第七話 「かつての」
「はぁぁぁぁぁッッ!!!」
振りぬかれる黒刀。同時に、不意を突かれたからか【神装・漆黒冥闇】は勢いよく上に弾かれる。【神装・漆黒冥闇】が弾かれたことで、その刀身から際限なくあふれ出していた闇がぴたりと止まり、空は再び蒼く輝きだす。
真銘解放状態の【ドウジマ】の属性は闇。
幾らなんでも、と思ったがなんと、【ドウジマ】は神器である【神装・漆黒冥闇】と拮抗できるだけのパワーがあるらしい。
無論、こと武器に込められた力の総量において【神装・漆黒冥闇】を超える武器は、再構築で作り出せるそれしかない。
だが、【ドウジマ】は余程質のいい刀なのだろう。空を覆うほどの闇は出せずとも局所的に、剣と剣が触れ合うその一点でのみ、拮抗するだけの力を持っていた。
瞬間火力だけとはいえ神器に匹敵する刀──何故そんなものをアヤトさんが持っているのかは、知らないが。
「大丈夫か!? なんか不穏な感じだったんですっ飛んできたんだが!」
「い、いえ……僕は大丈夫で──ッ!!」
僕の安否を確認するために振り向いたアヤトさん。
ホッとするのもつかの間、団長がその背後に音もなく迫り大剣を振り上げている。
「アヤトさん避けてッ!!」
「なぁっ……!?」
僕に気を取られたのがいけなかったのか、アヤトさんが回避行動に移ろうとしたときには最早手遅れ。
数瞬後、アヤトさんの体が両断される光景が目に浮かび、背筋が凍った。
「【神装──くっ!」
アヤトさんを護ろうと【神装・極聖神殿】を起動させようとするも、神器と言えど際限もなくその強大な力が振るえるわけではない。起動に必要な精神力も既に尽きていたようで、僕はせめてアヤトさんをかばおうと身を乗り出し、瞬間。
まるで掲げた大剣が避雷針であったかの如く。団長の元に神速の雷が落ちる。
「なぁっ!?」
「っしゃぁ! ナイスナナ!!」
驚きのあまりに間抜けな声を上げる僕と対照的に、アヤトさんは待ってましたと言わんばかりに拳をぐっと握りしめる。
至近距離の僕達に当てない正確な魔力制御。落雷をすら魔法で起こしてしまう、サリアさんすら凌駕しかねない常識外れの魔法力。
成程、コロシアムの時に素早く倒してしまったのは大正解だったらしい。
「…………ふん」
空気が放電し、強力無比な雷の残滓を残している中、団長は何でもないように相も変わらずそこに憮然と佇んでいる。
流石の団長殿と言えど落雷を回避するのは不可能だったようだが、ダメージを負った様子はない。
恐らく、落雷を見てから咄嗟に体内に魔力を張り巡らせ、その魔力を防壁にして身体にダメージを通させなかったのだろう。
落雷見てからガード余裕でしたとか小足見てからガードするよりとんでもない筈だが、団長はそれくらいの理不尽、当然のようにやってくる。人一人消し炭にする程の魔法を当たり前に只の魔力で相殺するというのも、十分どうかしているが。
「まじかよ……強いとは思ったんでナナには全力でぶっ放すよう頼んどいたんだけどな……!」
「……アヤトさん、引いてください。一応決闘の体裁を取っていたので彼──ゴルドルフは手を出してきませんでしたが、彼が手を出すとなると流石に四対ニでも相手が悪すぎます」
「いや、そっちは大丈夫だ。まだ一人、姿も見せてないのがいるだろ?」
にやりと笑うアヤトさん。
その言葉を聞いて、はっとゴルドルフの方に視線を向ける。
険しい表情で今まさにこちらに踏み込んでくるゴルドルフ。
変化があったのは、その影だ。
ぐにゃり、と。
影が歪む。
影から何かが生えてくる。
それは、腕だ。
その手にはクナイが握られており、振るわれた腕は正確にゴルドルフの足部の鎧の関節部を潜り抜けるような軌道で、その腱を刈り取りにかかる──!
「!? ────ッ!」
ゴルドルフはその身に脅威が迫るのに勘付いたらしく、素早く足を逃がす。が、避けきれはしなかったようでクナイはゴルドルフの脚甲を浅く切り裂いた。
「……とんでもないですね。ゴルドルフに傷までつけるのか……」
ゴルドルフとて日陽副騎士団長。並みの実力者ではないのだが、カムイさんは追撃を仕掛け、ゴルドルフと絡め手を用いながらもゴルドルフと対等に渡り合っている。
あの時勝てたのが奇跡と思える。
御互いに本気であっても全力ではなかったからか。
今闘ったら流石に負けるだろう。
「絡め手まで使わせたら一対一であいつに勝てるやつはそうはいないよ。もちろん絶対じゃねえけど──ってなわけで、あっちはカムイに任せてこっちはこっちでなんとかしねえとな」
「……了解です……っ!」
アヤトさんと肩を並べ、剣を構える。
かつて戦ったライバル同士。
少し会わない間に格段に頼もしくなったその姿に、僕は安心して背中を任せた。




