お出かけ。
「あら?デボラ、お出かけなの?」
いつもと同じような黒のワンピースではあるが、今日は余所行き用の服を着た姪っ子を見て、今ほど仕事から帰ってきたアンジェリーヌが声をかける。靴も…デボラが今履いているのはエナメルのパンプスだ。
「はい。お友達と行くようにと、ライナー伯爵家のお嬢さまにオペラのチケットを貰って来たものですから。」
ふむふむ。お友達とは?
「アルバンがちょうど新年度の切り替え休暇で、靴を合わせに帰国しているので」
うん。なるほどね。
「じゃあ、帝国劇場でしょう?ドレスを着て行ったら?地味じゃないかしら?」
とてもとてもいい傾向だと思う。あのデボラが…外に出て働くこともすごいと思っていたけど、男の子とデート?
「……」
黙ってしまったデボラを、椅子に座らせる。
「まあ…いいか。せめて、髪は整えていきましょう。それが礼儀ですからね。」
おとなしく座ったデボラのいつもの三つ編みをほどいて、アンジェリーヌが櫛を入れる。
「そうねえ、あまり派手になり過ぎないように、」
デボラのこげ茶の髪を結い上げて、小さな髪飾りをつける。薄っすらと化粧をして、薄い桃色の口紅を塗る。手慣れたものである。されるがままになっているデボラも、そうされることに慣れているようだ。
「ほら、綺麗よ?」
鏡台に映るデボラは、年相応のお嬢さんに見える。化粧をしたので余計に表情が見えないが。
「はい。ありがとうございます。」
アンジェリーヌは急いで自分の部屋に戻ると、総レースのストールを持って戻る。
「まだ夜は冷えるといけないからね。」
そう言いながら、デボラに白いレースのストールを羽織らせる。
…うん。いいな。黒が映えておしゃれだわ。若者の特権ね。
本当ならイヤリングもネックレスもつけてあげたいところだが…まあ、急がないで行こう。アンジェリーヌはそう思いながら、すっかりきれいになったデボラを眺める。
「乗合馬車で行くの?」
「いえ、アルバンがお家の馬車を出してくださるそうです」
そんなことを話しているうちに、お迎えの馬車が玄関先に着いたようだ。
「じゃあ、楽しんでいらっしゃい」
私がそう言って軽く背中を押すと、デボラはほんの少し照れたように、ふわりと笑った。




