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死に戻りに飽きた悪役令嬢、ラスボスを煽ってみた  作者: 夢伽莉斗
Ⅰ章 王子との婚約、解消してくださ〜い☆
6/22

06|アタシに使われるなんてご褒美でしょ?♡

「ねえハニーラ、おねがい! 同じ亜人のよしみだと思って……」

「でもシェリン様、あの公爵様の魔法を覗くなんて私にはとっても……」


 アタシはぶんぶんと首を振る。


「だいじょーぶだいじょーぶ。パパ優しいから。それにもし何かあっても、ハニーラの話は絶対出さないよ? おねがい〜。アタシ魔法の勉強で、パパをあっと言わせたいの〜」

「私にできるかな……」

「できるよ。ハニーラも王様に認められた立派な亜人だよ? とってもかっこいいじゃん」


 彼女はてれてれと頭をかいている。

 早くしろって〜。アイツらが話しはじめちゃうだろうが。


「……うん。わかった」


 彼女はとうとう決心したように硬く唇を結んだ。アタシの目を見てこくりと頷くと、黒目をかっぴらいた。


 わ〜お。複眼ってこうなるんだ。


 蜂の亜人である彼女は〈複眼〉を持っている。無数の小さな粒が寄り固まってできた黒く大きな眼。意識すれば人間に近いくらいにまで黒目を小さくできるらしいけど、ふとした拍子に気が抜けると白眼が消えてしまうこともしばしばあるとか。

 そして、そんな不気味に見える複眼のせいもあって、彼女は他の令嬢たちに嫌われているのだ。


 吸血鬼も蜂人間も狼人間も、〈亜人〉という種族で一括りにされている。でもその先祖は同じ人間で、ただ瘴気に影響を受けて異能力を持っただけの者たちだ。

 だから本来は差別してはいけないことになっている。


 ハニーラの家系は、共に悪魔と戦い国に多大な貢献を与えた者として、侯爵という高い貴族称号をもらっている。つまり、それほど能力の高い亜人ってコト。


(ラムズも吸血鬼という亜人なんだけど、見てくれの良さと、〈魔の森〉の門番という重要な仕事、そして他の亜人と違って人外じみた身体的特徴がないから、人気が高いらしいよ〜。中身はドブ以下なのにね〜)


「ハニーラ! がんばれがんばれ〜」


 眼を見開いたまま、彼女は机に乗せた紙に少しずつ魔法の文字や模様を書いていく。


 そう──複眼の能力は、相手の魔法を〝視る〟ことができるのだ。コイツがどこまで頑張れるかは未知数だけど、今頼れるのは彼女しかいない。


 しかも複眼持ちは360度視界を確保することができ、わざわざ聖女とラムズのほうに顔を向けなくても、ラムズの盗聴防止魔法を視ることができるのだ。


 ──コイツが最後まで魔法式を書き写してくれれば、それをアタシが解いて……聖女とラムズの話の盗み聞きができる。



 そのとき、ハニーラは突然咳き込んだ。複眼の黒目に赤い筋が走っている。……充血してる?


「ハニーラ? 大丈夫?」

「公爵様の魔法……すっごく遠くて。本当に集中しないと読めないの。あともう少しなんだけど……」


 もうやめたい、目が痛い、そう訴えかけるように顔を向けられる。


 ──ここでやめられてたまるか。


 アタシは視線を伏せ、彼女が書いてくれた防御円の魔法絵を見た。


「ハニーラ……。そう……だよね。無理言っちゃったよね。ごめんねっ……。アタシの我儘で」

「そんなことないよ!? 私もシェリン様の役に立つのは嬉しい」

「……うん。でも、ハニーラ、目が充血してる」


 アタシは彼女の瞳に手を伸ばし、目元を擦った。それからそっと顔を背け、物憂げな表情で零した。


「パパはいつも注目の的でしょ。……でもアタシ、あんまり魔法が得意じゃないの。だから……頑張りたかった。でも、ハニーラを巻き込むことじゃ、なかった」


 アタシは膝の上で、ふるふると拳を握りしめた。優しいハニーラは、はっとしてアタシの拳の上に掌を重ねる。


「わかるよ。私もそうなの、お母様のほうが複眼能力が高くて……。だからいつも……」


 そうそう、コイツ、承認欲求拗らせてるっていうか、母親の能力だけでのし上がった家系で息苦しい思いをしてるんだよね〜。だからこれで効くはず☆

 彼女は胸をとんとんと叩いた。


「任せて! 大丈夫! あと少しだから、きっと頑張れる!」

「本当……? いいの……?」


 捨てられた子犬のような目で彼女を見つめると、思わずといったふうで目を泳がせた。ははん、耳まで赤くなってる。アタシって超美人でかわいいもんね♪


 それからハニーラは、もう一度意識を集中させた。途中、血涙が複眼の粒のあいだから零れ落ちていく。

 あ〜。また発破をかけないとダメかぁ?


 メイドたちには事前に「女同士のヒミツの話があるから♡」と言って少し離れてもらっていた。そしてアタシが用意した、音を誤魔化す魔術と空間を正しく認識できないようにする魔術の重ねがけをしているので、アタシたちの様子に訝しむことはない。


「ハニーラ……! 大好きだよ。頑張って……!」


 ハニーラは意志を固めているらしく、蜂女のプライドに懸けてとでもいうふうに、複眼を忙しなく蠢かせた。


 いいねいいね♪ どんどんアタシの役に立て♪




 彼女は最後まで集中力を欠くことなく、ついにラムズの魔法絵を書き切った。


「きゃー! ハニーラ! やった!」


 アタシは抱きついて最大限の感謝を彼女に示した。でもそのすぐあと、彼女の目元にハンカチを当て、心配そうな顔で血を拭い取る。


「血は大丈夫?」


 早く魔法式を解きたい。早くアイツらの盗聴しなきゃ。


「大丈夫だよ。ちょっとした副作用だから! 蜂蜜食べれば元気になる!」


 単純で助かる〜。アタシは馬鹿なフリをして蜂蜜を勧めつつ、彼女の書き上げた魔法絵に視線を落とした。


 ──これなら解ける。


 そしてやっぱり、今回のループでラムズが貸してくれた本にあった魔法式を含んでいた。……アレを見て、今回ならイケるかもとピンと来たのだ。


「シェリン様、あの魔法絵で……式が解けそう? お父様とお話できそう……?」

「んー! あれならきっと大丈夫。ハニーラが帰ったあと、本で調べながら頑張ってみる♪」


 彼女は「よかった」と健気に微笑んだ。

 それから彼女に魔法絵の紙に手を当ててもらい、アタシは呪文を唱えた。ハニーラの眼が一瞬真っ白になり、すとん、と意識が戻ってきた。


「あ。絵の記憶がなくなったみたい!」

「よかった。なにか問題になったら困るからね」


 記憶がなければ、ハニーラが仮に親から何か言われても情報を漏らすことはできない。余計なトラブルを防ぐためにも、この魔法絵に関する記憶は消させてもらうことになっていた。


 ……じゃ、ここからはアタシの仕事だ。




 アタシはハニーラとくだらないお喋りを続け、クッキーを食べて紅茶を勧めながらも、さっき脳に焼き付けた魔法絵を着々と脳内で解いていった。


 ──よし、解けた。


「ハニーラ。ちょっと身支度を整えてくるね」


 トイレに行ってくると伝えると、彼女は機嫌よく手を振った。


 アタシはメイドを連れていそいそと自室に戻ると、「別のドレスに着替えたくなってきた!」と言って衣装ダンスの中にひとり籠もった。

 ラムズの「盗聴防止魔法」に穴を開ける黒魔術を積み上げていく。必要な道具を揃え術式を書いた呪袋を作ると、足早に中庭へ戻った。



 アイツらが話しはじめて何分経った? ……三十七分か。

 見れば、まだ聖女と王子はにこやかにラムズの話に相槌を打っている。ふぅ、間に合った〜。このあと王子がアタシのほうに来て、聖女とラムズがふたりきりで話すことになっているのだ。


 彼らのテラス付近の花壇を練り歩き、ぼきぼき花の茎を折っていく。とっくにメイドはまいてある。

 二箇所に呪袋を隠した。それから、ハニーラのいる席に戻る。


「見て〜。ハニーラの好きな花を持ってきたの」

「え!? シェリン様、勝手に庭の花を折ったの!?」

「そーだよ〜。こんなのヘーキヘーキ。ハニーラへのお礼だよ」


 今しがたテキトウに詰んできた花で、彼女は目を輝かせて喜んでいる。……ガキだな。いや、蜂か。

 アタシはふふんっと笑って、またお喋りに花を咲かせはじめた。(蜂だしね)




 しばらくはどうでもいい王子と聖女とラムズの世間話が続いていた。途中でラムズが王子に「娘とも話してやってくれ」と促す。今はアタシが婚約者だからね、「父親として協力してるぞ」というフリのつもりなのだろう。


 ラムズに呼ばれて王子と挨拶をして、今度はハニーラとアタシと王子、三人でテーブルを囲みはじめる。二人の仲を取り持ちつつ、アタシの容姿を褒める王子をテキトウにいなしつつ、そして並行思考でパパと聖女の会話に耳を傾けた。


『ラムズ様、……やっぱり私たちの婚姻は難しいのですか?』


 こ、婚姻?


『そうだな……。俺は一年前に妻を亡くしたばかりだ。エンジェリーナのことは大切に思っているが、彼女への思いをすべて断ち切れたわけじゃない』


 ちょ、いきなり確信的な話してますけど。ハニーラほんとサンキュ〜。アタシはハニーラの紅茶に蜂蜜を注いであげた。


『そう……ですわよね。ごめんなさい、私……』


 いやほんとだよ。未亡人にナニ言ってんだこのアバズレ聖女。


『なにより、お前は王族に吸収されてしまうだろう? 大切な聖女だ、公爵家に嫁がせていいとは誰も言うまい』

『……悲しいですわ。私たちのあいだにはいくつもの壁があるんですのね』


 カワイソーで笑える。

 悲劇のヒロインよろしく、聖女が声を俯かせている。


『……俺もエンジェリーナと幸せになりたかった。本当だよ』


 痛ましく涙を堪えるような声だ。

 ──嘘つけ。「妻をまだ思ってる」とかって発言も大嘘だろ。……てゆーかママが死んだのはたった一年前かよ、興味なさすぎて知らなかった。


『ラムズ様。私、今貴方の手を少しでも触れられたらと……。近くにいるのに、こんなに遠いのですね』


 まったく、いかにもそんな声だ。たしかに公爵家の庭で、真昼間から手を握り合ってたら気持ち悪いもんね。


『……そうだな。そんな日を俺も夢に思うことがあるよ』


 ん、この感じだとコイツら、まだヤってないな?

 パパ〜。千歳を超える吸血鬼なんでしょ〜? なに純情ぶっちゃってんの?


『私はどうしたらいいのですか? どうしたら貴方と……どうしたら添い遂げることができるのですか……!?』


 はて。ここから婚約破棄の話を持ちだすのか……?


『エンジェリーナ。俺はお前に幸せになってほしいんだよ。俺を忘れて、幸せになってくれさえすればいいんだ。だからこれは……』


 ラムズは曖昧に言い淀んだ。はい、確信犯〜。


『方法があるんですね? ラムズ様。あるなら……教えてください。私、なんでもします。ラムズ様のためならなんでもできるのです』


 あーあ……。んなこと言っちゃって……。

 まあ、あんなふうに焦らされたら縋りたくなっちゃうよね? ラムズサマぞっこんの聖女サマなら。


『……エンジェリーナ。軽率にそんなこと言っちゃダメだよ、な?』


 甘く宥めるような声で包み込む。


『だがそこまで言うなら────』







シェリンちゃん、ラスボスのことを散々地の文でディスってますが、全部ブーメラン刺さってんぞ思いながら書いてます。主要キャラ全員カスです。

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悪役人外との歪愛を執筆しています




【書籍版】


『愛した人を殺しますか?――はい/いいえ』

海外児童書風ファンタジー。
boothにて販売中。

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― 新着の感想 ―
キャラも増えて面白くなってきた〜〜><
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