃないかしら?
「お似合いですよ。」
侍女も先生も、そう言ってはくれるが…。
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「あらまあ、またあなたはそんな明るい色を着てるのね?」
いつも候爵家のエリーザ様が、私を心配してご忠告くださる。今日のエリーザ様は深紅のデイドレス。口紅も色を合わせていて、とても華やかだ。取り巻きのお嬢さんたちも、それぞれ着飾って、お綺麗。
「髪色がぼんやりした金髪なんだから、もっと地味目の色の方が似合いそう、って、エリーザ様がわざわざご忠告差し上げたって言うのにねぇ。いやあねえ」
「ボケボケした色で似合わないわあ…ご自分で分からないのかしら?」
「……」
「それに靴!また新しい靴を作ったんですのね?あなたねえ…いずれどこかに嫁いだ時に苦労するわよ?そんな贅沢三昧すると。」
「そうねえ、嫁ぎ先に嫌がられそうね」
「まあ、あなたみたいにどんくさい娘、貰って下さる方がいれば、ですけど?」
「……」
あははははっ、と私を囲んで笑い声が起こる。私は…泣きたくなるのをこらえて、薄っすらと笑った。
「ま、変な顔」
その私を見て、みんながまた笑う。
初めの頃は泣いてしまった。そうしたら皆さんに事情を聴いたお母様が…
「まあ、みなさんお友達として、あなたに助言をくださったんでしょう?感謝しなければね。」
そうおっしゃった。だから、それからは泣いていない。
エリーザ様のお茶会に招かれたときもこんな感じだ。いつも…私がエリーザ様を怒らせてしまうんだろう。回りのお友達も、同意見のようだし。
ロゼールは薄っすら笑みを浮かべたまま耐えた。皆さんのお話は今の流行の話とかに変わったようだ。黙ってその話を聞きながら…早くこのお茶会が終わればいいのに、とロゼールは祈った。




