13話 農民の魔女っ子は聖女です?
「止まりなさいと言ったけど、もう止まってくれたみたいだからそれはいいわ。……次はどうしてこの娘を追いかけていたのか説明してちょうだい」
町からトラブルが報告されたのなら、為政者はまず双方の言い分を聞かなくてはならない。たとえ些細な問題であっても、民衆に不満を抱かせないように努めることが為政者の責務なのだ。
そう思っていつものように対処をしていると、何が可笑しかったのか2人はお腹を押さえる。
「ダハハ、こいつ、なんのつもりだよ……」
「そのなりで役人ごっことか、イタすぎるぜ……」
むむ、なんかバカにされているような。どうしてかと首を傾げていると、背後に隠れる女の子がトドメの一言をくれた。
「お姉さん……、大丈夫……?」
「そ、それはどういう意味で……」
頭なの!? 頭の心配をされたの!?
いや違う。女の子の茶色い瞳はこんなにも純真な輝きを宿しているのに、そんなことを言うはずがない。きっと「頼もしいお姉さん、あんな大男2人を相手にしても大丈夫なの? ステキ、カッコイイ」という意味のはずだ。そうに決まっている。
まあ、今の格好はザ・農民スタイルだし、心配になるのも仕方ないよね。でも、わたしだって『元』貴族だったわけだから、これくらいの対処には慣れているのだ。
貴族社会から離れたくせに、ここで貴族っぽく振る舞うのも違う気がするけど、やはりトラブルと知って見過ごすことはできない。
「あなた達が答えてくれないのなら女の子に聞こうかしら。なにがあったのか、話してくれる?」
「う、うん……。この人がお父さんと商人さんの話を盗み聞きしてたから、気になって路地裏まで後をつけたの。そしたらもう1人と合流して「襲う」とか言ってたから、ビックリしちゃって……」
「見つかっちゃったのね」
頷いた女の子は再びわたしの後ろに隠れてしまう。
先程の話だけでは判断しづらいけど、襲うという言葉があったのなら、盗み聞いていたのは商人の行商ルートだろうか。あらかじめ集めた情報をもとに街道で待ち伏せをして、予定通りに現れた荷馬車を次々に襲うと。
だとすればこの2人は盗賊の一味か、酷くて通商破壊を目論む組織なんてこともありえる……。
「てめぇ! 余計なことを喋ってんじゃねえ!」
「くそっ、これ以上はまずい。口封じするぞ!!」
口封じか、だとすれば後者の可能性が高いのかな。なんて考えている場合ではなく、男たちは懐から抜き放ったナイフをわたし達に向けてくる。
その緊迫した状況を目撃したギャラリーからは悲鳴が上がっているが、当事者であるはずのわたしは不思議と言葉が出てこなかった。
気絶しそうなくらいにビビっているからである。
どうしよう、話し合いで解決できるはずだったのに、まさかの武力行使とか。暴力反対、安全第一。
「お、お姉さん!」
「だ、だだだ大丈夫。わたしがなんとかああぁ……」
怖じ気づいていてはいけない。いまこそわたしの護身術が真価を発揮するときだ! お皿、茶器、パラソル。身の回りのあらゆる令嬢道具を武器とする、お茶会拳法! あちょ~っ!
「麦わら帽子! 軍手! カマ! くらえ!」
「なんか3つ目あぶねえな!?」
「しまった! 鎌は持っておくべきだった!」
手当たり次第に投げまくったわたしは手元になにも無くなってしまった。これでは逃げるために相手を怯ませることもできない。
そう判断したのは相手も同じで、ゆっくりと心をいたぶるように近づいてくる。距離が縮まるごとに胸の早鐘が激しくなり、体内を血が駆け巡っているのがわかった。
「な、なにか投げられるモノ……、なにか……、あれ?」
ポケットやベルトを探るかな、ガシッと、手のひらから確かな感覚が伝わってきた。……なんでもいい。とにかく投げちゃえ!
「えいや!」
目一杯の力を込めて投げつけた『モノ』は、半透明の球体となって男の1人に直撃する。鈍い音を鳴らしたそれは光の粒子に砕け散り、宙に消えた。
「なに……、いまの……」
口から突いて出た言葉に導かれて手のひらを見やると、半透明の粒子が雪のように零れ落ちている。不可思議な現象を前にしたわたしはなぜか「だだ漏れじゃん、もったいないよ」などと粒子を掬い、両手でこね始めていた。
だだ漏れ……、まさか、これって……
「わたしの魔力なの……?」
とりあえず零れ落ちないように固めてできた半透明の球体は、わたしの驚きを反映して脈打っている。その波長は球体に留まらず、わたしの全身から感じられるものだった。
体の中を駆け巡っているもの……、そうなんだ、これが、魔力……。
瞳を閉じれば確かにわかるだだ漏れぶり。リーフェアが呆れるのも頷ける醜態だ。外側へと放出された細部にまで意識を集中すると、魔力の流れから辺りの環境が伝わってくる。暖かい日差し、周りの喧騒、
そして、迫り来る敵も。
敵の接近を認識したわたしは、相手の足下に流れている魔力へとイメージをぶつけた。
「打ち上げちゃえ!」
拙いイメージを受信した魔力がその姿を現し、半透明の山となって男を宙に打ち上げる。その時点で意識を失ったのか、男は受け身も取れずに仲間の懐へ落下した。
静まり返る通路には、白眼を剥いた男が2人。
「おお、もしかして勝った?」
いやいや、まだ相手の1人は(呻いてるけど)意識があるし、どこからともなく新たな敵が出てくるかもしれない。油断はしない、貴族社会で嫌というほどに叩き込まれた教訓だ。
予期せぬ事態を警戒するわたしは、魔力を派手に煌めかせながら辺りを威嚇する。あちょ~っ!
それをどう捉えたのか、一連の顛末を見届けたギャラリーから拍手と歓声が沸き上がってきた。
「ブラボー!」
「お嬢ちゃん、やるねぇ!」
「いいもん見せてもらったよ!」
日頃から娯楽に飢えているのか町の人たちが続々と言葉を掛けてくれるので、わたしは調子に乗ってさらに魔力パフォーマンスをする。キラキラキラ~、サラサラサラ~。
「おお、我らへ祝福をくださっておる」
「ありがたや~、ありがたや~」
「よ! 聖女さま!」
……ん? なんかちがくない?
「町長、こちらが――」
「……見ればわかる」
「ネコを連れているので、おそらく魔女っ子かと」
あれれ?
「そこの……、祝福を振りまいている君。馬車を用意するから、我が屋敷で、もてなしをさせてくれないだろうか」
え、馬車? もてなし?
なんのこっちゃい!?




