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10話 収穫フィーバー?



 賢者の屋敷にお世話になってから1週間が過ぎようとしていた。ご主人が研究畑だったり人の言葉を話す魔物が働いていたりと驚きもたくさんあったけど、みんな良い人たちだからすぐに打ち解けることができたし、わたしもこの生活に慣れてきたような気がする。



 さて、1週間が経ったということは、いよいよ収穫のときが来たということだ。



「よーし! 今日もがんばるぞー!」


「朝からうるさいやつだニャ……」


 カーテンを開いて気合いを入れていると、いつものようにニアが扉から声を掛けてくる。このやりとりも今日で8回目だから、お馴染みになってきたのかな。


「ボクがカワイイからって毎日ニヤニヤするんじゃニャイ」


「乙女の朝に現れるからよ」


「自分で乙女って言うのもどうかと思うけどニャ……」


「お互い様ね。……ふふ」


「お互い様かニャ。……へへ」


 ニアちゃんとも軽口を交わせるくらいには仲良くなれたのである。……あとは『もふもふ権』さえ与えてくれたらなぁ。


「顔色もよくなってきたニャね。……よかったニャン」





 朝食を済ませたらさっそく畑へ向かう。埃が積もった廊下は未だに清掃される気配がないけど、侍女ウサギたちには関心がないのだろうか。屋敷自体のポテンシャルが高いのだから、ここもキレイにしたらきっと化けると思うのにもったいない。


 わたしが手を加えるならどんな風にしたいだろう。なんて妄想を膨らませながら螺旋階段を降りていると、ふと疑問が湧いてきた。


「畑で採れたモノを運ぶのに、この螺旋階段は不便じゃない?」


 今日の朝食もそうだけど、毎日新鮮な食材を提供してくれているのだから、屋敷で出されている食事は全て自給自足の地産地消で賄われているはず。


 畑で収穫したモノをこの狭い螺旋階段で運んでいるとすれば、とても手間と時間が掛かっているのではなかろうか。


 そんな素朴な疑問を受けたニアは、短い脚でピョンピョンと階段を降りながら答えてくれる。


「収穫物の搬入には食糧庫に繋がった専用の回廊を使うのニャ。畑や森で採ってきた食材は食糧庫で下処理と保管をしておいて、必要になったらそこから回廊でキッチンに運んで調理するのニャよ」


 ならばなぜその回廊を渡らないのかと聞くと、単に近道を通っているからとのこと。整備された回廊へ遠回りするよりも、少しでも近道になる薄暗い螺旋階段を通りたいのだそうだ。


「心配しなくても、収穫を終えたら食糧庫と回廊を見せてやるニャ。あんな場所を見たいだなんて、随分な冒険心を持ってるのニャね」


「なんだか理由が違ってるけど、冒険心があることは否定しないわ」


「まあその前に、収穫をがんばってもらうけど……、ニャ……?」


 畑へと出る扉を開いたニアが何を見たのか固まってしまった。いったいどうしたのかとわたしも畑を覗いてみるけど……、同じく固まってしまった。


「昨日までは、普通の畑だったわよね?」


「ニャン。一緒に水やりをしたから覚えてるニャ……、けど……」



 なんでこんなにたくさん育ってるの!?



 森の一部が開拓された小さな畑には見事な野菜が育っているのだが、驚くことに通常ではありえない数の彩りが並んでいる。


 特にスイカはわかりやすく、1つで抱えるほどの大きさを持つ実が同じ点に2つの実を付けているのだ。スイカのエリアには収まっているものの、これでもかと並べられた様は手狭にも感じてしまう。


 地上に出ているトマトも茎が折れないのが不思議なくらいに実っているので、スイカの法則に則れば2倍の量が成っていると思われた。


「食べても大丈夫なのかしら……、お腹の中でも増えていかないわよね……?」


「嫌な想像力を膨らませるんじゃニャイ……」


 まあ、立派すぎるほどに立派な育ちをしてくれたので、時期を逃す前に収穫してしまおう。採れすぎて困ることもないはずだからね……、たぶん。


 つやつやのトマトをもぎり次々と籠の中へ。1株に成った分を収穫するだけでもこの籠には収まりきらないが、籠を大きくしたところでわたしが運べないので、食糧庫へせっせと往復するしかない。


「食糧庫はここニャ……。時間がないから説明はニャしで……」


 畑のそばにあった屋敷への大扉が食糧庫に繋がっていて、中は広くて涼しい感じ。食糧庫の説明は以上。早く収穫を続けないとお昼に間に合わないからね。


「トマトは終わったよー」


「次はジャガイモを掘り返すニャ。……スイカは最後で」


 激しく同意する。1株あたり10個の大玉スイカが4株も……、こんなに欲張って植えた自分が憎らしいよ。こんなに重たいものを運んだら、それだけで体力が尽きそう。


「ニャ、ニャアアア!?」


 そうして力無く緑の化け物を見つめていると、ジャガイモを掘り返していたニアが驚愕の声を上げた。あまりにも嫌な予感がしてくるけど、現実から目を背けてはいけないのである。


「おぅ……、ジャガジャガ……」


 2ば~い2ば~い。もうどれが親芋なのやら。





 地を這いながらスイカを収めれば、これで収穫は終わりである。2人して食糧庫の隅にへばっていると、どこからともなく妖精の声(高笑い)が聞こえてきた。


「キャハハハ、収穫ご苦労さまねぇ」


 外からリーフェアがお腹を抱えて入ってきたが、彼女に構ってあげられるような体力は残されていない。


「ぶぅ~っ、反応がないとつまらな~い。……魔力を込めながら水やりなんてするからよ」


 わたし達の反応がもらえなくてリーフェアは頬を膨らませるけど、なんだか大事な単語が聞こえたようなので、そちらの方が気になってしまう。


「妖精の鱗粉がアナタの魔力に反応して効果が上がったみたいね。まあ「魔力なんて込めてない」って言うんでしょうけど、そんな状態だったらずっと苦労しちゃうわよ?」


「そんな状態ってどういうこと?」


 もしも今日のような不測の事態が頻繁に起こるとすれば是非とも対策しておきたいところだけど、わたしの状態とやらがわからないことには対策のしようがない。


 ここは、なけなしの体力を振り絞ってでも情報を聞き出したいところだ。


「アナタの魔力は常に外へ溢れ出てるってこと。……ダダ漏れね」


 王国でも貴重な魔力がダダ漏れとか、非常にもったいない!


「対価には魔力を貰おうとしてたんだけど、これじゃあ貰い放題なのかしら」


「どうすれば魔力を扱えるようになるの? ……できれば早く魔女っ子になりたいなぁ~、なんて」


 魔法技術を容易く教えてもらえるとは思ってないけど、もう1週間も経つし、そろそろ頃合いじゃないのかなぁ……、チラッ、チラッ。


「……ヒトの魔法技術なんて知らないからアタシには無理よ。詳しくはフェリクス様にでも頼んでみることね」


「あの人に頼むのか……、なんか不安だなぁ……」


 変な実験に付き合わされそうだし、そもそも教えてくれるかも疑わしい。


「お願いだけでもしてみようかしら。この野菜たちのことも相談したいし」


 でも、今日は疲れたから明日にしよう。まずは部屋に帰ることを目標にしなければ。


 ……もちろん回廊を使わせてくれるんだよね? 螺旋階段は登れないよ?



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