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12/18

12|婚約解消、成功だぜっ☆.

※残酷描写注意

 パパは本当にお願いを叶えてくれた。


 さっき氷漬けにした古民家へ、体を動けなくした人間を連れてくる。そのへんで歩いていた女にパパが魔法をかけたのだ。治安の悪い路地なだけあって、少しばかり肉付きが悪いけど、ガリガリとまではいかないので良しとしよう。


 アタシは囚われた女の膝に座り、首筋に噛み付いた。つぷりと皮膚を破ったあと、温かい血を口内に流し込む。舌を転がして、とろとろと喉を流れていく味わいに声が上擦る。


「美味し〜」

「ん゛ー! んっ、ん。んー!」


 口に回された布を噛みながら、女がもぞもぞと体を捻る。


「あははっ。カワイソ〜」


 れ、と首筋から垂れた血を舐め、逆側の首にも噛み付く。ほとんど齧り付くといっていいほど強く牙を突き立てて、血を吸い出し、肉を咀嚼した。


「ねーパパ。アタシ、血が美味しいならお肉も美味しいと思うの。食べてもいーい?」


 言い訳がすぎる。でも、これも許してくれたら──


「いいよ」


 ……感激するのが馬鹿らしいくらいあっさりなんだが?


「パパは食べないの?」

「ああ。別にいらない」


 アタシは近くの椅子に座っていた彼の腕を掴んだ。引っ張って床に下ろそうとする。


「やだ。一緒がいい。アタシにだけ食べさせて……それでアタシだけ罪を被せて捕まえるつもりなの?」


 ここまで来たらこっち側まで引きずり下ろす。


「は? なんでそうなるんだよ。んなことするわけねえだろ」


 彼は隣に来て、女の肩から腕を捥ぎ取った。くぐもった絶叫が劈き、アタシは女の首を絞めて声を止めた。


「うっさい。見つかんでしょ」

「周囲に音が漏れないようにしてるから大丈夫だ」


 さすが♪ 手馴れてんね♪


 ラムズは外した腕に唇を当てると、皮膚ごと肉を抉り齧った。唇に付いた血を舐め取り、眺めていたアタシに目を合わせた。


「……何?」

「んーん? パパといっしょ♡」


 これで共犯。ここまで来たら悪魔ともう変わんないじゃん。アタシのパパだ♪

 コイツの悪人ぶりがまたわかって嬉しい。人間でも人間を食べるやつって稀にいるし、そういう男なのかもな。


 彼は汚れていないほうの手でアタシの髪を撫でた。


「そうだよ。一緒だよ。かわいい俺のシェリン」

「えへ」



 アタシは女の目の縁に爪を入れると、ぐりくりも力を入れて眼球を取り外した。粘ついた液体を垂らしながら外れたそれを、口に放り入れる。歯で膜を噛むとじゅわりと血が広がって、潰れた目玉を呑み込んだ。


「美味しい! 甘〜い」


 ラムズは視線をすぃと手元に移した。


「手は? 食べたことねえだろ?」

「手? 指ってこと? 骨しかなさそうじゃん」

「美味しいよ」

「じゃあ食べてみる」


 女の指に舌を滑らせ、ぼきりと歯で砕いた。たしかに、クッキーみたいにぽろぽろ骨が崩れていくのが美味しいかも。お肉のいいアクセントになるっていうか。


「ねーね。心臓取って」


 アタシは魔法で腕力を強化することができないので、ラムズに頼んだ。アタシが膝から退くと、既に息絶えたらしい女の服を切り剥がし、胸部に手を突き入れる。重たい肋骨が割れる音がしたあと、取り出した心臓をアタシの掌にのせた。


「これもちょーだい♡」


 ラムズの手を掴み、指に舌を滑らせた。赤く濡れていた掌から少しづつ血を舐めとっていく。


「美味し?」

「んー」


 ラムズは汚れていない手でアタシの顎を掬うと、頬にそっと口づけた。それから、唇の端についていた血を舌で小さく舐めとる。

 びく、と体が反応して、アタシは目を瞬いた。


「舐めんなよ」

「シェリンも俺の指舐めたくせに」

「ん……まあ」


 アタシは自分の頬を少し指で擦った。


「……いっぱい汚れてる?」

「いや。そんなことないよ」


 死体は悲惨な状態だけど、ラムズは銀の貴公子みたいに綺麗なままだ。しいていうなら口の中が真っ赤。アタシもそーかも?


 アタシはラムズがくれた心臓を、はむはむと咀嚼していく。彼は片膝を立ててそれを見守り、途中で手を出してアタシの頭を撫でた。


「愉しそうだな」

「んー」

「よかったな」


 ふっと滲むような笑みを零し、アタシの膝に落ちていた肉の破片を口に入れた。


「吸血鬼って肉も美味しいんだね。また今度一緒に食べてくれる?」

「いいよ」


 血に塗れていないほうの手でアタシの頬をすりすりとなぞり、上体を傾けて額にキスを落とした。


「ほんとにかわいい。俺のシェリン」


 アタシはなんとなく額を手で抑える。


「人間食べてる娘がかわいいの?」

「俺と同じで嬉しい」


 ふーん?

 コイツが悪人だから、娘が悪人で嬉しいのか? 品行方正になったシェリンがやっぱり嫌だったのか。


「舐める?」


 ラムズは血に濡れた人差し指や親指を少し持ちあげた。アタシはこくんと頷き、彼の手を取って口に入れた。舌を少しずつ這わせて指を舐め、悪戯みたいに歯を突き立ててあどけなく笑った。

 指を外すと、パパのほうがアタシの手を取った。睫毛を伏せ、垂れていた鮮血を軽く掬い取る。冷たい舌のざらつきに、皮膚が粟立った。


「……パパ、」

「んー」


 頬に冷たい指を差し当て、唇の端や頬についた血をれ、と舐める。

 ぞわぞわするからやめてほしい。コイツ、吸血鬼だからか? スキンシップの仕方が人とズレすぎてんな。


「アタシもする」


 アタシは彼の胸に手を付くと、身を乗り出してラムズの唇の血を舌で撫でた。

 彼の青眼が止まり、無機質な視線が注がれる。


「……なにしてんの?」


 おまえと同じことだけど?


「唇に血ぃ付いてたから舐めた。パパもしたじゃん」

「……ああ、そう。唇も舐めていいんだ」


 ん?

 アタシの顎を掬い、細めた目線が近づく。冷たい舌が唇をなぞった。はっとしてパパの胸元を抑える。


「キスすんなよ」

「舐めただけ」


 アタシの真似ってこと? 対抗してんの? なんなの……負けず嫌い?

 自分の舌で上から舐め上げると、むっと唇を尖らせて死体のほうに向き直った。

 コイツ、ほんとに油断も隙もないな……。


 女の太腿を齧って肉を食み飲み込んだあと、ラムズがアタシの頬に手を伸ばした。汚れていたらしい血を指で拭いとる。


「舐めないの?」


 視線がわずかに細まり、声が低くなった。


「……さっき嫌がったじゃん」

「頬っぺは別にいい」

「……へえ」


 アタシの顎を掬うと、目尻にキスを落とし、それから頬を長い舌が這う。首筋や胸元にも血が落ちていたらしく、同じように唇を寄せて掬い取る。


「俺の唇は舐めるくせに、自分のはダメなの」

「ダメだよ。パパが娘にそんなことしちゃダメでしょ」

「…………わけわからん」


 わけわかんねーのはおまえだろ。人間のくせにスキンシップの方向性がおかしんだよ。でもアタシは悪魔だから何してもいーの。



 それから、アタシは思う存分人間を食べられて、上機嫌で死体を片付けた。悪魔がいちばん美味しいと思うのは人間なのだ。人間の食事やお菓子も悪くないけど、やっぱ生のお肉がいちばんイイ。

 

 あははっ。嬉しいな〜。(うつわ)の父親とはいえ、コイツがアタシみたいに悪いやつで♪

 普通の娘じゃなきゃ、こんなことして喜ぶはずがない。驚きもせず受け入れてんだから、ラムズは本当に、平気で人を殺したり食べたりできる最低な男なんだ。

 仮にアタシを騙すための演技だとしても、そのために人を殺してる時点で十分アウトだからね。合格点をやれる。




 それからタウンハウスに戻る帰り道、昂った心を冷やすようにアタシはずっと口を噤んでいた。パパも話しかけてはこない。

 なんとはなしに冷たい夜空を見上げる。


 令嬢らしく、パパに従順に、死なないように、疑われないように──そんな窮屈さを全部忘れて、ただ「アタシがしたいこと」をしていい夜なんて、初めてだった。


 逃亡生活中も、尾行されていないか、居場所が知られていないかと黒魔術で確認するのに必死で、こうして誰かを食べることは滅多になかった。黒魔術には準備も生贄も必要だ。魔力さえあれば無限に使える魔法とは違う。逃げて生き延びるのに必死だった以上、無駄なことに魔術は使えなかった。

 もちろん屋敷で生活しているループのときも、パパの領土の近くで人を襲えば、事件になって令嬢のフリができなくなるかもしれない。


 アタシはずっと、悪魔としての愉しみはあまり取ってこなかった。



 ……こんなことなら、こんなことなら。


 もっと早く今のアタシで生きればよかった。



 今までのループはアタシじゃない。シェリンだった。アタシはシェリンとして生きて、シェリンとして死んだのだ。だから仮にあのまま生き延びたとしても、〝アタシ〟の人生は生きられなかった。


 アタシも仮面を被るのは得意だし、演技をしたり嘘をついたりするのも好きだ。相手を騙して唆すのが好き。


 でも……人生のほぼすべてを他の誰かみたいに生きたって……そんなの意味なかったのに。生き延びることに必死でわかっていなかった。



 ほんとは野暮ったいドレスなんて着たくないし、パーティにも出かけたくない。家庭教師もマナー講師もいらない。


 こうして気ままに街に出かけて、好きなお菓子を食べ歩いて、お気に入りがあったらこっそり拝借して、楽しめそうな人間がいたら声をかけて、自分の姿をちやほやしてもらって──立場も監視も気にせずそうやって生きたかった。



「アタシずっと……我慢して生きてたの」


 暗い夜に似合う、低い声がそっと落ちた。


「そうだな」


 ラムズの腕を掴み、ぎゅっとそれにしがみついた。


「帰りたくない。ずっとこのままがいい」


 もし今日が何もかも彼の嘘で、一夜の夢と幻に消えるような儚いものだとしても……アタシはこの日が好きだ。今日をずっとループしたい。





 タウンハウスに着いた。アタシが「貴族が嫌だ!」と言ったせいなのか、その屋敷にはアタシの世話を焼く使用人はいなかった。

 まったく問題はない。さっき食べたばかりだから食事はいらないし、服も自分で着れる。


「じゃあシェリン、おやすみ」


 部屋の長椅子に座るアタシに声をかける。扉を閉め、出ていこうとした。


「ちょっと来て」


 冷たい響きで吐き出した声に、ラムズは淡々とした素振りで部屋に入ってきた。


「何?」

「……なんで今日褒めたの? また別の演技してんの?」


 今回のループでわかったことは、おそらく、直球でコイツと話したほうが大概上手くいくということだ。隠れてコソコソして殺されたループがあった以上、嫌なことは嫌だと言ったほうが意味がある気がする。


「別の演技ってなんだよ?」

「アタシが寝込む前、ずっとにこにこ笑ってたでしょ? 娘を愛するちゃんとした父親ですってフリで、ずっとアタシに接してたじゃん」


 アタシが転生する前は、ラムズがどうシェリンに接していたのか正確にはわからない。ただ、ループ中のコイツの偽の優しさは、きっともう少し前から起こっていたことのはずだ。


「……あれは。お前が……シェリンが変わったのかと思ったんだ」


 〝罪悪感〟の話か。


「だから?」

「あのときは確かに本音じゃなかった。……でも今日のは本心だ」


 ……ほんとか?


「じゃあなんで王子との婚約はナシにしてくれないの? このお出かけだって、ご機嫌取りのつもりでしょ?」


 ひとり窓のそばで立っていた彼が、アタシの隣に腰を落とした。くつくつと笑って首を傾げる。


「ご機嫌取りのために人を殺したと思ってんのか?」

「そーだよ? おまえならそれくらい気にしないでしょ?」

「……でも、俺が悪いやつだって知らなかったんだ?」

「え……ん、うん」


 〝シェリン〟が知ることはないはずだ。シェリンの前ではずっと理想的な父親像みたいに振る舞ってたし、コイツの本性はループで何度も殺されて初めてわかったことだ。それに実際、人を喰い殺せるほどイカれてるのは初めて知った。


「お前、やっぱり覚えてねえのか」


 ……え? え?

 アタシ今失言した?

 つまりシェリンはコイツの最低ぶりを知ってたってこと? 最初の人生も、わかってて殺されたの?


 アタシは目を伏せ、必死に思考を巡らせた。

 どうしよう、記憶がないのはセーフ? 悪魔が入ってるってことさえバレなきゃ大丈夫だよね? 記憶喪失自体は人間にもあることだもんね?


「記憶が……ところどころ、抜けてて」

「……もしかして、あの事故のときから?」

「事故?」

「それも覚えてねえのか」


 これは……もしかして。シェリンが変わったきっかけを知れるチャンス?


「もう大丈夫だよ。思い出さなくていい」

「……え?」

「何も思い出さないでくれ。そのままでいて。今のままのシェリンがいいんだ」


 ……そ、そっか。

 ラムズ的には、アタシが事故のことを思い出したら、〝罪悪感〟が戻ってきてまたアタシが貴族令嬢っぽいシェリンに戻っちゃうと思ってるんだ。


「大丈夫だよ。アタシもう変わんないよ? だから教えて。パパのことも」


 彼はただ静謐に眼を光らせたまま、そっと答えた。


「……教えたくない。自然に思い出すのは仕方なくても、またトラウマになるようなことはできない」

「でも、」


 彼は腕を伸ばし、アタシを抱きしめた。冷たい息が首筋にかかる。


「もう失いたくないんだ。変わってほしくない。シェリンのままでいてほしい。お願いだから……もういなくならないでくれ。ちゃんと俺の娘でいて」


 コイツは……本当にシェリンが好きだったのか?

 昔のシェリンが好きすぎるあまり、変わってしまった娘を受け入れられなくなってしまったのか?


「お前は罪悪感なんて感じなくていいんだ。お前は何も悪くない。シェリンは俺の子なんだから……罪悪感なんて感じなくてよかったのに」

「アタシも悪い子だから、罪悪感を感じなくていいってこと?」


 彼は体を離し、崩すように薄く笑った。


「そうだよ、」


 巻いてある髪に手を伸ばし、指を通していった。


「これも昔、俺がやってあげたんだ」


 ふーん。だからあの日も、突然変わったアタシの髪を触ってたんだ。

 小さく尋ねた。


「パパって呼ぶのも?」

「ああ。前はそう呼んでた。おまえが……『公爵令嬢として立派になるために、態度は改めなきゃ』って言ったんだ」

「それでお父様呼びになったの?」

「……ああ」


 シェリン、別に何も悪くなくない? まともに大人になろうとしててイイコじゃん。コイツが毒父なだけじゃん。

 ナニおまえ悲劇のヒロインぶってんだ……? やっぱクズだな。


「パパ、昔からアタシに罵倒されてたの?」


 ラムズはくつくつと笑った。


「いや? 前はもっと甘えたがりだったな。なんで反抗的なのかは知らねえが……かわいいからいいよ」


 ……そうなんだ?


「昔と違うところもあるのに、今のままでいてほしいの?」

「んー……うまく説明できねえが、とにかく事故のあとのシェリンは違ったんだ。今のシェリンは、すべてが同じじゃなくても俺の娘だ」


 自分の理想を押し付けてるとかではなく──本当にアタシの中に昔のシェリンを見出してるのか?


「お前が『おとーさま』って呼んだときも、違和感はあったんだ。……ただ、『パパ』って言われて、本当に戻ってきたような気になった」

「そーなの、」

「お前がお父様って呼びたいなら、それでもいいよ」


 え、別にアタシは全然そんなこと思ってない。


「おまえ様付けするほどすごいやつじゃないからやだ」

「はあ?」


 ラムズはくつくつと笑って額に口づけた。



 それから、雫を落とすような声でそっと言った。


「シェリン、もういいよ」


 顔をあげると、青い視線が重なった。


「王子との婚約は解消しよう。もう結婚しなくていい」

「……え、え? ほんと!?」

「ああ」


 アタシはがばっと抱きついて首筋に顔を埋めた。


「パパ大好き! 嬉しい! 大好き!」


 これって超イイ傾向じゃない? アタシが死ぬフラグ、ひとつ減ったよね? 少なくとも断罪されて牢にぶち込まれるルートはこれで消えたってことだ!


 もしかしてこのまま仲良くできれば、死亡ルート完全回避できたりする!? ラムズが腹の底に何を据えているのかわからないのが怖いけど、ヴォルガルもアタシが昔に戻ったって言ってたし……今のところ矛盾はない。


 彼はとんとんと背中を叩く。アタシが離れると、ふっと表情を崩した。


「今更都合のいいやつ」

「おまえが悪いんだもーん」


 舌をぺろっと見せる。


「そんなに嫌だったのか? 今後も誰とも結婚しないつもりか?」

「ん〜。んー。アタシ、今日みたいな日をずっと過ごしたいの」


 彼は目を瞬き、そっと抱き寄せた。低い声で唱える。


「俺もそうだよ。俺もシェリンが大好きだ。ほんとに大好き。どこにも行かないで」


 え、あ。ナニ。コイツ、カッコつけのクールイケメンじゃなく、めちゃくちゃストレートに愛情表現してくるタイプなんだ。

 ……普段あんだけ冷たかった男が「大好き」とか言ってると、温度差がえげつないな?


 ちなみに、これが聖女なら頬を赤らめて「トクンッ……」とかしてんのかもしんないけど、アタシは無風だ。悪魔に愛はないし、愛の感受器も持ってないから。しいていうなら、「本当に愛してるならアタシの言うことなんでも聞いてくれそ♡」って方向性の「ドクンッ」ならあるかも。


「パパが言うと嘘っぽい」

「……なんで」

「悪いやつだし、悪いことばっかり考えてるから」

「……これはほんとなのにな」


 アタシは彼から離れると、首を傾げて髪を揺らした。この際だからぶちまけよう。


「ねえパパ。これでもう、正規の手順を踏んで婚約解消するんだし、アタシは捕まらないよね?」

「まあ、多少噂は立つだろうが」

「パパはさ、あのときアタシに、何をしてもいいから聖女を蹴落せって言ったんでしょ?」

「………………」

「そんなことしたらアタシが捕まるじゃん。この貴族社会で干されて、王様に怒られて捕まるよ。そうなるのが嫌だったの」

「……そうだな」


 アタシはぐいと詰め寄った。


「ねえ、パパはアタシがそうなってもいいと思ってああ言ったの?」


 彼は誤魔化すように視線を横にずらし、目を細く伏せた。


「まあ……」

「はっきり言って」


 低い声で詰めると、彼が唇を動かした。


「……お前が罪悪感で苦しんでたのはわかってる。でも……どうしても、もう俺の娘だと思えなかったんだ」

「それで?」

「………………だから、まあ」


 言葉の歯切れが悪い。


「別に捕まってもいいやって思ったの?」


 彼は髪を揺らして首を傾げた。目元に甘い嗤笑が滲む。


「俺は悪いやつなんでね」


 コイツ……。開き直りやがった。


「それで……今のアタシは悪い子だから、大好きなの?」

「そうだよ」

「なんで悪い子が好きなの?」

「俺が悪いやつだから。いい子になったら娘だと思えない」


 ねえ人間、聞いてる?

 優秀な子しか愛せない親は噂に聞くけど、悪い子じゃないと愛せないなんて父親、この悪魔のアタシでも初めて聞いたよ? 


「パパってクズだね!」

「お前もクズだろ? だから使用人たらし込んで好き勝手やってるんだろうが」

「性格が変わっただけで娘を嫌うパパのほうがクズだと思う!」

「今日人間喰いたいって言ったの誰だよ? 人殺しのほうが罪が重いぜ?」


 おまえは実際娘殺してんだろーが。


「いいだろ、シェリンも俺がパパで。おまえもクズなんだから。一緒に悪さできてよかっただろ?」


 彼は首を傾げて意地悪く目を歪ませた。

 ……ああ、なんか。やっと本当のコイツと話せてる気がする。





 そのあとしばらくふたりでどうでもいい話をして、おやすみを言った。アイツはアタシが寝る前にまた額へキスをしてきて、ホームドラマに憧れてんの?って思わずツッコミそうになった。



 今回で大分、アタシにとって都合のいい形に収まった。


 でもだからこそ、過去についてはやっぱり探らせてもらう。


 彼の話が本当なら、コイツは「昔のシェリン」にやたら固執していることになる。昔のシェリンに執着していたからこそ、いい子になったシェリンを殺したと言っても過言じゃない。


 ……そうなると、ループのことやアタシのことは知られるべきじゃないのだ。

 ──アタシがシェリンじゃないということは。




ラムズがクズなことには変わりないのですが、現時点でまだ半分も真相が出ていないので、最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。ふたりの関係性の捉え方等は、最後まで決定できないところかなと思います。


もし「○○なら続きが読めないかも…」みたいな方がいましたら、以下のフォームより質問いただいても大丈夫です! なろうの活動報告でお返事してます。


https://herrealmyth.studio.site/thoughts

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普通の感想もお待ちしてます! 一言でも長文でも美味しくいただくタイプです。設定間違いとか解釈違いかもとかも全然お気になさらず、現時点で思うことを気楽にお好きに語っていただけたら嬉しいです⟡.·

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悪役人外との歪愛を執筆しています




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『愛した人を殺しますか?――はい/いいえ』

海外児童書風ファンタジー。
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