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16話 砂糖を作ろう!



 ピーガ達の器用な鎌使いで刈られた稲が大量に食糧庫へと担ぎ込まれ、果てがないと思われた収穫作業は恙無く終わりを告げた。


 続いてサトウキビの加工に着手したいのだけど、液体を搾り出す圧搾機がこの屋敷にあると思えないので、なにかしらの手段を用いる必要がある。とはいえかなり硬くてわたしがハンマーで叩いても限界があるため、相当な力を掛けられる方法を考えたい。


 そうして代わりとなる道具を探していると、お駄賃として与えたサトウキビをバリっている(好きなのかな?)ピーガ達が目に映った。


「ついでと言ったらなんだけど、サトウキビの加工も手伝ってもらえないかな?」


 純粋な眼でバリっている彼らにも正式に割り当てられた仕事があるのはわかっている。この収穫を手伝ってくれたのも成り行きでしかないのだ。


 しかしかつて見た資料からも意外と重労働になるだろうから、目の前にある戦力はぜひとも確保しておきたい。ダメ元でお願いだけでも……


「このあとサトウキビを潰して液体を集めたいから、あなた達の力を借りたいの。もちろん報酬は用意するから、お願いできないかな?」


「……ほうしゅう?」


「うん。なにかほしいモノとかない?」


「……めし、食いたい。腹一杯」


 お腹いっぱいの食事をしたいと。それなら町で仕入れた調味料とここで作る砂糖があれば、きっとピーガ達が満足できる料理が作れるはず。その先にあるわたしの目標とも通じるし、願ったり叶ったりじゃない。


「わかった。今までにないとっておきの料理を振る舞ってあげるね!」



 そうと決まれば加工開始だ。



 鬼魔獣が手伝ってくれるなら圧搾する方法は簡単。そこらの適当な岩を持ってきてもらってサトウキビをプレスすればいい。


「それじゃあ、森に行って手頃な岩を持ってきてくれるかな」


 逞しい背中が畑を越え、森へと消えていく。


「彼らの仕事は屋敷の修復だから、岩を綺麗にすることも容易いわよぉ~」


 鬼魔獣は整地から建築までなんでもござれの大工さん。その大きな体躯で岩を穿ち、木を蹴り倒し、釘をねじ込んで、なんでも製作できるらしい。


 そんな頼もしすぎる戦力に胸を踊らせていると、彼らが向かった森から地響きが轟いてきた。


 木々が震え、鳥が飛び立ち、獣が嘶く。わたしを飲み込んだ音の津波が去ると、その木陰から3人の鬼が何事もなかったかのように戻ってきた。……自分の背丈を超える岩を担いで。


「手頃とは、いったい……」


「彼らと価値観を摺り合わせるのは難しいから、もっと具体的な指示を出してあげなくちゃ」


「気をつけないと屋敷を壊されるかもね」


 急いで岩を戻してくるように注意し、念のために付き添いながら改めて具体的な寸法にカットしてもらった。見上げている岩がチョップ一撃で分断されていくのは圧巻の一言で、ちょうど良い大きさになった岩が6つ食糧庫の一角に並べられる。


「1つを土台にして、もう1つで上からサトウキビをプレスしていく感じね。あとは上手く液体を回収したいから――って、待って!」


 サトウキビ、粉砕。それは搾り出されるどころか液体ごと飛び散ってしまい、周りを囲んでいたわたし達へと降り注いだ。……ぺろり、おいしい。


「潰れた。これでいいか?」


「潰せばいいってものじゃなくて……、説明は最後まで聞いてね……」


「おれ、説明にがて」


 苦手でもなんでも聞いてもらわなければ、せっかくの収穫が台無しになる。


「わたしが懇切丁寧に1つずつ説明してあげるから、ゆっくり覚えていけば大丈夫よ」


「……………………わかった、たぶん」


 そこまで悩むほど難しくないのだけど。


「まずは体験してみましょうか」


 岩を持ち上げて程よい速度でプレスしていくと、サトウキビの液体は飛び散ることもなく搾り出されていく。ピーガ達も一通りの工程をこなしてすぐに慣れてくれたのか、どんどん液体を量産してくれた。


「ありがとう、とりあえずこれくらいでいいと思うわ。次は確か、不純物を取り除きながら煮詰めていくのよね……」


「ぺろぺろ。それなら、リス魔獣のキッチンを借りればいいニャ。ぺろぺろ」


 リス魔獣……、ですって……!?


「屋敷の食事は全てリス魔獣の管轄ニャから、キッチンに直接行けば会え――」


「みんな、あとは料理ができるのを待っててちょうだいね。さあ、ビン詰めした液体を持ってリス魔獣に会いに行くわよ!」


 まっててね~、わたしの可愛いリス魔獣ちゃ~ん。


「可愛いとは言ってないニャけど、まあいいかニャ」





 食糧庫から続く回廊を離れてしばらく歩くと、昼食時を迎えるキッチンの食欲をそそる香りが漂ってきた。


「いい香り。この先にキッチンがあるのね」


「そうニャけど、仕事中のやつらは気性が荒いから気をつけるニャよ」


 忠告してくれたニアが身構えるなかキッチンの扉が開かれる。野性が際立つ香りや油が奏でる賑やかな音が溢れ出すそこには、「気性が荒いリスなんて微笑ましくて可愛いじゃん」と思っていたわたしの考えが裏切られる光景が広がっていた。


「ぐも、ぐめ、盛りつけが遅いぞ!」


「すみません!」


 調理場を飛び交う多種の皿。食器棚から次々とフリスビーのように投げられる皿に小さなリス達が全身を駆使して料理を盛りつけていくが、飛翔している皿には絶妙な力学が働いているのか盛りつけ1つも零さずにキッチンワゴンへと着地している。


 あっぱれ、見事な連携プレーだ。


「プレートリレーはテンポが全てなんだ! 1人の遅れが場を乱すことを忘れんじゃねえ!」


「「「あいさ! ぐよ料理長!」」」



 なんだろうか、このキッチンは。



「職人だ。リスの職人がここにいるよ……」



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