25|卵を孵すパパって…….
少し体が温まってきたかも。外はまだ吹雪いているみたいだ。
せっかくふたりで一緒にいるんだし、ツンツンしてないで情報を引き出すべきかな。
「パパ〜」
「ん?」
ラムズは寝台に腰掛け、毛布でぐるぐる巻きのアタシを見下ろした。
「寒い?」
「……寒いかも」
「もう他に布団がねえんだ」
「あっためて、パパ♡」
アタシがそう言うと、布団を捲り、一緒に入ろうとしてきた。慌てて毛布で包まれている腕を突き出す。
「なに勝手に入ろうとしてんだよ」
「お前が今あっためろって言ったんだろ」
ラムズは胡乱に目を細めた。
「娘の布団に入ってくんなカス」
全然なにもわかってないって綺麗な顔で首を傾げる。
「抱きしめたほうが効率いいだろ。というか、いつも一緒に寝てるだろ」
「今アタシ毛布一枚なの! 死ね!」
アタシはいいよ? 別に。でも衛兵が入ってきたら何かと面倒じゃん。
ほんとコイツって倫理観バグりすぎ。吸血鬼も先祖は人間とかほんとか? パパは人間やり直せ。
深いところの話ができないかと、寝台に腰掛けたラムズへ、試しに話題を振ってみる。
「アタシってさ、昔……ママに叩かれてたんだよね?」
「叩かれる前に俺が助けてたから、一度もないはずだ」
「守ってくれたの?」
「そりゃそうだろ」
「アタシのこと大事だったの?」
ふにっと頬を摘まれる。
「いつもそう言ってるだろ。シェリンがあんな女に叩かれていいわけがない」
ふむふむ、自分が殺すのはおっけーと。
「イザベラとリリンが死んでほんとによかった」
?????
どうした?
突然爆弾発言落としたぞ、コイツ。
「パパ……?」
「シェリンもそう思うだろ? 元々両方ともいらなかったんだ」
「ママはアタシを産むためだけに必要だったの?」
「それ以外ある?」
やば。
やっぱアタシコイツのこと好きかも♪ 徹底的に人を道具としか思ってないところが♪ まあ、アタシのことは愛してもらわないと困りますけど。
「リリンは何? ダメなの?」
「あいつがいたせいでシェリンが虐められたようなもんだし、本当に邪魔だった」
やば! ママの記憶の中ではリリンのことも大事にしてたふうだったのに。このアタシですら、平等に愛してるように見えたよ?
シェリンが死んだ直後の言葉だって、「シェリンだけでも生きててよかった」って言ってなかった? あれも嘘?
「リリンのこと嫌いだったの?」
「嫌いというか……ただどうでもよかっただけ」
「リリンも娘じゃん」
「娘じゃねえよ。勝手に生まれただけだ。ああ、知らないのか」
ラムズはアタシから視線を逸らし、あっさりと語りはじめる。
「俺は普通の吸血鬼と違うから、卵を作って孵すんだ。殻を作るために人間の血が必要で、あの女を連れてきた。まさか途中から、シェリンが人間の影響を受けてしまうとは思わなかったが──」
あの話、特別隠すようなことでもないのか。
「卵……?」
「俺が魔力を与えると大きくなって、卵を割ってシェリンが出てきた。だから俺の娘だろ?」
自分以外の要素はないよ、とかそういう話?
もう少し驚いておかないとおかしいかな。
「アタシ卵から産まれたんだ。変なの〜。パパが雛鳥みたいに温めてたってこと? キモ」
「はいはい。キモいな」
だんだん対応してきた……? やるなコイツ。
「卵を作るのに血が必要って……何をどうやってんのよ」
「んー。人間の血は殻の材料のひとつだ。初めに俺の骨などを砕いて溶かして、血を癒着剤として使うんだ。丸めて卵の形にして、その中にいろいろ……。俺の魔力や血肉を入れて、殻にも紋様を刻む」
なんか……前にアタシを「組み立てた人形」とか言ってたの、あながち嘘じゃなかったのか……。娘を人工錬成してんじゃん……。
「その卵に、おまえが毎日魔力をあげてたの?」
「ああ。他の人間が触れると魔力が濁るから、隠すのが大変だった」
ああ、だからイザベラは閉じ込められて、ろくに卵に触らせてもらえなかったんだ。まーそもそも「気持ち悪」って感じで触りたそうにはしてなかったけど。
「もしかして本気で雛鳥みたいに毎日一緒に卵と寝てたの?」
彼は胡乱に声を低めた。
「……俺をなんだと思ってんだ? そりゃ一緒に寝るだろ」
「は?」
いやいや、今の枕詞は否定するとこ!
するとラムズがくつくつ笑った。
「嘘。一緒には寝てない。自分の近くに置いておいて、毎日決まった時間に手をかざして魔力をあげてたかな」
なんなんだよ……。やっぱり嘘が見抜けない。
アタシは悪戯げに尋ねた。
「撫でたりした? アタシの鼓動を感じたり話しかけたりした?」
「ああ、そういうのはやった」
「…………それも嘘?」
「いや。人間の赤子は、腹の中にいるときも話しかけたり撫でたりするといいと聞いたから。俺の場合もそうかもしれないと思って」
なんだコイツ……。
父親の見本みたいな台詞吐くなとは思ってたけど、案外本気で育児本とか買い漁って試すタイプなのか。
「おまえが卵に話しかけてんの怖い」
「『早く大きくなれよ』って言ってたよ。聞こえなかった?」
「キモ!」
今のはさすがに嘘っぽかった。無難に宝石の美しさでも語りかけてたのか?
「本当はこんなにかわいがるつもりはなかったんだ。……でも、生まれたシェリンが俺によく似ていたし、宝飾品には興味を示さなかったから」
後半初めて聞いたけど。
「なにそれ」
「お前も宝飾品が好きだったら奪い合いになるだろ。その場合は母子共に死産だったと伝える予定だった」
「…………」
さり気なく新しい罪を告白しはじめた。自分の評価が下がっていくことになんの抵抗もないんだな、この男。
「カスだね」
「それくらい今のシェリンを愛してるってことだな」
ん、今そういう話してた?
「本当なら、アタシはパパの影響しか受けなかったの?」
「さあ、わからん。初めて作ったから。殻自体は人間の血を使っているから、多少影響が残ってしまったんだろう。それが事故のあとに作用して……本当に最悪だった」
うーん。ラムズとイザベラ、気合うね? ふたりして「こっちは自分の娘!」ってやってたんだ?
「なんで人間ぽくなるとダメなのよ」
「シェリンは俺の魔力だけで育ってるからかわいいんだ。あんな女の要素はいらない」
ふたりとも大丈夫? リリンとシェリン、こんな毒親ふたりに育てられてほんとカワイソ。
「でも一応ふたりで作ったんじゃん……?」
「だから殻だけだって。俺が卵を作って孵して、母乳の代わりに血を飲ませて育てたんだ。どう見ても俺だけの娘だろ」
……めちゃくちゃ拘るじゃん。しかもその殻に結局影響されてますし。
「……ねえ、じゃあ今のアタシはナニ? 体質としても人間の要素入っちゃってるじゃん」
今回死にかけたのも、人間みたいにヤワな体だからだ。
「まあ……」
彼の青い視線が落ちる。
「性格はシェリンに戻ってるから。いいよ」
不躾な言い方だ。絶対よくなさそう。本当はまだ魔力飲ませたいんだな、コイツ……。
けど前にシェリンが飲んで死にかけたんでしょ? 途中からは飲むたびに吐いたって記憶で見たよ。アタシは痛いのも苦しいのも嫌いだ。今はスルーしとこ。
アタシがベッドから起き上がると、パパが手を貸してくれた。一緒に隣に座る。
「じゃあリリンは? どうやってできたの?」
「イザベラが勝手に孕んで産んだ」
言い方。おまえ以外相手はいないみたいなイザベラの感情が流れてきたんですけど。
「俺はあの方法以外に子供はできねえんだ。浮気以外ありえない」
それじゃあ、別の男とデキた娘であるリリンを、コイツはあんなに優しく育ててあげたワケ……!? こんなクズなのに……!?
特にリリンが物心ついてからは、しょっちゅうイザベラと一緒に構ってあげてたみたいだった。リリンのほうが愛されてるなと思ったくらいだ。
「たしかパパ……リリンにも優しく勉強を教えてあげてたでしょ?」
「お前ばかり贔屓してたら、リリンが気に病んでお前に当たるだろ? イザベラを刺激したくもない。シェリンのために優しくしてたんだ」
嘘でしょ……?
イザベラの記憶だけじゃ、まったく補完できてなかったじゃん! この家族の機能不全具合、半分もわかってなかった。
リリンがラムズに懐いてからはそこそこ平和そうに見えたのに、この男はただただシェリンのためだけに永遠に演技してたのかよ……。『最近魔法を頑張ってて偉いな』みたいな、あの平和な会話も心の中は氷点下だったと。
イザベラですら「公爵は平等に扱ってるけど、それでもシェリンが目立ってて嫌!」くらいにしか思ってなかったのに。
「健全な家族になろうとしてたの?」
「そうだよ?」
ラムズは首を傾げ、銀髪をさらさらと流した。悪びれなく微笑む顔が逆に怖い。
パパは目を伏せ、どこか寂しげな声色で答えた。
「むしろ、シェリンがずっと怒ってたんだよ。お前は覚えてねえだろうが」
「……え? 教えて!」
シェリンの話は大事だ!
「お前が優秀なぶん、目をかけてやらないとリリンが気にすると思ったんだ。だから一緒にいる時間をできるかぎり増やしていた。……ただそれで、シェリンには我慢させてた。ごめんね」
頭を撫でられる。
んまー、たしかに、優秀な自分が放っておかれて、もだもだしてる子が母親にも父親にも構われていたら怒りたくもなるよね。
「シェリンはいい子だから、リリンやイザベラの前でも態度に出さなかった。……だから余計、お前が可哀想だったかもしれない」
ラムズの指がアタシの耳を擽る。そっと抱きしめられた。
「ごめんね。シェリン。俺が間違ってた」
「……覚えてないから……大丈夫だよ?」
「……そうだな」
パパが毛布越しに頭を撫でている。
んー。やっぱり、シェリンはパパとママに愛されなくて歪んじゃったんだろうなあ。いくらコイツが夜の時間を一緒に過ごしてたって、シェリンのためにリリンを構っているだけだと説明したって、たかたが10歳の子供でしょ?
せっかくリリンがいなくなって、愛されようといい子になったのに、最後はおまえに殺されるなんて……本当この男、クズ極まりないな。
「シェリンはずっといい子だ。かわいくていい子。俺のかわいいシェリン」
ま、結果的にアタシが愛されてるからいいけど♡
「本当はあんなやつに時間を割きたくなかった。殺せばよかった」
リリンのこと?
「なんで殺さなかったの?」
「貴族社会で、身内を殺すと噂になって面倒なんだ」
「でも結局ふたりとも死んだじゃん」
「まあ……」
ラムズは独り言のようにぼやいた。
「リリンを産んだ直後にイザベラを始末するべきだったな。シェリンだけ生き残ったと嘘をつくこともできたんだ。お前に母親が必要かと思って残しておいたんだが……無駄どころか害悪だった」
本当に後悔しているらしい。後悔の方向性がカスだけど。
「いらなかっただろ? あんなの」
「まあ?」
え? アタシもカス? アタシはいいの♡ 悪魔だから♡
「リリンも。妹がいて嬉しかったか?」
「んー。どうでもよかった」
知らないけど。アタシシェリンじゃないし。でもこう答えてほしいんでしょ? パパ♡
「そうだよな」
案の定、薄く表情を崩して頭を撫でている。単純なやつ。アタシは腕に抱きついた。
「パパだけいればいい♡ パパ大好き♡」
「演技なのわかってるからな?」
微笑で突っ込まれた。……はい、調子乗りました。
「じゃあ言わせてもらいますけど〜! ママやリリンを殺せばよかったなんて言うとか、サイテー! 父親の風上にも置けない!」
ラムズはアタシの腰を掴み、自分の膝に座らせた。頬をふにふにと摘まれる。
「シェリンのことは大好きなんだから、それでいいだろ?」
「え〜。その悪意がいつアタシに向かないか心配♪」
言い返されると思わなかったんだろう、ラムズは目を伏せ、誤魔化すように抱き寄せた。
「大丈夫だよ。大事にするから。……嫌なこともしない」
信用できそうでできなすぎる……。コイツも大概、自分のことしか考えてない。
「そんなこと暴露しなきゃよかったのに! アタシからの信用を失ってもよかったの?」
「……シェリンだけ愛してるって伝えたかった」
うわぁ……人を誑し込むやつのセリフ……。調子がいいというか……煙に巻くのが上手いというか……。
たしかに他のやつに対して、これ以上ないほどのクズ発言してるパパは、悪魔のアタシ的には高評価なんだよな〜……。
でも、そのふてくされたような甘え半分の声……演技だよね? アタシは騙されないからな? おまえと違って悪人の最上種、悪魔様だもん♡
「パパは、今だってもっと大事なものがあるでしょ? さっきも王族に捕まったらって──」
「んー……」
パパはアタシを抱き寄せ、首筋に顔を埋めた。
「…………そうだな、俺はいい父親じゃないよ。ごめんね」
まあまあ、反省したフリとかされなくても、おまえがクズなのはよくわかってますんで。別にいーよ、聖女や今の地位が大事でも。おまえ悪魔が認めるほど、超悪人だもん。
……あーあ。どうにかして、アタシがそこに取って代われたらいいのに。
作者コメント)
次の2話はまた溺愛回みたいな感じなので、あまり物語は動かないのですが……! 気楽な感じで読んでいただけたら嬉しいです。
こういうのに需要があるのかどうかわからないのですが、楽しんでくださる方がいるといいな……。ラムズやシェリンを気に入ってくださる方がいたら、とっても嬉しいです。
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