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11話 町に行ってみたい!



 翌日。筋肉痛。おつ。



「さあ、今日はフェリクス様にいろいろと許可をもらわないと。まずは野菜のことを相談して、ついでに魔法の訓練なんかも……」


「そうしたいのなら、まずはベッドから起きるニャン」





 足腰に鞭を打ちながらも用意を済ませたわたしは、さっそくフェリクスの部屋の前にやってきた。この扉を見ると初日の惨事を思い出して身構えてしまうが、踏み出さないと何も始まらない。……今日は大丈夫だよね?


「すんすん……、どう、ニアちゃん」


「すんすん……、今日は……、マシかニャ?」


 なんとも曖昧だけど、そもそも猫魔獣の嗅覚とも比較できないのでマシという評価を信じて扉を開く。あら、ほとんど臭わないわね。初日に比べれば無臭と言ってもいい。……ニアは鼻を閉じてるけど。


「おじゃましま~す……」


「ニャゥ……」


 部屋に入ると白衣を着た金髪イケメンの背中が出迎えてくれた。見た目『だけ』は完璧なのだけど、相変わらず研究に夢中なのか返事はしてくれないし、わたし達の気配に気づく素振りもない。


 フラスコを注意深く揺らしているなか邪魔するのもあれだけど、待っていても話にならないとわかっているので遠慮なく声を掛けていく。


「フェリクス様。ご相談が――」


「あとで」


 早いな……。けど、ここで引いてはならぬ。


「収穫したお野菜を『町で売りたい』と思うのですが、外出許可をいただきたく――」


「何か用があるならニアに聞いてくれ。あとは勝手にすればいいと言ったはずだ」


 聞く耳持たず。フェリクスは研究に集中したいのか、煩わしそうに手を振っている。勝手にすればいいと言われても……、ほんとに勝手にしちゃいますよ?


「わかりました。……ではついでに、魔法の使い方を研究してもよろしいですかね?」


「ああ、研究はいいことだ。研究とは己を見つめることであると同時に己を高め――」


「許可をいただきました~! それではここで失礼しますね~」


 ――ガチャリ。やた、これで魔法を使えるぞ! むふふ。


「私のように研究を続けていれば――って、いないし。……なんの話をしていたのだっけ?」





 町に出る許可を貰ったので、ニアとは食糧庫で待ち合わせることにして私室へ荷物を取りに戻る。この屋敷周辺の地理がわからないけど、辺りの森を見れば人里までかなり離れているのだろうから、しっかりと長旅の準備を整えねば。


「着替えは入れた、タオルもある、おやつはないけど、水筒があれば大丈夫よね」



 動きやすいオーバーオールと麦わら帽子を被って、これでよし。大きなリュックを背負って食糧庫へ行こう!



 この重装備で螺旋階段なんて降りられないので、きちんと整備された回廊を通って食糧庫の扉を開けた。


 明かりは点いているのか広い倉庫には山積みにされた野菜たちが輝いているけど、そこに添えられるようにして横たわるネコは、自分は退屈だとアピールするように欠伸を見せびらかしている。


「……遅すぎるニャ」


「ごめんごめん。ちょっと準備に手間取っちゃって。……で、ニアちゃんの荷物はどこにあるのかな?」


 食糧庫を見渡してもニアの荷物が見当たらない。それどころか、どっこいしょと立ち上がったニアは何も身に纏っていなかった。スッポンポンである。


 春先の森はまだまだ冷えるだろうけど、自前の毛皮があるから大丈夫なのかもしれない。わたしがそんな風に1人で納得していると、今度はニアが何かに思い当たったように頷いた。


「ああ、この屋敷からは『扉1つ』で町に行けるのニャよ」


「扉1つで町に行けるって……、もしかして、それも魔法なの?」


「そうだニャン。空間歪曲扉、フェリクス様は便宜上『ワープ扉』と呼んでいるニャ」


 空間を歪曲させる魔法は古代の賢者によって編み出されたのだが、消費魔力や安定性などに多くの問題を抱えていたらしく、それを扉とすることで実用化させたのがフェリクスなのだそう。あらかじめ共鳴させておいた扉同士でしか行き来できないとか説明されたけど、ほとんどチンプンカンプンなので理解はできなかった。


「つまり、町に行くためにリュックは必要なかったのね」


「言うのを忘れてたみたいだニャン。……ニャヘ」


 ニャヘはカワイイけど、気軽に出掛けるだけで重装備をしてきたわたしっていったい……。





 リュックを捨て、町で売ってもいい野菜たちをリアカーに乗せて、わたし達はワープ扉がある部屋にやってきた。その室内は調度品はおろか絨毯すら敷かれておらず、岩のレンガが剥き出しに並んだ壁には金の縁取りがされた扉だけが設置されている。


 さて、取っ手のない扉をどうやって開こうか。魔法の扉というのだから魔力に反応するはずだと念を送ってみると、なんだかわたしの中を廻る存在を感じる……、ような気がする。


 そうして1人で指をうねうねしていると、リアカーを漁っていたニアが扉と同じ装飾がされた首飾りを渡してきた。


「ワープ扉はこの首飾りを持つ者にしか通れないのニャ。手が塞がっていても通れるようにするなんて、フェリクス様の閃きは素晴らしいニャね~」


「王家の刺客に追われていても扉に飛び込むだけで逃げられるだなんて、フェリクス様の危機管理は素晴らしいわね~」


 さすがフェリクスは徹底している。この扉を作った理由も想像に難くない。


「扉は町にある建物に繋がってるから、先に行って待っていろニャ」


「それじゃあさっそく……」


 ワープ扉に手を触れると、抵抗もなくわたしの腕が『向こう側』へ貫通した。まるでその先が切り離されたかのような接触面は、先程まで曖昧にしか感じられなかったわたしの中の存在を確かに描き廻しているのがわかる。


 もしかして、これが魔力なのだろうか。


 あまりの驚きに引っ込めた腕を確認してみるが、なんの変化も感じられなくなっている。もう少しで何かを掴めそうな気がするものの、いまは練習をしている場合じゃないと思考を切り替えて扉の向こうへ飛び込んだ。



「……? ……部屋だ」



 扉を抜けると、そこは部屋でした。薄暗さと埃の積もり具合からは屋敷なのではと思ってしまうけれど、建材の質が異なっているので、言っていたように町にある建物の中なのだろう。


「ニアちゃん、本当に町なの――げはあっ!?」


「いつまでも扉の前に立ってるんじゃニャーよ。リアカーが通れないニャ」


 お尻を轢かれて四肢を突くわたしをよそに、ニアはリアカーを押して入ってきた。


「ここは元々、高級指向の食堂だったらしいニャけど、空き家になってたから確保したのニャ。ワープ扉も1度は現地まで運ばないといけなかったから、苦労したニャよ」


 ニアは門番の監視を抜けたときの話や、建物の購入手続きをするためにヒトに変装する難しさを熱弁している。


 ……でもね、まずは地面に伏せっているわたしを助けてほしいの。お尻が痛いのよぉ。



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